ゲームとは、進化するものだ
「明日の夕飯は早いからなー! 早めに捕まってこいよー!」
「うぃー」
「明日のご飯はなんでしょうね、皆さん」
「出来ればワンナイト外泊したいところだけどね」
今日も変わらず三者三様の返事をして出所……?
あれ、1人足りなくね?
「……貴方達いつもこんな挨拶をしていらっしゃるんですの?」
怪訝そうな目でこちらを見つめるヨーコ様。
ん?おかしなとこあったかな。
「ヨーコさん、牢屋で夜ご飯を食べるのは当たり前ですよ?」
「黙らっしゃい! 貴女が諸悪の根源の一人だとは顔を見るまでわからなかったワタクシは恥ずかしいのです! これ以上ワタクシを惑わさないでくださる!?」
「……そうですかー、じゃあ仕方ないですねー」
エトワールちゃんは心底残念そうな顔でそそくさと俺の後ろに隠れた。ああ、マウント取ってるのかと思ったけどこれ俺らに何か言われる前に予防線貼ってたんだなこいつ。偉いじゃん、尊敬する。
「つーわけで、俺が続けさせてもらうけどよ」
「なんですの……納得行くまで顔面殴るとか仰るおつもりで?」
いやいやそんな酷いことしないわ。
「顔はいいから歪むの見たくないんで、やるなら腹」
「暴力を振るうなと言ってるんですのよ!?」
お前もエトワールちゃんの系譜か!? 耳元でキャンキャン騒ぐなと言ってるだろうが! 頭に響くんだよ!
「だいたいワタクシ以外誰もおかしいと感じておりませんの!? なんで牢屋から出て二度と戻ってくるなよ! ではなく、早く捕まってこいよ! と言われるんですの!?」
「気づいたら捕まるんだ」
「私は、マスターから離れられないので……」
「僕も親友と同じかな。目が覚めたら牢屋に居ることが多くてね」
「非常識!!!」
ヨーコ様、マジで1度切れると止まらないのやばいよな。昨日からずっとこんな調子だけど、これでよく姫プ出来たな……それとも化けの皮が厚いのかね。
「ねえねえ、僕妙案が思いついたんだけど」
「お、なんだ言ってみ?」
「ここ最近のヒカルさんは打率高いですから、私はそれに乗りますよ」
そう言って、ヒカルの周りに集まる俺達。ふむふむ、なるほど……ああ、行けっかもな。
じゃあ、みんなで横に並んでっと。
せーの。
「「「やっぱりシャバの空気は最高だなぁ!(ですねぇ!)」」」
「!?」
あー、スカッとするスカッとする。これをやるのとやらないのとでは、身体のパフォーマンスが5割は違うんだよなぁ。
「……な、なんですのそれ?」
お、気になる? 気になっちゃう? しょうがないなぁ、そんな興味津々って目で見られたら答えてあげなきゃ男が廃る!
「これは魔法の言葉、さ……」
「魔法の言葉……」
ゴクリ、と喉を鳴らす音が聞こえる。
「そう、これはどんなに嫌なことでもスカッとする魔法の言葉……」
「何やらされてるのか全く分からない時にでも」
「女の子が全く捕まらない時も」
「「「これを口に出せば、上手くいく」」」
「そ、それがさっきの皆さんが言っていた……!」
ヨーコ様なんか劇場型だからこういう体のいい言葉で取り繕ってやると面白いぐらいにポンポンひっかかるの凄いわ。学習能力欠如してんのか?
「さあ、復唱してみろ。『やっぱりシャバの空気は最高だなぁ!』」
「や、やっぱりシャバの空気は最高ですわ……」
「声が足りん!」
「や、やっぱりシャバの空気は最高ですわぁ!」
「勢いが足りん!」
「やっぱり、シャバの空気は最高ですわぁぁぁ!!!!!」
白い肌を赤く上気させながら、叫びきったヨーコ様。果たして、その御機嫌は?
「あっ、何だか心がスーッとしてきましたわ!?これが魔法の言葉……!!!」
「うわチョッロ」
「マスター、めっ!」
エトワールちゃんに怒られちゃった。でも彼女多分ビタミン剤でガン治るぜ?
「ふふっ、皆さん何してるんですの。早く行きますわよ!ワタクシの勇姿を見せてやりますわぁ! おっーほっほっほっ!!!」
高笑いするヨーコ様に、キャラ濃すぎひん? 俺、霞んじゃいそう、と感じた。
◇◆◇◆◇
で、いつもの平原に来た訳だが。
「驚く程に魔物が現れませんわね」
「僕が居ると大通りに女の子が出てこないのと同じだね」
ヒカルゥ〜、悲しいこと言うなよぉ……涙が止まらなくなるだろ?
「マスター、私が説明しておきますから遊んできていいですよ」
「エトワールちゃん助かるぅ! ちょっと全殺ししてくるわ」
そう言って俺は駆けだした。さっきからチラチラ見てんの知ってんだぞ鹿ァ! お前一番生き汚いから嫌いなんだよォ!
「さて、という風にマスターがいると弱い魔物は寄ってきません」
「全力で逃げていきますわね」
「あの猪まで逃げるんだ……」
最近は耐性ついてきたみたいですけどね。魔物の一種として認識してそうです。
「あっ、レベル上がった」
「これは……ずるではなくて?」
「マスターがああも全力で行かないと倒せないので労力としてはトントンですよ。昔は、一纏めに逃げてたんですけど今は分隊を組んで各々別方向に逃げるので難しいです……」
なんか知能の上がり幅が凄まじいんですよね?鹿なんてこの前わざと遠くまで逃げた後にギリギリの距離で出たり下がったりしてました。焦れたマスターが円盾を投擲しなかったらとてもうっとおしかったですね。
分隊……?と不思議そうにしているお二方は置いといて話をどんどん先に進めましょう。マスターの起こすことは半分程度真に受けてはならないのです。それが精神安定剤になるんです!
「で、マスターのジョブは戦士です。スキルはあまり武器に関わるものは取らないようにしているみたいです」
「盾や鎚ぐらいは取っているのではなくて?」
「それが、『PSで何とかなる部分はいらん。3段ジャンプとか欲しい』との事でした。ステータスもSTRとAGIガン上げですね。DEXは同じ理由、DEFは当たらなければいいだろらしいです」
「清々しいまでの脳筋だね、彼。実際に結構強いけど初期組に張り合えるのかな?」
見たことないから何とも……あっ、鹿が骨バッキバキでくるくる回転してはねあげられた。
「じゃあ、次は僕かな。僕はLUCだけ上げてる」
「あ、理由わかりましたよ」
「奇遇ですね、ワタクシもです」
女の子と出会う確率をあげるためでしょうね……聞くまでもありません。
「えー、あとはジョブが剣士」
「ヒカルさんは毒針でも持てばいいんじゃないですか?」
「語るに落ちましたわ」
剣使ったらカッコイイ以外に何があるんですか?
「そういうヨーコちゃんは、姫プレイで弱いんじゃないのー?」
「ふふ、舐めないでくださいまし! ワタクシちゃんと遊んでいましてよ!」
そう高らかに宣言したあと、その豊満な胸を更に張りながら言った発言が。
「ワタクシ、戦術士ですの!」
一番まともな戦力マスターだけなのやばいのでは?
「戦術士って何?」
ああ、ドマイナー職業だからヒカルさんが知らないっ! ヨーコさんを傷つけないように、そっと教えなきゃ……。
「あのですね、戦術士っていうのは……味方にバフをかけたり、敵にデバフをかけたりするスキルを事前にセットしておかないと行けない職業なんですよ……」
「それって悪いことなの?」
「普通にバフをかけるならヒーラー職でいいです。デバフは呪術師系統……本当に使うのはドマゾしかいないレベルの可哀想な職業です」
「ふーん、やっぱりヨーコちゃん馬鹿なんだね!」
「そうですね……」
マスター助けて! 私じゃ捌ききれない!
「エトワールちゃん呼んだ?」
!? なんでこういう困った時にちゃんと来てくれるんですかこのっ! このっ! と思ったけど素直に助けを求める私。
「はいぃ! 助けてくださいマスター!」
今までの経緯を少し説明した。
すると、マスターびっくりするようなことを言い出しました。
「戦術士いいじゃん」
「ですわよね!? わかってくれる人が全く居なくて困っていたのですわ!」
肯定されたヨーコさんが髪を振り乱して喜ぶ。なんでしたっけ……あまりの振り乱しように貞子……みたいな感じになってます。
そして、マスターを狂人だと思ったことは何度もあれどゲームに関しては真面目だったから、ちょっとびっくりしてる。本気ですか?
「エトワールちゃんって敵の場所とか種類とか状態とか分かるんだよね」
ん? 私ですか?
「しかもそれ、みんな共有できるようにもなったんだわ」
ああ、頑張りましたねそういえば。
「だから出てくる敵みて、ヨーコ様が、敵を柔らかくして遅くして、俺を強く速くして、後全部引轢き殺せば良くね?」
マスターいつの間に人間辞めて重戦車か何かになったんですか?
クズ、制御不可能な兵器はタブーですよ。
ステータスは飾り。
戦術士は成長すると、軍師になります。ヨーコ様は諸葛亮孔明と、人が自分の下にいるのが大好きなので将来性を考慮してこうなりました。