ゲームとは、貢ぎが大事だ
そうして、俺達は順調に犯罪を犯し、牢屋にぶち込まれる生活を毎日繰り返した。溜まったカルマもぶち込まれる度にリセットされるから問題なく日常を過ごしている。奇行をしても元々『客人』はそういうものだと思われてるらしい。先人達に感謝感謝!!!
問題が起きたのは、エトワールちゃんが自分から牢屋に帰り出したある日の事だった。
あのヒカルが片腕がもぎとられた状態になってぶち込まれたのだ。
「な、何があったんだヒカルゥー!」
俺は鉄格子に掴みかかって叫んだ。
毎日来るから色んな看守さん達に顔を覚えられた俺達はそれなりに良くしてもらっていたが、その恩を仇で返すことになるとは思わなかった。
「それが司法のやることかーっ! ヒカルは、ヒカルはまだそんなに悪いやつじゃなかっただろ! そんな奴にこの仕打ち……! お前ら人間じゃねえよ!」
ブチ切れる俺に看守さんが慌てふためく。
「お、落ち着け、アルバート! 俺達がやったんじゃない! 通報された場所に行ってみればヒカルがこんな状態で投げ出されていたんだ……!」
「なにぃ? ってことはよぉ! ヒカルをこんなことにしてくれた輩がいるってことかぁ!? 俺達ぶち込んでる場合かよ看守さん!」
感情的になっている俺は今まで気づかなかった……看守さんも唇を噛み締め血が流れていたことを。
「分かってる! ヒカルは、ヒカルは! 確かに女に手を出す性欲の塊みたいな男だったが、その女の胸を揉むための手を奪われていいような男じゃない!」
「か、看守さん……」
看守さんの熱い想いに胸撃たれていると……ヒカルが意識を取り戻した……。
「はは、やだなぁ。胸なんて片手あれば揉み放題ですよ……」
「「ヒカル……!」」
そして、親友はそれだけ言うと意識を失い、そのまま牢屋の鉄格子の中から腕が元通りになった状態でもう一度現れた。
今、あのヒカルは死んだのだ。俺は親友のために動く男だ。絶対にその下手人……俺の手で殺してみせる!
「因果応報って言葉知らないんですか?」
エトワールちゃん随分と牢屋で寛いでるね、どこから出したんだいその紅茶。
◇◆◇◆◇
俺達は、早速聞き取り調査を始めた。
まずは被害者のヒカルからだったが、そこで衝撃の事実が判明した。
「僕お金が欲しくて、腕を自分から売ったんです」
俺は絶句した。そして、そんな重大な悩みを抱えた親友に気づいてやれなかった己を恥じた。
「今、ちょっと狙ってる子がいるんですけど。その子があれ欲しいなーこれ欲しいなーって言うからどんどん買ってあげてたらお金が無くなってしまって……」
「たまには我慢しろって言ってみたら良かったんじゃないか?」
看守さんも今日は見張りなんてほっといてヒカルの話を聞いてくれている。本当にいい人だ。
「それがですね……彼女を狙ってる子は何人もいて……何かある度に彼はいくらいくらの物買ってくれたんだけどなぁって言われるんですよ! そんなの聞かされたら僕は……買ってあげるしかないじゃないですか!」
ヒカルのその言葉を聞いて思わず呟いた。
「姫プレイ……!」
「……姫プレイってなんですか、マスター」
エトワールちゃんが知らない言葉に食いついてきた。知識欲の化け物か?
「姫プレイってのはな……可愛い女の子を演出してたくさんの男、囲いって言うんだが、そいつらから金目のものや値打ちのあるものを根こそぎ巻き上げる恐ろしい腹黒女だ」
「うぇ、そんな人居るんですか?」
ドン引きするエトワールちゃん。びっくりするよなぁ、でもこれマジなんだよなぁ。
「居る、山ほどな。しかも、それはゲームだけに限らずリアルでもだ! リアルだと多数の男と付き合って、本命以外からのプレゼントは全部質に流して本命とのデート資金にするって奴もいる!」
「『リアル』……恐ろしいところだ。アルバートもヒカルも日々そんな所で暮らしているのか?」
看守さんがめっちゃビビってる。そりゃ怖いよね、人間社会って弱者を食い物にして回ってくから。
「ああ、だからマスター達みたいなのが生まれるんですね……」
エトワールちゃん鉄格子越しだと手が出せないと思って、好き放題言ってたらいつか酷い目に合わせるからな。と考えていると、ヒカルが血涙を流しながら床を叩き出した。
「僕は……僕は……そんなクソみたいな掃き溜め女に腕を……!」
「落ち着け、ヒカル。仕方ないことだ、お前は女性経験が極端に少なかった。それ故に見破れるものも見破れなかった……ただ、それだけの話だ」
「仕方がない!? 僕の腕はそんな風に切り捨てていものじゃないんだ! 両手でおっぱいを揉むための腕が片手でしか揉めなかったんだぞ!」
鉄格子に掴みかかるヒカル。お前、もしかして俺の役割を忘れてんのか? 困った坊ちゃんだ。なら今一度俺の仕事を教えてやろう。
「おい、俺もな。何もこの程度で手打ちにして泣き寝入りしようなんて思ってねえよ」
「!?」
「俺は……悪人を殺すPKだぜ……?」
「ま、まさか!」
「そうさ、お前に泥塗ったそのクソッタレ女には身をもって死を……プレゼントしてやるのさ……」
「親友!」
鉄格子越しには抱き合えない俺達、しかし心は通じあってる。だから、いつもの合図サムズアップをした。
お前の仇は俺が討ってやる。
クズは人の怒りには人一倍敏感であった。