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ゲームとは、唯一無二の親友ができるところだ

 

「一日に三人も牢屋にぶち込むことになるとは思わなかったぞ、脱走したりしないで大人しくするんだ。そしたら明日には出してやる」



「はーい」



「ご迷惑かけてすいません……」



「そういう仕組みなんだ!」



 看守さんに三者三様の返事を返す俺達。


 上から、俺、エトワール、ヒカルだ。


 そう、あの出会い厨ヒカルって名前だった。マジモンの出会い厨だったようで実名登録ガンギマリ野郎だった。




「僕、世界中の女の子と仲良くしたいんだよね」




 牢屋にぶち込まれたのも何かの縁、こんなやつと縁を結びたくないが如何せん暇なんでちょっとだけ話してみることにするとそんなことを言い出した。


 最初は何だこの野郎やっぱヤバいやつだなと思ってたんだが……だんだん話を聞くうちになんだかもしかして良い奴なんじゃないかと思いだした。


 ヒカルは結構きつい人生を歩んできたらしく、イケメンだというのにちょっとした家庭のいざこざで顔にお湯をぶっかけられてしまい重度な火傷を負っているという重いエピソードまで聞かされた。



 それを聞かされた時、俺は思わず泣いてしまった。



「そんな酷い話があってたまるかよ……!」



 だってそうだろう!? 生まれた時にしか持ってこれない唯一無二のギフトをそんな……そんな、簡単に奪われるなんて!


 そりゃこっちで顔を綺麗にして出会おうとするよ! リアルだと顔を見て逃げられるからいつもフードを被って生活してるなんて聞いた時にはもう涙が止まらなかった!



「だからね、僕はこの世界ではいっぱい女の子と仲良くなってできればリアルでもいい関係になりたいんだ」



「そうだなぁ! そうだ、そうだ! それはお前だけに認められた権利だよ!」



「分かってくれるのかい……アルバート……!」



「もちろんだとも、親友!」



 そう言うとヒカルはキョトンとした顔で。



「人生で初めて親友なんて呼ばれた……え、僕達はもう友達なのかい?」



「そりゃあそうさ! 同じ所(牢屋)で寝泊まりして同じ釜の飯(獄中食)を食えば誰だって友達さ!」



「そうか! これが同じ釜の飯を食うっていうことなんだねありがとう親友、またひとつ賢くなれたよ!」



 俺達は鉄格子越しにサムズアップして友情を交わした。最高の友達だ。




「クズはクズに惹かれ合う……!」



 何ブツブツ言ってんだエトワールちゃん。






 ◇◆◇◆◇






 それから俺達2人は寝る間も惜しんで会話に勤しんだ。




「ヒカルはゲーム初心者だったのか。じゃあまだ狩りとか行ってない感じ?」



「うん、ちょっと個室でお話した子が未成年でね。通報食らったみたいなんだ」



「そりゃあダメだろお前、未成年は一番数が多いけどリスキーだぜ。やるなら後腐れのない社会人とかにしとけ」



「んー、そういうのってどう見極めるんだい?」



「まあ、ログイン時間だな。日付過ぎる少し前から過ぎて少し経ったあたりにいるのは多分社会人だ。流石に4時とかはいねえと思うけど」



「えー、でもログイン時間分かりずらくない? 今だってゲーム内では夜だけどあっち15時じゃなかったっけ?」



「3倍速採用してるからな。こっちで3時間でようやくあっちの1時間だ」



「それで時間見ろって言われてもなぁ?」



「ヒカル、ちょっと動き止めて目線を左上に集中してみろ」



「ん……? うわ、時計出てきた。上がこっちで下がリアルの日付と時間じゃん! こんなの知らなかった!」



「言われなきゃわかんねえよなぁ、それ。上手く使えよ」



「助かったよ、親友!」




 という風な和気あいあいとした会話から……。




「やっぱり女性の魅力って胸だよね……」



「いいや、俺はシチュエーションだ」



「ええ? それって顔が不細工でもいいの?」



「ヒカルゥ〜こういう時に不細工談義持ち込むのはなしっこだぜ」



「ブス専ならいいかもね」



「需要と供給噛み合ってねえけどなぁ」



 といった下世話な話まで実に様々な話をした。話していた時間はたったの8時間程度だが、一生分話したような……そんな気がした。




 そして、夜が開けた!




「おっ、大人しくしてたな。偉いぞ、もう来るなよ」



 看守さんに連れられて牢屋から追い出される。朝日が眩しいぜ!



「善処するわ」



「そこは嘘でもはいっ! って言ってください!」



「僕は、自分に嘘をつきたくない!」



 と、またも三者三様の返事を返し出所した。




 さてと、朝の挨拶やっとくか。




「やっぱシャバの空気は最高だなぁー!」



「なんだい、それ」



「牢屋から出た時に言うお決まりの言葉だよ、言ってみ? スカッとするから」



 ヒカルはちょっとふーん、と言ってから同じように大声で言ってみた。




「やっぱシャバの空気は最高だなぁー!」



 すると、少しだけウンウンとうなづいてから。



「凄いね、アルバート。これは凄いよ、鬱屈とした気分が晴れ晴れとしてきた」



「だろぉ〜? 今後もお世話になるかもしれないからちゃんと覚えとけよ?」



「うんっ! ありがとう!」



 そして、俺達は別々の道を歩き出した。




「しゃ、シャバの空気は最高だなぁ……」



「おい、何やってんだエトワールちゃん。置いてくぞ」



「すぐ置いてこうとするぅ! なんなんですか!? 話が違いますよ!」



 またキャンキャンと……耳元で騒ぐなっ!



「それにしても、良かったんですか? あんなに仲良くなったのに別れちゃって」



「ん?」



 あー、エトワールちゃんにはまだこの感情は分からないのか。じゃあ先達として教えてやろう。




「あのな、親友ってのは離れてても親友なんだよ……それに」



「それに?」




「あいつとはすぐにまた、会えそうな気がする」



「なんだかロマンチックですね!マスター!」




 そう、恋の風が言っているような気がした。




 クズ、また牢屋で会えますよ。


私が面白いと思って作ったものに、面白いと思っていただけたなら幸いです。

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