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ゲームとは、敵を倒すことだ

 

 泣き虫ちゃんをいっぱい泣かせてようやく辿り着いたフィールド。


 俺達はお互いにもうボロボロだった。



「一戦……一戦やったら今日はもう帰ろう」



「同感です。珍しく気が合いましたね、マスター……私達もしかして似てるのかな……」



「そりゃ俺の『STELLA(ステラ)』だし……」



 盗品だから関係ない? 良いんだよ、エモいこと言ってけー!



 というわけで辺りを警戒しながら歩いている訳なのだが。



「いないな」



「いないですね」



 おっかしいな。もしかして全部狩られてる? そりゃアプデ初日の初心者で溢れ返ってるからなぁ。出遅れたか、これ。



「なぁ、辺りの魔物とか探せん?」



 なんとなしに聞いてみたけど泣き虫ちゃんはぱっと答えてきた。



「できますよ? 私意外と色々できるみたいです、知らなかったなぁ」



 そりゃナビゲーターしかしてこなかったもんな。どんどん有能アピールしていけ。



「えーっと、そこ真っ直ぐ行ってちょっと先です」



「了解、走れる?」



「流石に無理です」



 置きざりにして俺だけ殴ってくる……いやいや、その間にもし襲われたらたまったもんじゃない。冷静になって考えると、一つ大事な能力投げ捨ててんだ。気軽に扱うのは良くない。


 というわけで。二人でゆっくりと忍びながら歩みよっていくと。



「距離縮まらないんだが」



「あれ、全力で逃げてますね。それに、魔物自体は結構いるのにマスターには全く近寄ってきてませんよ」



 何でだ……? カルマって魔物にも影響すんの? それクソゲーじゃね? 魔物が悪党にビビってんな! 腰抜けさんかぁ?



「あっ」



 すると、じっと魔物を見つめていた(仮)が何かに気づいたようだ。



「マスター……言いづらいんですけど……」



 ちっ、マジでカルマ影響してんのかもなこれ……。どうしよう、キャラデリか?



「恐慌って状態異常ついてます。魔物に」



「は? 何それ」



「気味の悪い化け物を見たことで、くっつく状態異常ですね。多分見た目やばいから逃げてますよあれ」



 ほーん。


 OKOK、分かった。俺賢いからな。よーく分かりましたとも。泣き虫ちゃんの肩をぽんと叩く。



「ごめんな、ちょっと置いてくわ」



「え! 待ってくださいマスター、ごめんなさい! 私が悪かったです! 捨てないでっ!?」



「あー、いいっていいってそういうの。すぐ戻っから」



 そう、すぐ。すぐにな。



 あれ血祭りにあげた後によォ!!!






 ◇◆◇◆◇







 スモールディアはこの近辺に住む可愛らしい魔物である。その性質は穏やかで人間様に狩られるために生まれてきたかのような打たれ弱さまで持っている生物ヒエラルキーの最下位だ。



 しかし、この日だけは違った。



 スモールディアにも熱い魂が残っていた。それはあの鉄の筋肉ダルマを見た時に燃え盛った。


 決してあれに捕まってはならぬ、と。心の奥底から叫び声が上がっている。


 なんなのだアレは、アレはあの普段同族を殺して連れ帰る人間と同じ生き物なのか?


 そんなわけがあってたまるか! あんな、形容しがたい化け物が! この世に何匹もいてたまるか!


 近づいてくることはわかっていた。その度に遠くへ、遠くへと逃げていた。同族もそれに気づき、自分と同じく逃げていた。


 さらには、この近辺を我が物顔で歩く猪や死体を食い散らかす鳥畜生、鈍重な癖に何よりタチの悪い粘菌共まで必死になって逃げていた。


 今、ようやく自分達は生命として一体になった。それは何より誇るべきことなのかもしれない、原因が化け物から逃げているということでも。



 その一体感が何故か崩れ出した。



 最初は鳥だった。



 丸いよく分からない鉄が突然飛んできたと思ったら奴らは真っ二つになったり、その翼をへし折られたりしながらぼとぼとと落ちていく。



 次は粘菌だった。



 足の遅い奴らは決死の覚悟で何かに向かっていった。けれど、張り付いて体に忍び込む前に次々と核を潰されて息を失っていった。



 嘘だ、嘘だ。あの二種族が手も足も出ないまま死んでいくなんて。


 おかしい、何かがおかしい。自分達は間違いなく、あの化け物から追いつかれない速度で逃げていたはずだ。それがこんなことになるなんて、もしかして本当に化け物は何匹も……と軽率に振り返ってしまった。



 すると、そこにいたのは。



 二足で走っているのに自分達より早く。



 その腕には鉄の塊を持っているというのに軽々と投げ、掴み。



 鈍重そうな見た目の癖に目にも止まらぬほど早く動き。



 極めつけには、粘菌が体を広げるかのように気持ちの悪い身体の動かし方をする化け物がいた。



 吐きそうだった。化け物化け物と思っていたがこれほどまでとは。


 ついに猪が自分の土地だ! そのプライドを奪われてなるものかと突貫した。



 だが、それをあろうことか! 片手に持った鉄の塊で叩きつけることで受け止め!


 そのまま先端だけ鉄の塊の棒で何度も何度も脳天をぶん殴っていた!



 そして、あの主と呼ばれることもある猪が瞬く間に血塗れになり、動かなくなった。


 嘘だ、嘘だ! あの猪までもが死ぬのか! どうなっているんだ!



 だが、距離は取れている。このまま逃げ切れるはずだ。猪の犠牲は忘れない。自分だけでも生き延びてみせる!



 そうして、自分は丸い鉄の塊に首を引きちぎられた。






 ◇◆◇◆◇






「人のこと化け物呼ばわりとは舐めとんのか魔物共!」



 スッキリした。紛うことなき全殺しである。結構な経験値や熟練度になった。一纏めで逃げてくれたから結構助かったわ! 二度と許さん。



「さーて、と。(仮)の所戻って帰るか」



 ステータスとかレベルとか弄りながら帰ると少し遅くなったが、ちゃんと(仮)は生きていた。生きていたが。



「また泣いとるやん」



「そりゃあそうですよ……ぐすっ。ちゃんと守るって言ったのに……置いてって……悪いこと言ったって謝ったのに置いてって。連れてってくれてもいいのになぁ……すぐって言ってたしすぐ戻ってくるよね! とか思ってたのに全然戻ってこなくて……」



 連れてくと片手塞がるからキツイんだよね。俺の戦闘スタイルは両手に武器持って選択肢増やすことなのよ。なんのために盾選んだって投げられる武器だからだし。単純に鈍器の方が刃こぼれとかなくて使いやすいんだわマジで。



 けれど、俺が悪いからここは謝ります。謝れるのがまともな人間だからな。



「悪い悪い。ちょっとイラついてて」



「イラついてて血塗れになって帰ってくるマスターになんで私は攫われてしまったんでしょう、可哀想ですね……名前もないし」



 おっと、調子に乗ってんねえ? こいつはおしおきするしかない……問題にならない範囲で。



 となると。



「……えっ。ちょっと急になんで私を肩車したんですか。ここはもっと誠心誠意謝る部分では?迷惑かけてごめんなさい、これからはちゃんと心を入れ替えて貴女のために頑張りますって地面に足ついて言う場面では?」



「アルバート特急に一名様ごあんなーい!!!」



 元々、STRとAGIに振ってたんだけどさっきみたいなこと増えんのかなぁ? ってさっきの戦闘で得られたステータス7割AGIに振ったんだよね。どうなってるかちょっと見物だよね。



 さて、と……。



「お口を閉じなきゃ舌噛むぜ!」



「まっまっまってくださいよぉぉぉ!!!」






 ◇◆◇◆◇






 元気のいいアルバート特急だったが、街に着くとそのまま車庫に入れられた。



 なんかジメジメしてて鉄格子ついてるけどな!



 死んだ目で(仮)が呟く。



「これろうやっていうんですね。わたしはじめてはいりました」



「キンモチのおっさん、あいつがワシを殺したんじゃぁ! ってめっちゃ叫んでて面白かったな」



「はんせいしてない」



 そりゃ別にゲームシステムが許してんだからなぁ。ぶっ殺された上に、罰金取られて素寒貧だけどな、ははは!



 ああ、そういや。



「もっと強くなれば、ああいう衛兵にも勝てるんだぜ。強くなろうな、エトワール」



「こっかけんりょくにさからうのいくない……? 今なんて言いました?」



「強くなろうな」



「もう少し次!」



「エトワール」



 鉄格子越しに頭を何度も傾げ出す、(仮)……エトワール。まあ、STELLA、ステラ、星の言い換えだけどな。適当でもいい感じだろ。



「……ちゃんとつけられるじゃないですか」



「考えてたしな」



「……ありがとうございます」



 青髪をクルクルしながら照れくさそうにそう言うのを眺めて俺は満足気に頷いた。



 色々あったが、明日からもいっぱい遊ぼうぜ、エトワール。





「ああっ! 麗しいあの青髪の君! 僕といいことしないかい!?」



「てめえのせいで余韻最悪だろがクソッタレが!!!」





 クズはクズだからこそ、締まらない。



魔物より魔物らしい化け物(主人公)。

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