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ゲームとは、脱走イベントがあるものだ

割烹に書きましたが、2日にいっぺんにするかも……という話、ストックがあるうちは毎日乗せます。更新は19時にするかな……

 

「ァァァーーーッッッ!!!」


 俺の野太い奇声が響き渡る。相対するは女剣士。そう、俺は今、戦いの真っ只中にいた。


 さて、VRゲームにおける戦い……その真髄は勢い、俺はそう考えている。


 まだVR黎明期の頃には、脳の反応速度が速いものや現実でスポーツが得意なものが有利だ、といわれていた頃があるらしい。



 しかし、今の時代では古い考えである。


 そりゃあそうだろう。機械なんてのは日々成長・進歩・進化……その積み重ねの果てにある叡智の結晶だ。


 脳の反応速度なんてものは、ゲーム自体が補佐してくれる。スポーツ経験なんてものは、身体が動かせない人だって遊べるようなゲームの前には些細なものだ。


 なら一体何が差になるのか。それは躊躇しない、何がなんでもやるという意志……つまるところ“勢い”だ。


 お互いに人の頭をかち割ろうとした時、難しいことを頭で捏ねくり回すやつと真っ二つに割ることしか考えてないやつ。どちらが確実に殺れるか、そんなものは考えるまでもないだろう。



 だから、俺は絶対に躊躇しない。考えない。脳は全部たった一つのことだけに使え!


 そのためのスイッチ、何もかも人間性を投げ捨てるスイッチ……『奇声』をあげろっ!


 姿勢を低く低く獣のように沈み込ませ、全身のバネを弾けさせながら滑り込む。



「オァァァッッッ!!!!!」



 相手の足元から顎先を抉り飛ばすようなサマーソルト。そのまま追撃がてら左手の円盾を投げ付ける。



「こんなもの、効くとでも?」



 だが、全力を尽くしたとしても互いの差が埋められないのもまた、ゲームである。


 サマーソルトは片腕一つで受け止められ、円盾は適当に振るわれた長剣で切り伏せられる。


 圧倒的な実力、ここらで歩き回る連中になら簡単に決まるような技でもこの騎士にはまるで効かない。俺の渾身の一撃だとしても、この騎士にとっては水しぶきをかけられた程度。



 諦めてしまえ、こんな奴に勝てるわけが無い、そんな考えが頭をよぎる。



「シャァァァァッッッ!!!」



 だとしてもそれをねじ伏せる。余計なことは忘れてしまえ、これはゲームだ。引かなきゃ何かが失われる、そんな場所じゃあない。



 だから、いくらでも無理ができる。無茶ができる。


 鎚矛を横っ面に叩きつけようとする。そこに長剣の刃が打ち合わされる。



 立て直しがはええんだよ、クソッタレがっ!


 懐に仕込んだ礫を空いた左手で投げ付ける。顔面に吸い込まれるように飛んでいくそれは、寸前で軽く肌だけを切り裂くだけで民家の壁に穴を開けた。



「貴様の悪あがきなど、私には全く通用せん!」



 鍔迫り合いからの捻じ回すようなはね上げ。そして、飛んでいく鎚矛に気づいた瞬間には、身体がズレていく。


 ははは、なんも見えなかったぜ。肩から斜めに切り落とされた身体を眺めながら、徐々に人間性を取り戻していく。



「サイレント嬢ォ! 俺が死んでも、第2第3の俺が……!」



「その度に殺してやろう。安心して、死ね」






 ◇◆◇◆◇






「おっ、今日は俺がラストかー! オラッ! 賭け金払え!」



 死に戻りして、第一声がこれ。私のマスターは脳が狂ってるんでしょうか。私は殺されたことがないので分からないのですが……死ぬ時は相当痛いそうです。ぽんぽこ死んでる人達に言われると本当に痛いのか、全く信用できないですけれど。



「本当に戦っているんですの!? サマやってるんではなくて!?」



 ヨーコさんが頭を掻きむしりながら紙幣を向かいの牢屋に投げ入れる。わー、おこってるー。



「やってねーよ、こちとら気合い入れて囮やってんだぞ。むしろ、毎回武器壊れてる俺に対する経費だろこんなの!」



「その分ワタクシ達だって頑張っていますわ! 負けイベこなすだけの脳筋がよく言いますわ!」



 あーあー、また喧嘩してる……この二人、何かある度に喧嘩するんですよね。ヒカルさんに対してはお互いに息が合うのに、どうして相性が悪いんでしょう。同じ悪党でしょ、仲良くしてくださいよ。



「じゃあ今日の成果を発表しようよ。ヨーコちゃんも頑張ってるなら結果、見せようね」



 そのおかげでしょうか。ヒカルさんが何だかまとめ役になっているのは……勢いで頭を張れるマスターと知的なヨーコさんが使い物にならなくなれば当然でしょうけど。



 さて、脱走計画から数日。皆さんは、着々と計画を済ませていました。



 まず。



「俺の方は見たら、分かるな。サイレント嬢の足止めは一応順調だ。負けても戦うだけでしっかり経験が積んだことになるのは良ゲーだぜ」



 足止め担当、マスター。彼は私達の計画の邪魔となるサイレントという強敵や捕まえに来る権力から目を逸らす役割です。最初のうちは最速で牢屋に戻ってきて、五体投地で拗ねていましたが、今では一番イキイキしています。装備もコロコロ変わっていて……牢屋から出れないのにどうやって揃えているんでしょう……。



 次に。



「ふふっ、親友が頑張った分は僕も頑張らないとね。ちゃーんと、盗ってきたさ。これ明日には戻さないといけないから何とか真似してね、ヨーコちゃん」



 調達担当、ヒカルさん。彼はこの脱走計画のキーパーツ、牢屋の鍵や爆薬といった重要なアイテムを掻き集めてくる役割です。以前、職業は剣士と言っていましたが計画のために彼は自分のポリシーを少しだけ曲げ、盗賊に転職しました。これが天職でした。今まで女の子のためだけにあげていたLUCが功を奏し、次々と必要なものをかっぱらってくるヒカルさんに初めて私は尊敬の念を覚えました。



 次。



「脱走ルートについては万事抜かりなく。『客人(まろうど)』の方々からこちらに住まう私たちまで皆の行動パターンをしっかりと確認済みです。正直……私がやらなくてもいいことなんじゃないかと思いますけど」



 分析担当、私。私は本来「やりません」と断ってもいい立場でした。けれども私は巻き込まれています……だってマスターがぁ……「もう俺達一味の一人だと認識されてるから置いてくと大変な目に遭うぞ」と脅してくるんですぅ……自分なりに調べたら本当で頭を抱えました、私はまともなのにぃぃぃ!!!



 そして、最後に。



「……何にも進んでないと言ったら怒りますわよね?」



 計画担当、ヨーコさん。実は一番役に立ってない人です。



「それで俺にちゃんとやれとか言ってたんすかぁ? えぇ? どういう立場なのか分かってますか、ヨーコ様よォ……」



「ちょっとー。自分が一番いい計画を考えられる!っていうから任せたんだよー? 何も決まってないじゃんか」



 マスター達がブーブー文句を言い始めました。私もそれ、少し分かるなぁ……。



「筋肉ダルマと性欲モンスターがぁ……貴方達が全く使い物にならない頭だからワタクシが考えているんでしてよ!?」



 ヨーコさんもギャーギャー言い出し始めました。それも正しくはあるんですよね……。


 だってマスターなんて、「鍵さえ開けて壁はぶち破ればいけんやろ」と脳筋極まりないやつに。


 ヒカルさんは発案者のくせに、「トンネルとか作ればいけないかなぁ!?」と計画性ガバガバの案しか出せません。



 その結果。



 頭を回す仕事は私とヨーコさんに全部回ってきたという訳です。


 一応、なんとかヨーコさんも考えてはいるんです。けれどなまじ頭が回ってしまうからでしょうか、少しでも難しそうとなると没にしてしまうんです。


 三人で罵りあいをするのを横目に見ながら、私は不安でなりませんでした。



 たとえ脱走できても……どんな報いが待ってるんだろうなぁ……。




 クズ、因果応報は定番化。


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