Q.あなたにとって、ゲームとはなんですか?
5話ぐらいまで読んでいただけると合う合わないの判断がつくと思います。よろしくお願いします。
『STELLA・ORBIS』
VRゲームが世界中の人が気軽に遊べるようになってはや十数年。数多の良ゲー、クソゲー、神ゲーがごった返す空前のゲーム大流行の中でも一際輝く一番星がこいつだ。
ジャンルはVRMMO。売りは全世界同時接続、どこでも誰でも同じゲームが遊べる。しかも言語まで自動補正付き。さらには多数の趣味の人々が楽しめるように世界観も西洋、東洋、SF、スチームパンク、海洋物とまるで噛み合わなさそうなものたちを綺麗に一つにまとめてあり、その様相はまるでパッチワークのようだった。
そして、このゲームのキャッチコピー。
『世界の全てが、ここにある』
俺はそれを眺めながら、ようやくこの期待の新星を遊べることにワクワクしていた。
既にゲーム発売から1年。リアルの事情により残念ながら泣く泣く我慢していた俺だったが、ついに! ついにこの時を迎えたのだ!
「長い、長い道のりだった……!」
友人達からの楽しいぜ〜コールに始まり、ネットニュースはほとんどこれの話題ばかり。ゲームが好きでたまらねえ俺にとっては地獄よ。リアルなんて投げ捨ててこれを遊んでしまえればと何度思ったことか。
しかし、もうそんな思いはしなくていい! もう自由に遊んでいいんだ! 気分は懲役終わりのお勤め人だ。シャバの空気は最高だなぁ!
さて、俺がワクワクして止まない『STELLA・ORBIS』こと……“ステオビ”。このゲームはストーリーの進行が世界全体で共通されており、一人一人の物語で進んでいく昔のゲームとは違うらしい。
通称、“ワールドクエスト”。
そのワールドクエストは大枠として第1段階が終了したらしく、現在第2段階のアップデート中だ。最初の方のストーリーに乗り遅れたことは非常に悲しい、非常に……! 過去に戻れるなら自分の首根っこ掴んでゲームを遊ばせたいレベル。
だが、もうそれは過ぎた話……前を向くしかねえんだ、俺は! 不幸中の幸いにもアップデート後に直ぐにインすることはできるんだ。こっから爆速で楽しんでやる!
とりあえずキャラメイクだ!
◇◆◇◆◇
やべーのができた。
今回のゲームスタイルにちょっと寄せようとしたが、意図した訳じゃないんだ、そう、わざとじゃない。わざとじゃなかったら許されんのか!?ってよく聞かれるけど許されるでしょ。なんのために意図的って言葉あるんだよ、ぶっ殺すぞ。
それは置いといて。見た目を解説しよう。
頭には穴がいくつか空いたフルフェイスの兜。ごつい筋肉質の身体に肩からはマント。右手に鎚矛。左手に円盾。
これはさながら……。
「端的に言ってゴリアテだな」
自分の身体を客観的に見ながらそう呟く。ただ鎚矛と円盾が持ちたかっただけなのに……気づいたらスパルタ兵通り越してゴリアテになってた……怖……。
「オデ……国! 守る!」
「原典では侵略者では?」
マッチョポーズをとりながら叫んでいると、今まで無言で立ち尽くしていたナビゲーターAIが何やら全てを諦めたような顔でツッコミを入れてきた。
俺、そういう心のあるやり取り好きだよ。AIも進歩してるからか。最近では人間味の強い会話もできるようになっているらしい。科学ってすげー!
「本当にその姿でよろしいのですか……?」
時代の進歩に心撃たれていると、ナビゲーターちゃんが恐る恐る聞いてきた。どうしようかなぁ、ぶっちゃけどうでもいいんだよなぁ。よくリアルからかけ離れた格好にするし、これぐらいとんがってる方がゲームとしての楽しさ倍増するだろうし。
「んー、キャラメイクとかってこれ後からやり直せる感じ?」
質問に首を傾げるナビゲーターちゃん。
「課金アイテムは必要ですが、可能です。些か料金は高めですよ?」
「じゃあこのまま行くわ」
その言葉を聞いたナビゲーターちゃんは、心底引きつった顔を浮かべていて。
「本気で仰ってらっしゃる……?」
ははは、何を言う。
「勿論」
「狂人……!」
あっ、天を仰いだ。この子面白いな。
「……いいです。確かにそのような格好もひとつの楽しみ方でしょう。私が受け入れ難いからといって否定するのもよろしくはありません……!」
自分で完結してら、いい子やん。
「さて、あなたのお名前をお聞かせいただいても?」
「アルバート」
「一切悩みませんでしたね。参考までにお伺いしても?」
キャラの身体作ってる時もそうだったけど、割と色々聞いてくるなぁ。ま、大した理由じゃないし答えるが。
「いつもゲームだとこの名前なんだよ」
本名から取ってるんだよね。有田 飛鳥で“有るバード”ってな。シャレオツじゃね?
「そうですか……先程から思いましたが質問の意図については聞かないんですね」
「興味無いし」
街頭アンケートに答えてる気分だからなぁ、ぶっちゃけ。やかましくなってきたらそれ相応の対応するけど、頻度も多くないから別にって感じ。
「一応、聞かれていませんが重要なことなので言っておきますね。『STELLA』というシステムはご存知ですか?」
あー、あー。そういえばこのゲームの目玉の一つだっけ。実は、情報をあんまり見てなくてうろ覚えなんだよな。無い頭を捻り倒す。確か……。
「なんか自分だけの特殊な能力を持てるってやつだったかな。それとなんか関係あんの?」
「はい。『STELLA』はあなた方の固有パーソナリティから生み出される唯一無二の力です。私達の質問やご自身の行動。さらには未来への思いなど様々な要素を加味して創り出されるユニークなものですよ」
へー、面白そうじゃん。ちょっと気になってきたわ。
「なあなあ、その『STELLA』ってさ。自分でこれ欲しい!みたいなの決められんの?」
「一応、機能としては有ります。ただ……自動で生み出されるものに比べればかなり出力は落ちます。ご自身とのかみ合いが悪いことも多々ありますので」
「できることはできんのね。それ、やるとしたらどこまで決められんの? あと、ここでじゃなきゃダメなん?」
だんだんナビゲーターちゃんが訝しげな顔をしてきた。ごめんな、俺ちょっと今やりたいことあんのよ。
「……希望をお伺いして、メインサーバー側が判定を下しますね。ご自身で決める場合はキャラメイク中のみに限る、とのことです」
「よし、わかった。じゃあ君、俺の『STELLA』になってよ」
「!?」
ナビゲーターちゃんを指さしてそう宣ってみた。ここまで高性能なAIだとちょいとばかし興味が向いちゃったんだよなぁ! 俺が今からやろうとしてるプレイスタイルだとそこら辺難しい気がしてきて、ちょうど良かったんだ! 良いとこにいて助かったわ!
「ま、待ってください。何を言っているんですか、このゴリラ狂人! そんな狂った発言が通るわけないじゃないですか、辞めてくださいよ! 私がちょっと美人さんだからって、戦えないただのAIですよ!? 本当にアホなんですか!?」
ナビゲーターちゃんほんと面白いな。コロコロ表情変わって可愛いわ。
狼狽える彼女を眺めていると機械的な音声が響く。これがメインサーバーか……お宅の娘さんを俺にくれるかな?
『要求承認:アルバートの『STELLA』はナビゲーターAI:092型に決定しました』
「よっしゃぁぁぁい!!!!! お手軽会話AIゲットォ!」
「嘘ですよね!?」
「進行:これより初期スポーン地点の登録を行いますがご希望はありますか?』
うーん。
「別にランダムでいいぜ。こういうの選ばない方が面白いだろ」
俺がそう言っているのを他所に、ナビゲーターちゃんはフリーズしていた。ショックが大きすぎて止まるのやっぱすげー人間らしいよ。
『了解:それではアルバート様良いゲームライフを』
「おう、任せとけ。全力で楽しむわ!」
クズ、今世界に降り立たん。