第1幕 幼き少年の平和な一時
此処は南に有る大陸ソーチェ。
その大陸に存在する大きな大森林ベーレ大森林。
物語はその大森林の中に幾つも存在する小さな集落のうちの一つ、ウルフ族が生活している集落でまだ五歳ほどの小さな少年の物語。
さて、そんな小さな少年は今何をしているのか覗いてみましょう。
「よいっしょっと。」
今日の槇広いはこれぐらいで大丈夫かな?
小さな僕の腕の中には先程から拾っていた小さな枝が溢れんばかりに抱えられていた。
「ガウルー!そろそろ戻りましょう!」
「はーいお母さん!」
お母さんが僕の名前を呼びながらで家に帰る支度をしている。
気が付くと辺りが薄暗く、夜になろうとしていた。
お母さんの手には森で拾った木の実やキノコが沢山入った小さなカゴが握られていた。
「今日はいっぱい木の実取れたね。」
「そうね、そろそろ寒くなる季節だから森の木さんたちは私たちに冬を越す為の沢山のごはんを分けて下さってるのよ。だからちゃんとお礼をしないとバチが当たるわよ?」
「そうだねお母さん!森の木さん沢山の木の実をありがとうございます!」
僕は近くにある木に向かってお辞儀をする。
それを見ていたお母さんは嬉しそうに顔をほころばせ微笑んで僕を見ていた。
「さ、帰りましょうか。お父さんがおなかを空かせて待っているわ。」
「うん!」
僕はもう一度お辞儀をして家に向かって歩き出すのだった。
「ただいまー!」
「アナタ、今戻りましたわ。」
「おう!お帰り、今朝取れたイノシシの解体が終わったから今夜はイノシシの鍋にしようか。」
「やったー!」
僕は嬉しくてその場で槇をもっと飛び跳ねた。
「よかったわねガウル。さ、持っている槇を暖炉の傍に置いてきて手を洗ってきなさい。その間に夕食の準備をしちゃうから。」
「はーい、お母さん。」
僕は持っていた槇を暖炉の傍に置き家の裏手にある井戸に手を洗いに向かう。
井戸の傍には魔法石で作られた小さなランプが掛けられて夜でも安心して井戸の水を汲むことができる。
「冷たーい。」
近くの山からの雪解け水を貯めているのと寒くなってきてる事もあり井戸の水はすごく冷たかった。
槇広いで汚れた手を洗い家の中に戻ると香辛料が利いたいい匂いが鼻腔を擽る。
「洗ってきたよー。」
「偉いわねガウル。それじゃあ器を運んでもらえるかしら?お鍋さんがぐつぐつと騒いだら出来上がりだからもう少し待って頂戴ね。」
「はーい!」
木で出来た器をテーブルに運び並べる。
そしていつも座ってる椅子に座りごはんが出来るのをまだかまだかと待っているとお父さんが話しかけてきた。
「ガウル、お前ももう五歳だ。そろそろ簡単な狩りをしてみるか?」
「ふぇ?狩り?」
「そうだ、ウルフ族は五歳になれば立派な小さな狩人だ。どうだ、やってみるか?」
「やってみたーい!」
「そうか!なら今度俺が狩りに出かける時に一緒に行って野兎でも狩ってみるか!」
「うん!楽しみだなー。」
「あらあら、何二人で楽しそうなお話をしているのかしら?」
お父さんと狩りの約束の話しているとお母さんが熱々に湯気を出している鍋を持って会話にまざってくる。
「今度ねお父さんと狩りに行くお話をしていたの!」
「あら、ガウルもついに狩りをするのね。」
「うん!」
「そうなるとガウルも立派なウルフ族になるわね。」
「そうだな、ついこないだまではハイハイして弓を引くことも出来なかったのに子供は成長が早いな。」
「そうねあなた。」
お父さんとお母さんが暖かな眼差しで僕を見ながら昔を思い出して話はじめた。
そんな二人を見ていると僕も嬉しくなり笑顔で熱々のイノシシ鍋を食べながらお父さんとの狩りができる日を待ち遠しく思った。
「ガウル、もう夜遅いから寝なさい。」
「は~い……」
ごはんを食べ終えてウルフ文字を勉強してたらお母さんが声をかけてきた。
僕も眠くなってきたのか目をこすりながら気の抜けた返事をする。
自分の寝床に横になり目をつぶりながら早くお父さんと狩りに行ける日にならないかなと思っているとすぐに睡魔が襲ってきてそのまま眠りについた。
この時の僕はまだ心が幼かったと今でも思う。
二度とお父さんと狩りに行けなくなるとも考えず幼い心を弾ませていた僕にはこれから起こることなど想像もできるはずがなかった。
いや、誰も想像できるはずもない。
平和な日常が突然に壊れるなんて事を……




