007 現地文明への接触
007
「いいかフォルト、もう一回やるからよく見ておけよ」
「う、うん」
「ほらこれがお前が生まれ育った集落だ。今日の襲われた跡が見えるだろ」
「ええ……? これ誰が、どうやって書いた絵なの? 何で上からなの?」
「絵じゃない。映像だ。でこれを縮小すると、エリノール大森林だ。ここまではわかるだろ?」
「……」
「で、さらにカメラを引くと、大陸になる。何て名前だったっけ?」
「……ドルヴァン大陸。ねえ、これホントなの? 地図っていうのはエルフのモノ好きがものすごい長い時間かけて歩いて作ってるんだけど。ナニコレ。そしてココはドコ?」
「だから今見せたじゃないか。今俺らはエリノール大森林のずーっと空の上にいるんだ」
「……?」
『ジーク様。わかっててやってるでしょう。いきなりは無理ですって。何事も順序があります』
「うーん、タルクウィニアはすぐに理解してくれたんだけどな」
ここは宇宙要塞アウレーリアのブリッジだ。
モニターにはフォルトナータの故郷である惑星が映し出されている。
巨大な黒いドラゴンを討伐し、その死体を回収した俺達は、フォルトが気絶したためそのまま転移で艦へ帰投した。
「これが俺の馬車だよ。城と言ったほうがわかりやすいかな? フォルトの村にいた兵士達も帰って来てるよ」
「へえ。ジーク様の城って地味なのね。旅帰りのエルフから聞く貴族の城とはなんか違うわ」
「フォルトの荷物も届いているよ。部屋を用意してるから後で案内しよう」
説明はもうアウレーリアに任せよう。確実に俺より上手に教えられる。
「アウレーリア。艦の状況は?」
『申し訳ありません。想定より被害が大きかったようです。ライフラインは問題ありませんが、戦闘力は著しく低下しています。補給ができるまではまさに城でしかありません』
「ま、この星はまだ未開だし、近辺にも航宙軍のような存在はいない。のんびりもできないけど、慌てる必要もないかな」
俺が戦う力を手に入れられたのは幸いだったな。今度は俺がアウレーリアを守る番だ。
『しかし、これでは地中や海底深くの資源回収は難しくなりました』
「正攻法でいくしかないね。金を稼いで買うか、土地そのものを手に入れるかだ」
「ねえジーク様。あの黒い竜の死体ってって二頭ともこの城にあるんでしょ? 人間の町のギルドへ持って行けば、たぶん凄いお金になるわよ」
『今、まず打てる手はそれでしょうか』
「どちらにせよ情報収集からだな。どこの町が適当かなあ」
『フォルト、あなた達エルフが行っても危なくない町というのはどこかしら?』
お、それだわ。まずはそれで情報集めだな。
エンシェントエルフはコモンエルフよりも長命で、多種多様な学問を好み、とても研究熱心らしい。
魔法や生命の叡智を求め、蓄えている彼らを崇拝する人間は少なくない。
やはりエンシェントエルフの集落のあるエリノール大森林。
それがあるドルヴァン大陸にある国は、比較的エルフ達と友好的だという。
「ふわぁ……」
『何ですか? フォルト。その顔は』
「……アウレーリア様、鎧を脱いだお姿もキレイですね」
『あれはフルプレートメイルではありませんよ。これは違う素体です』
「この惑星の文明と本格的に接触するなら、ロボットの姿はいろいろと不都合だからな」
うん。フォルトが淡い金髪のスレンダー美少女だから、今回のアウレーリアは黒髪の肉体派お姉さんだ。
エリノール大森林からは少し距離があるが、同じドルヴァン大陸にあるエステルの町に降り立つ。
と言っても、人に見つからないように市壁からも街道からも離れた林の中だ。
それほど大きな都市というわけでもないのに、やたら人が多くて降りる場所を探すのに苦労した。
「ここより小さい町や村だと素材を買い取ってくれるギルドがないわ」
『何やら騒がしいですね。……あまりよくない雰囲気ですわ』
街道から市壁の入場門を通って町へと入る。
門の衛兵は、エンシェントエルフであるフォルトの姿を見るや祈るような仕草をとり、俺とアウレーリアの素性を追求することなく町へ入れてくれた。
「お前すごいな」
「えへへっ。まあね」
『ジーク様。広場に人だかりができています。何やら領主からのお触れが張り出されているようですね』
「んーと。なになに……読めん。おい、アウレーリア」
『すみません、フォルト。以後解析しますので、一度読み上げていただけませんか』
「えーとね。……復活した黒き邪竜! 彼の災いを退けるため、アルフヒルド王国の英雄、ガーレス将軍出兵す! 我こそはと思わん腕自慢は討伐軍へ参加せよ! 我々は君の勇気を待っている! ですって」