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003 エンシェントエルフ

003


「……いやあぁっ! お父様! お父様ぁっ!」


 私の体内に埋め込まれた極小の通信用の端末が、翻訳された内容を脳内に送ってくれる。

 すでに周囲の生存者の会話を解析し、翻訳による会話は問題ないようだ。


「アウレーリア、何か着せよ。父親の息はあるか?」


『残念ながら。未知のエネルギー、魔力を使って娘の火傷を治療したのでしょう。事切れています』


「あっ! あなた達何者!?」


「落ち着け。助けに来たのだ」


『樹木の下敷きになった個体があります。高エネルギー反応です』


「あっ!! お母様! お願い! お母様を助けて!!」


 少し離れた位置に、巨大な樹が倒れていた。ドラゴンがなぎ倒したのだろう。

 樹の下に女性の姿がある。


「いかん! アウレーリア」


『は』


 十メートルを超す大木は、アウレーリアの重力制御によってゆっくりと持ちあがる。


「ええっ!? 詠唱も、魔力も無しに!?」


「複数の骨折と、多少の火傷があるな。娘、そなた治療は可能か?」


「む、無理よ! お母様ぁっ!」


「では任せてもらってよいか? 落ち着け。大丈夫だ。アウレーリア、軍用の携帯治療キットを一つ降ろせ」


『はい、準備はできております』


 母親と思われる女性を抱え上げ、治療キットで包む。一人用のシュラフのような形をしており、ケガであれば全身の治癒が短時間で可能だ。


「これは……? 人間、あなた達は一体?」


 両親、娘ともに容姿は並み外れて美しい。淡く透き通るような金髪と尖った耳。

 この惑星の人間種は皆こうなのか?


「敵ではない。今も私の配下が集落の住民の救助に当たっている。集落の代表者に話をしたいが……」


 視線を治療キットで眠る女性に落とす。


「…………はい。母です。ここエリノール大森林に住む私達、エンシェントエルフの長老になります」


 エンシェントエルフ?


 会話の翻訳は我が艦、アウレーリアのシステムサポート用AIが行っている。

 私の知識に存在する概念の中で最も適した単語を選択しているはずだ。


「エルフ……か」


「あなた達がどこの国の騎士団かは知りませんが、私達の叡智を求めてやってきたのでは?」


 エルフ、騎士団、魔力、ドラゴン。どうやらこの惑星は本格的にファンタジーじみてきた。


「母君もすぐに目を覚ますであろう。話はそれからだ」




 アウレーリアの重力制御と機動歩兵大隊による人海戦術により、生存者の救助、治療と集落の建物の復旧はおおむね完了した。

 しかし我々の銀河の科学技術を持ってしても、失われた命と完全に焼失した建物は元に戻せない。



「……人間よ。我が名はタルクウィニア。この森の長老をしております。あなた方がいなければ我々エリノール大森林のエンシェントエルフは滅びるところでした。感謝します」



 ……ううむ。単なる人間種ではない。その圧倒的な存在感は初めて出会うものだ。


 私を人間と呼ぶと言うことは、種族が違うということだな。


「私はジークフリート。こちらは部下のアウレーリアです」



(アウレーリアよ。ここは私が統治する銀河ではない。このご婦人には敬意を持って接するのだ)


(御意に。確かにこれは只者ではありません)



「あの忌まわしき黒き竜を追い払っていただけるとは」


『追い払ったのではありません。あのトカゲは処分しました』


「うむ。もうこの集落が襲われることはない。安心されよ」


「な!? なんと! あなた方は一体? 魔素が、ない……、いやそちらの女性は人間ですら……」



 ざっくりと自分達の状況を説明する。


 我がサポートAIの翻訳機能は優秀であり、さらに彼女達エルフにも星や天体、宇宙の概念はあるようだ。

 私の言いたいことは八割以上伝わった。



「それでしたら、この森にある物は持っていっていただいて結構です。助けていただいたお礼になるのであれば」


「いやしかし、先ほどの竜のせいで森には広範囲に被害が出ている。この上、地下に眠る資源を我々が回収しては……」


『この大森林が元に戻るにはとてつもない時間がかかるでしょう』


 この美しい森、それは心、苦しい……。ん? 苦し、い。



 突然、胸に痛みが走り、意識が遠のく。……ぐっ。


『ジーク様!! 直ちに帰投します!! いけない、これは! ()に――』


《森の精霊の息吹よ、かの者に癒しを与えたまえ》


 長老タルクウィニアが力ある言葉を唱えると、私の胸の痛みが治まり、意識がはっきりとしてくる。



「むっ。……かたじけない」


「……あなたは見た目よりも随分老齢ですね。このままでは……長くは持ちません」



 いかんな。年甲斐もなく少しはしゃぎ過ぎたようだ。

 長い戦いと、政治の激務の日々をこなしてきた九十歳の身体だ。


 できることなら我が銀河最大の恒星アドリオンに葬られ、我が臣民の行く末を見守りたかったが。


 是非に及ばず、か。


『ジーク様!』



「……我がエンシェントエルフには、長老のみに伝わる若返りの魔法があります。本来は他種族に行使するのは禁忌なのですが、滅びから救っていただいたあなたであれば、先祖にもお許しをいただけるでしょう」


『タルクウィニア様!? 誠ですか!?』


「なんと、そのような神の御業とも言える技術。我が宇宙には存在しない。可能であるのならお願いしたい!」


「では、あなた方には理解が難しいかもしれませんが、森の精霊に敬意を。これから起こることをあるがままに受け入れるのです」



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