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002 巨大な古き竜

002


 (ふね)は衛星軌道上に待機させ、私とアウレーリアは惑星上のとある大陸に転移する。

 母星とよく似た環境のこの星で、必要な資源が埋蔵されていると思われる土壌だ。人のいない土地を選び現地民とのトラブルは極力避ける。



「緑はやはりいいな。若い頃を思い出す」


『母星を出てからは宇宙での戦いの日々、皇帝となられてからは執務の日々でしたからね』


 今アウレーリアは艦から人型の素体をコントロールし、資源調査を行っている。


 現在の技術なら人間と全く同じ素体を作ることも可能だが、彼女の今の素体は私の趣味で旧時代のメカメカしいデザインを選んでいる。

 デザイナーは私が生まれるずっと昔に母星で流行ったレバー二本で操作するゲームのロボットのデザインの流れを汲んでいるらしい。


『必要な鉱物資源は地中深くにあります。ここの地形や生態系に影響を与えずに採取するのは難しいですね』


「ふむ。移動するか」


 私と素体アウレーリアは、母艦アウレーリアの重力制御を受けて森の上空を飛行する。



『やはり採取が容易な土地は文明が存在しますね。最悪の場合、更地にすることも――』


「いかんいかん。できるだけ穏便にな。土地の権力者との交渉も止むなしだ」


『ジーク様!!』


 その時、アウレーリアの強力なバリアフィールドが私の身体を包む。

 地上の森をなぎ倒す勢いの突風が吹いたのはすぐだった。


「……ほおおお! 何事だ!?」


 私とアウレーリアの更に上空を飛行し、太陽の光を巨大な生物がさえぎる。


「あれは……ドラゴンというやつか!?」


 目測でも四十メートルを超すガンメタリックの巨体。更に大きな羽根を持ち、四足をたたんで滑空する巨大なトカゲだ。

 母星ではファンタジーという娯楽に出てくる想像上の産物によく似ている。


 すでに凄まじいスピードで地平線の彼方へと飛び去っていった。


『解析……我々の銀河においては爬虫類に類似しています。が、あの質量が重力制御無しで飛行するとは……』


「捕獲してみたいが、今はそれどころではないか」


『……先ほどのドラゴンは、西の方の森林にある人間の集落を攻撃しています』


「なんだと! それはいかん。同じ人間種なら助けてやらねば」


『了解しました。移動します』



 速度を上げて森の上空を西へ高速で飛行する。

 前方にはすぐにもうもうと巻き起こる黒い煙が見えた。森が焼けている。


 燃え盛る森の中になぎ倒された木々や家。

 その中心で黒いドラゴンは、鶏が地面の餌をついばむように動けなくなった人間を食っている。


「なんてむごい! やめよ!!」


 私の声にドラゴンは食事を中断しこちらを見る。


『あの生物には知性があります。ジーク様の言葉を理解しているようです』



 グギャオオオオオオオオォォォォッッ!!!!


 突然のドラゴンの咆哮。バリアフィールドがなければ吹き飛ばされている。


『生物の意思を通訳します』


 私の体内に埋め込まれた艦との遠隔通信用の極小の端末ユニットから脳内に声が響く。



《不愉快な飛ぶ小さき虫どもよ。邪魔をするな》


「人間の民が無残に食い殺されるのを見過ごすことはできん。立ち去れ!」



《聞けぬ。森の民の魔素は我が最も望む糧。これらを全て食うのに忙しい。お前らこそ消えよ、魔素を持たぬ虫に用はない》


 言い終わるとドラゴンはこちらに向けて大きな(アゴ)を開き、炎のブレスを放った。

 

『ご、御無事ですか? ジーク様』


「うむ。さすがだ。視界は一面の炎だが熱くも何ともないぞ」


 久しぶりに活用する機能のためかアウレーリアが心配している。だが全く異常無しだ。



《なに!? 無傷だと? ありえん。魔力の行使もないのにか! 虫が! ならば直接――》



 ドゴゴゴゴォッ!! ゴゴッ! ガゴガゴッ!!


《ぐわあぁッ!!??》


 ドラゴンのセリフを遮って極大の轟音と地響き! 大地が揺れ、ドラゴンは地に叩きつけられる。

 燃え盛る集落から軽々と一キロほど吹き飛ばされたようだ。


『知らぬとはいえ! 偉大なる皇帝ジーク様に対して何という無礼ッ!! トカゲ風情が! お前こそ虫より小さく刻んでやろうかッ!?』


 ああ、アウレーリアの重力制御か。対話の途中だというのに。


《な!? 何だこれは!? 痛い! 痛いぞ! 身が割れる!! どうなっている!? (われ)が! (われ)が身体をを起こすこともできぬだと!!》


 いかんな。これはもうダメだ。こんなに激怒したアウレーリアは久々に見た。



「……良いぞ。こちらの要求には応じるまい」


『御意』


 返事と同時に肉と骨の潰れる音が響き、横たわるドラゴンの首が不自然に凹む。

 透明な巨人に踏まれたかのように。


『珍しい生物でしたので、回収し研究いたします』


 森に横たわる巨大な黒い山は、淡い光を放ちながら消えた。


「機動歩兵の大隊を出せ。集落の消火と救助を急ぐのだ。息のある者はおらぬか?」


『は。先ほどのトカゲもそうでしたが、この惑星の生物は我々のデータベースにない未知のエネルギーを所持しているようです。反応の強い個体があります』



 ドラゴンも魔素だとか魔力などと言っておったな。


「うむ。この集落の長の可能性が高いな。助けよう」


 落ち着いてゆっくり辺りを見回せば、この森の木々は大きい。

 樹齢の高い巨木が多いな。このような深い森、人間が生活するには不便な気がするが。



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