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第五十三夜 暗殺者ヴァシーレVS警視総監コルトラ。 2


「あのクソガキ。殺せたか?」

 コルトラは紙煙草を取り出して、指先から出る炎で煙草に火を点けながら爆撃した警察署の壁を見ていた。


 ……狡猾な立ち回りをする暗殺者。超能力自体は強大な力を持つメテオラには遥かに劣る。だがヴァシーレというガキの強さは立ち回りの上手さなのだと聞かされている。馬鹿ならマイヤーレの後見にまで上り詰めていない。とうの昔に死んでいる。

 そもそもヴァシーレの仕事の一つは、諜報活動だったと聞いている。

 

「……逃げられたな。おおかた、ワシの情報を出来る限り調べに来て、あわよくばワシを殺せれば、といった処か?」

 炎が広がっている部分を見ながら、コルトラは考えていた。


 もし。

 コルトラが港町をこれから襲撃する計画を知られていて、ヴァシーレ側に仲間がいたとすれば、今回はコルトラの負けになる。

 自分の人生の半分も生きていないクソガキにしてやられるのは、人生を積み上げて、警視総監まで、巨大賭博マフィアのナンバー2までのし上がったコルトラにとって屈辱以外の何ものでもなかった。


「しっかり死体を晒しておきたいなあぁ」

 コルトラは煙草の吸殻を投げ捨てる。


 炎の煙で他の職員達が架け橋に、駆け付けようとしている最中。


 閃光弾のようなものが頭上に光り輝いていた。


 コルトラは見えずに眼を抑えようとする。


 眼の前には、小さな刃物が投げ付けられてきた。

 東洋のシノビ、だかが、使うクナイという武器に似ていた。

 それらは、見事にコルトラの両眼、口元、頬、喉に命中していた。


 コルトラは顔面に浅く刺さったそれらを引き抜いて放り投げる。


「効かんよ。そんなものはワシにはっ!」

 コルトラは嘲りながら考える。

 周到にクナイには、神経毒が塗られていた。

 他の能力者なら、その時点でアウトといった処か。

 

「人間には格というものがある。ピラミッドと言い換えてもいいっ! ワシはそのピラミッドの上部にいる者だ。地位を手に入れる正当性も、欲を享受する資格も、贅沢な肉に甘味を喰らう権利も、格の高い人間が得るべきなのだっ! ヴァシーレ、クソガキの貴様は、ピラミッドの地べたを這いずり回り、せいぜい上の人間を支える道具となって死ねっ!」

 

 コルトラは左腕をマシンガンへと変形させていた。

 クナイが撃ち込まれた場所に、腕のマシンガンを連射する。

 当然、不発だろう。だがコルトラの狙いは、ヴァシーレの次の一手を探る事だった。次は別の手段だ。


 架け橋の上に大量の小型爆弾がいつの間にか設置されていた。

 落下死させるつもりか。


「…………。それなら、このワシにも多少、効くな」

 

 架け橋は爆破され、崩れていく。

 コルトラは両脚の裏を変形させ、プロペラへと変えていた。

 そして、そのまま署内の内部に入る。

 架け橋に入った部下達の何名かは、十数階のビルから地面まで真っ逆さまに落下していったみたいだった。既に夜になっていた為に、闇の底にみな沈んでいく。


「もっとも。ちゃんと落ちればだけどなっ!」

 コルトラは笑っていた。

 建物を繋ぐ架け橋は別の場所にもある。

 

 おそらくヴァシーレはとっくに署内の見取り図を把握している。


「本当に面倒だ」

 

 暗殺者のトップである、レスター直々に育てたという話は本当か。

 隠密行動に極めて長けている。


「そもそも。あの服の中によく爆弾など大量に隠せたものだな」

 コルトラは鼻を鳴らす。


「ああ。テメェんとこの、署内の武器庫から調達してきてるからなっ!」


 火炎放射器がコルトラへと放たれる。

 コルトラは全身が燃え盛っていく。

 びきびき、と、全身が金属の身体に変形していく。関節部位も液体のように流動だった。


「おい。貴様、まるで二人いるかのようだな」

 コルトラはヴァシーレの能力をよく知らない。暗殺者と組織のボス、幹部クラスの能力は業界内でシークレット扱いされている。能力が周りにバレて対策を打たれた者から順当に死んでいくからだ。


「さて、と。どうかな? この俺は超スピードで動けるからなっ!」

 ヴァシーレは距離を詰め、刃物でコルトラの腹を突いてきた。刃物がガキン、と、弾け飛ぶ。効かないと判断すると、ヴァシーレはすぐに逃げた。


「…………。貴様、分身使えるだろう。ワシが立っていた架け橋以外は全て鍵が閉鎖されている」

 燃える炎の中、コルトラは嘲笑う。


 ヴァシーレの表情は明らかに驚いていた。

 

 コルトラは……。

 少しカマをかけた。

 鍵など壊せばいい。奴の言うように超スピードで動いているのかもしれない。瞬間移動の類かもしれない。だが、超スピードの場合ならば戦略は別の仕方をするだろう。瞬間移動なら、落下した際にわざわざ窓にしがみ付かなければいい。


 ……加えて、明らかにヴァシーレ自身がダメージを受ける事を怖れている。

 分身が死ねば、本体も死ぬのか?

 逆に、ヴァシーレを殺す為には、分身も本体になり、同時に殺害しなければヴァシーレは死なないのか。

 コルトラは他人の能力を低く見積もらない。

 

「クソガキがっ! テメェの能力が分かったぞっ! 分身を同時に殺せば貴様は死ぬなっ!」


「るせーなっ! ハゲ親父っ! じゃあテメェはどうやったら死ぬんだよっ!」

 

 室内にガスが充満していく。

 署内が爆破炎上を起こしていた。



 ……炎を無限に吸収し、自身の火力へと変えるグリーン・ドレスなら奴に勝てるか?

 ヴァシーレはコルトラを殺し方を考えていた。


 正直な話、舐めていた。

 どうせ権力に居座り利権の甘い汁を啜る能無しの老害でしかないのだろうと……。

 それが、ヴァシーレのコルトラに対する認識だった。


 戦った体感としては、自身の強大な能力を持て余しているメテオラよりも、よっぽど強い。

 老獪な性格といった処か。


「港町をコルトラが襲撃する事は、あいつらに伝えないとな」

 コルトラの能力も伝える。

 別にヴァシーレがコルトラを始末する必要は無い。

 ヴァシーレは目的を充分に達せていたので、闇の中、街へと逃げていった。

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