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第五十三夜 暗殺者ヴァシーレVS警視総監コルトラ。 1


 ヴァシーレの生き方に“一貫性”というものは無い。

 メリュジーヌの森の件で分かったのは“立ち回り”を見直す必要がある、という事だった。

 だから、ブエノスからの要請も、当然、蹴る事にした。


 自分らしく動こう。

 ヴァシーレは新めて、そう誓う。

 ウォーター・ハウス側に付いた方が、生き残る確率は高い。

 何よりも、ブエノスは始めから信用が出来ない。


 ならシンプルだ

 元々のプラン。

 自分は権力を手に入れたい。

 他人の下で動くのは面倒だ。

 そして、何よりも生き残りたい。


 色々、考えた処。

 六大利権にて一番の謎の人物であるケイトの情報を漁る過程で、コルトラやブエノスの情報を漁る必要があった。ヴァシーレはコルトラの方を選んだ。

 コルトラにちょっかいをかけるのは、これで二度目になるか……。

 ヴァシーレは隠密能力を駆使しながら、以前と同じようにコルトラのいる警察署へと侵入していた。


「『アルレッキーノ』のメテオラは一体、何処に隠れていやがるんだろうな……。それはともかく、も少し俺の余暇と給料を増やして欲しいんだがなぁ」

 警官姿の男が愚痴を吐いていた。


「警視総監殿は、ウォーター・ハウス共には散々、コケにされたからな。連中の大切なものを奪ってやろうって寸法だ」

 別の警官は噛み煙草のガムを口にしながら億劫そうに喋っていた。


 ヴァシーレは物陰で、コルトラの部下達の話を聞いていた。

 コルトラは部下に汚職警官達も飼っている。

 コルトラの支配する国は最悪だな、と、ヴァシーレは思う。


 ……本当なら、ケイトとブエノスの情報も欲しいんだけどなあ。

 ヴァシーレは何処にも所属しない。

 ウォーター・ハウスにもメテオラにも仲間意識は無い上に、そもそも敵対している。


 だが。

 マイヤーレの利権は結局、宙吊り状態になった。

 売春組織の利権は、このままだといずれ、コルトラ辺りに分捕られるだろう。

 そもそも、ヴァシーレは組織を牛耳る器じゃない。


 ……さて、と。俺はどう立ち回るか。

 コルトラは部下に大量の凶悪犯罪者を飼っている。

 何名かは『オルガン』が引き起こしたメリュジーヌの惨劇に投入されたみたいだった。ヴァシーレ自身、その一人を相手にした。

 極めて手ごわい相手だったが……。


 ……今更、範囲攻撃と高火力のウォーター・ハウスやグリーン・ドレス。メテオラに有象無象が敵うわけがない。最強の殺し屋であるレスターも今では彼らの仲間だ。


「……俺がコルトラなら、何をどうする? 人質でも取るか? 奴らをハメる能力者を集めるか? あの連中にそんなのが通じるのか? コルトラは欲に眼が眩んだ馬鹿だが、戦術、権謀術数においては頭が切れた筈だがなあ…………」


 ヴァシーレの入手した情報は。

 意趣返しとして、コルトラがまずは港町を襲撃する事だった。

 港町にはマイヤーレの支部があった。

 そして、暴君達は、そのマイヤーレの本部があるファハンという国まで行って、ボスのエスコバーレを殺害し、ナンバー2であったサトクリフも殺された。マイヤーレの利権を潰したのがウォーター・ハウスであり、グリーン・ドレス。そして彼らに付いていたガキ二人、シンディとラトゥーラの姉弟だ。


 そもそもコルトラは、マイヤーレの売春利権を手にしたヴァシーレを探し回っている。いずれコルトラとは殺し合う事になるだろう。


 コルトラは港町を潰す為に総力戦を仕掛けるだろう。

 出し惜しみはしない筈だ。

 ウォーター・ハウス。グリーン・ドレス。メテオラ。レスター。

 最低でも、このうち二人は確実に始末しておきたい筈だ。


 烏合の衆では話にならないだろう。

 ブエノスを頼るか?

 だが、ヴァシーレの持っている情報では、ブエノスはブエノスで別の動きをしている。


 自分がコルトラの立場なら、どう攻める?


「悪ぃが、コルトラ。老害のハゲジジイ。メテオラの裏でコソコソ、甘い汁を吸っていたテメェなんざ。この俺でも暗殺出来てしまいそうだぜ」

 ヴァシーレはそう呟いた後、いっそ本当にそうするか?と考える。

 面倒臭い雑兵共相手に消耗せず、上手くコルトラを暗殺出来れば、目障りな存在を殺せる。


 売春利権を得る為に、上手く立ち回る事が出来る。

 ああ。

 金稼ぎの為なら、利権を得る為には、いつだってリスクがいる。

 ヴァシーレはこれでも、殺し屋をやり続けてきた。

 デスクでのんびり茶でも啜って、贅肉を蓄えていたハゲジジイとは覚悟もキャリアも違う。


「面倒くせぇーな。俺がコルトラ殺しに行くか」

 以前、ちょっかいをかけてみて逃げおおせる事が出来た。

 大した相手じゃない。


 

 ヴァシーレはコルトラのオフィスへと向かう。

 いつもなら、葉巻でも吸ってバーボンでも手にしているんだろ。

 本当に品が無い。

監視カメラを掻い潜るのは手馴れたものだった。

ヴァシーレは難なくコルトラのオフィスに辿り着く。

……誰もいない。


 警察署内には、大きな架け橋のようなものがあった。

 ビルとビルを繋ぐ場所だ。

 そこでコルトラは夕暮れの景色を見ていた。


 ヴァシーレは狙撃などを好まない。

 銃では無く、ナイフの投擲で離れた標的を始末する事はあるが、コルトラを見る限り、どうにも隙が見当たらない。


 だがヴァシーレは窓を開くと。

 コルトラへ向けて、何本かナイフを投げ付けた。

 コルトラはナイフを視認出来たようでは無かった。

 ただ、単純に急所の部位である頭部と首に刺さらず、叩き落ちた。

 金属音のようなものが聞こえた。


 ヴァシーレは迷わなかった。

 コルトラがこちらを向いていたからだ。

 警視総監が懐から取り出した銃がヴァシーレの方角へ向く頃には、ヴァシーレは架け橋の上へと跳躍していた。


「よう。警視総監殿。アルレッキーノの甘い汁チューチュー野郎。殺しに来てやったぜっ!」

 ヴァシーレは懐から、暗器である刃物を取り出す。

 

「ほおぉ。久しぶりだな、クソガキ。このワシに直々に殺されに来たのか?」


「ああ。新しい売春斡旋利権のボスとしてな」

 ヴァシーレは不敵に笑う。


 六大利権は消滅した。

 後は他のマフィアが繰り上がるように権力と利権を巡って抗争になるだけだ。


「ムルド・ヴァンスの後ろ盾無くして? 残月も死んだ。ポロックも死んだ。メテオラは行方不明だ。ワシは『アルレッキーノ』の賭博利権を手にする為に動いている。貴様のようなクソガキに邪魔されても困るんでな」


 コルトラは銃を手にする。


「ガキが。今すぐ殺してやる」


 ヴァシーレは手にした刃物で踏み込む前に考える。


 何らかの力でコルトラは、先ほど急所に当てた刃物を弾いた。

 肉体を強化させるものか?

 いや……。


 こいつの身体に刃物を撃ち込んだ時の金属音……。

 おそらく、コルトラは…………。


「お前、サイボーグか何かだろう? 機械の身体だな?」

 ヴァシーレは訊ねる。


 コルトラはくっくっと笑う。


「どうせ貴様は此処で死ぬんだ。ワシの能力『カルネイジ』を教えても構わないか。ワシは常時、肉体を金属化出来る身体を持っている」


 ヴァシーレはそれを聞いて、勘繰る。

 本当の事は言っているが、能力の全貌を隠している。

 だが、機械の身体になれるのだとすれば、ヴァシーレの勝ち目は薄い……。先ほど刃物が弾かれた。急所に刺さらないのなら、勝てない。

 

 関節部位に刃物を刺し込む事が出来れば倒せるか?

 眼球に刃を突き刺し、脳に達すれば殺せるか?


 コルトラの余裕たっぷりの表情を見ると、色々、能力の全貌を隠しているのが分かる。今回は逃走するにしても、せめて再び襲撃する為の対策として、コルトラの能力の全てを暴いておきたい。


 ヴァシーレは距離を詰めて、刃物でコルトラの顔面を狙うフリをして小型の催涙弾を転がす。

 大量の煙が辺りに撒き散っていく。


「素直にワシに向かってくる程、無能か?」

 コルトラは煽る。


 ヴァシーレはコルトラの背後を取って、背中を斬り付けていた。

 ガキィィィ、と。金属音が鳴り響く。


 露出した背中の皮膚は、人間のそれだった。

 

 距離を取る際に、ヴァシーレはコルトラの足首の腱の辺りを、足首に仕込んでいた刃物で斬り付けていた。これも金属音がした。……関節部位に攻撃するのは無理だろうか?

 

 コルトラの両腕はヴァシーレの方を向いていない。

 ヴァシーレは顔面に直接、眼球と口腔を狙って刃物を突き立てる事にした。


 もこり、と。

 コルトラの背広。背中が膨れ上がる。


 それは一瞬の事だった。

 ヴァシーレは脇腹を負傷していた。

 ……傷は浅い。


 だが。あり得ない位置から攻撃された。

 コルトラの援軍が周りにいるわけでもない。


 ……何をされた?

 ヴァシーレは地面を蹴って距離を取る。


 コルトラの背中から、火を噴いたみたいだった。

 銃火器が生えている。

 その銃火器は、すぐにコルトラの体内に潜って、コルトラの身体は普通の人間の皮膚へと変わっていく。


「なんとなく…………。今ので分かってきたぜ」

 ヴァシーレは刃を構え直す。


「ほう? クソガキが。ワシの能力を見破った、と?」


「普段は人間の姿をしていて。攻撃されたら鉄の形状になるな。そして、身体から銃器を生やす事が出来る。もしかして、関節も思い通りなのか?」


 ヴァシーレは訊ねる。

 コルトラはにやにやと笑う。勝ち誇ったような眼だ。

 おそらくヴァシーレの推察は当たっている。当たっていて、なおヴァシーレでは勝てない。


 ウォーター・ハウスの殺人ウイルスなら倒せるだろう。

 グリーン・ドレスの火力なら溶かす事は可能か?

 レスターなら斬り伏せる事が出来るかもしれない。

 メテオラなら空間をバラバラにして倒すか?


 もっとも、あの四人に勝てる能力者など殆どいないだろうが。


「そうだな。俺はあの連中よりも、遥かに弱いからな」

 ヴァシーレは地面を蹴っていた。

 そのまま小型の炸裂弾を放り投げる。


 そして架け橋から飛び降りていた。

 炸裂弾が爆裂する。中に仕込んだガラス片などがコルトラの全身を襲っていた。


 落下する途中、ヴァシーレは銃弾の雨に晒された。

 右肩と左肘。左側頭部に銃弾がかする。


 煙の中から姿を現したコルトラは無傷だった。

 身体にガラス片が突き刺さる事もなく、ぽろぽろと彼の身体から零れ落ちていく。


「クソガキ。このワシを殺すんじゃなかったのか?」


 ヴァシーレは落下中に窓をつかむ。

 そのまま、落ちていれば、十階以上の距離から落下する処だった。

 ヴァシーレは窓を割って、中へと逃げる。


 今は逃げに徹するか……?

 いや、コルトラの弱点も知っておきたい。


 以前。レスターから戦闘訓練を受けた時、まず勝てないと判断した相手から逃げるように言われている。同時にその場合、可能な限り標的の情報を引き出すのがプロの仕事だとも。

 

 ヴァシーレが思考して次の行動に移す途中だった。

 コルトラの全身が光り輝いていた。

 コルトラは右腕が変形して、掌が砲台のようになっていた。

大型の火の弾がヴァシーレの方へと放たれていた。


 警察署の一部は大爆発を起こしていた。

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