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第五十二夜 『ハイドラ』の崩落。夕日が落ちた日。 2


 学校内に入って、地下へと続く階段を下っていく。

 

 地下の体育館らしき場所へと続く場所だった。

 おそらくは、門番らしき海蛇のような怪物が宙に浮かんでいた。


「おい。通せ」

 アリットは言う。

 声紋で認識しているのか、海蛇は姿を消していく。

 アリットは地下の扉を開いた。

 中は体育館らしく、大きなホールになっていた。


 アリス服のようなものを着た少年が座っていた。海蛇は彼の能力か。

 体育館を改装した内部は大きく、調度品のようなものが並んでいた。和風、中華風のオブジェが多い。


 残月は煙管をふかしながら、入ってきたウォーター・ハウスを眺めていた。

 隣には、真っ黒な髪に真っ黒なキャミソール。真っ黒なホットパンツを付けた、まだ二十代くらいの若い女が立っていた。……ウォーター・ハウスはぼんやりと、想い出す。そう言えば、ポロックとの戦いの時、TV局で会ったような気がする。彼女もブエノスの側近か。


「おい。来てやったぞ。ねぎらいの言葉は無いのか?」

 ウォーター・ハウスは面倒臭そうに言う。


「ふふっ。暴君。あんたは『ハイドラ』を継いでみる気は無い?」

 残月は何もかも、どうでも良さそうな口調だった。


「俺はお前を殺しに来た。そういう話でわざわざ、こんな戦時下の国にまで飛行機で来たんだがなあ」

 ウォーター・ハウスは失笑する。

 そう言えば、レスターからもムルド・ヴァンスの『ヘルツォーク』の遺産の話をされたばかりだ。正直な話、マフィアの権力には何一つとして興味が無い。


「俺は自由、気ままに生きたいんでな」


「生きるのには金がいるでしょう?」


「一応。黒い仕事をしてきた。レスターやヴァシーレと同じようなものだ」

 ウォーター・ハウスの生活の資金源は、殺し屋の用心棒。依頼のテロ活動などだ。今更、正義の味方でいるつもりなど無い。『ヘルツォーク』の残党達から、武器庫以外の物理的な資金は貰っている。しばらくの間は何も生活に困らない。残月との会話は意味が無い。


「…………。そうだったわね。あんたはテロリストとして各地で活動してきた。自由気ままに誰にも属さない」


「ああ。元から正義の味方じゃ無いんでね。ラトゥーラを助けたのも、そもそもは気まぐれだった」

 ウォーター・ハウスは面倒臭そうに、その辺りにあったソファーに座る。


「話は終わりか?」


「ええ」

 残月は煙管の火を消した。

 

「腹の傷があるだろう。治してやる」

「…………。結構よ」

「…………。怪我人をいたぶるのは趣味じゃないな」

 ウォーター・ハウスは残月の下に近寄ると、おもむろに腹に触れた。

 残月も特に抵抗しなかった。


 ウォーター・ハウスは残月の傷を治しているうちに気付く。

 アリットの方を見る。


 やはり…………。

 直感で何かに気付いていた。どういう状況なのかは分からない。


「慈善で殺すのは嫌いでね。そもそも別に俺は人殺しが好きなわけじゃないぞ」

 ウォーター・ハウスは構える。


 残月は立ち上がる。


「本気で来い。『ハイドラ』の麻薬の女王」


 残月は笑う。

 彼女の身体のタトゥー。スカリフィケーションが、サイケデリックな様々な色彩のように光り出したように見えた。


 アリットとグレーゼは二人のやり取りに対して息を飲んでいた。

 ブエノスからは、残月を生かしておけ。殺させるな、自死もさせるな、と命令されている。二人を会わせる事は許容出来る。だが、それ以上は許容出来ない……。


 動いていたのは、グレーゼの方だった。

 彼女はトンファーのようなものを手にして、ウォーター・ハウスに殴り掛かった。トンファーが音叉のようになっていて、音の攻撃も付随させている。

 ウォーター・ハウスは。

 グレーゼの整った顔を勢いよく殴り飛ばした。

 グレーゼの顔面が変形する程、酷く歪む。前歯が飛び散っていた。

 ウォーター・ハウスは追撃で、グレーゼの腹に斧のように膝蹴りを深く食い込ませる。壁に思いっきり叩き付けられたグレーゼは一瞬にして失神していた。


 アリットは女にも容赦ねぇな、暴力男と、叫んでいた。

 ウォーター・ハウスは、面倒臭そうにグレーゼの服をつかんでは、アリットに投げ捨てる。


「貴様ら。いいから出ていけ。……死ぬぞ」

 ウォーター・ハウスは、残月の能力のヤバさに気付いていた。


 既に、この空間全体に残月の能力が広がろうとしている。


「あたしの能力『ゴルゴンの母体』は…………」

 

 辺りに見えない、薬が散布されている。

 ウォーター・ハウスの殺人ウイルスと似たタイプの能力か…………。


 おそらく、脳に作用するタイプのウイルス…………。


 アリス柄の少年は動かなかった。おそらく残月の直近の部下。残月の能力に耐性があるのだろう。だが、アリットとグレーゼの二人には無い。アリットは大人しくグレーゼを背負って、この地下の大ホールを抜けようとしているみたいだった。

 ウォーター・ハウスは自身の腹から出る、殺人ウイルスを散布する事にした。


「あたしの能力は……。あたしがこれまで接種してきた。様々なドラッグを散布する事が出来るっ!」

 ウォーター・ハウスは、自身の能力『エリクサー』によって残月の攻撃から自身の身を守る事に使う。特に念入りに脳を守った。


「俺達の決着に意味は無いぞ…………」

 ウォーター・ハウスは告げる。


「一応。レスターの頼みだ。メテオラからも頼まれている」

 ゴルゴンの母体。残月の放つ、あらゆる違法薬物が散布される空間においてウォーター・ハウスはつねに肉体を、脳をクリーンに回復させ淡々とした口調で言う。


「お前が生きるよう。俺は説得しに来た。残月、六大利権を降りろ。お前は麻薬の女王としてではなく。マフィアとしてではなく…………。平穏に生きるんだ…………」


 ウォーター・ハウスは淡々と述べる。


 残月は暗く、全てを諦めきった表情で言う。


「全てが遅すぎるのよ……。私は身も心も何もかも汚れていて。もう何も残っていない…………」

 気だるく、何もかもが面倒臭そうな表情を麻薬の女王は吐き捨てていた。


「生きろ……。お前には生きる理由がある」

 ウォーター・ハウスは、残月とアリットを治す過程で気付いた。


 どういう理由かは知らないが、二人は親子だ。

 そして、どうも彼らはそれを知らないみたいだった。


 ウォーター・ハウスは自身の口から言うつもりは無かった。それは野暮だろう。

 だが、ブエノス。……何がしたい?


「メテオラからの伝言だ。お前に会いたいと」


「そう…………」

 残月は少し何かを考えているみたいだった。

 彼女の能力は極めて強力極まり無いものだろう。

 ウォーター・ハウスは自身の能力で、つねに解毒を身体に行わなければ脳が破壊、人体も破壊されていたに違いない。間違いなく恐るべき能力だ。


「俺との相性は最悪だな」


「でしょうね」

 残月はあっさりとそれを認める。


「メテオラから言われている。出来れば説得して欲しいと」

 残月は…………。


 能力を収めた。

 辺りに巻き散ったドラッグの成分が消えていく。

 残月は立ち上がる。


「じゃあ。案内して貰おうかしら。港町に」

「ああ」

 ウォーター・ハウスは頷く。

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