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カルト・オブ・ヴェノム-最強テロリストが裏社会のマフィア共をぶっ潰す!-  作者: 朧塚
レスターの過去編 『ダークレッド・ヴァルキュリア』
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レスターの過去編 『ダークレッド・ヴァルキュリア』 2

「組織名が分からない。一年前、私が付き合っていた彼女が、マフィアの手によって無残に殺された。手足をバラバラにされ、何度も性的に暴行された形跡がありました。警察は犯人を調べてくれましたが、やがてもみ消されました。“これは刑事事件ではなく、民事事件だ。民事に介入するつもりは無い”と。私は復讐の為に、裏社会に入る事を決意した」

 メリュジーヌの河の夕焼けはとても美しい。

 ムルドは黙って、レスターの話を聞いていた。


「今。新しい恋人と付き合っています。彼女はカタギです。本当は結婚したい。けれども、私の職業上、彼女は巻き込まれる事になる。いつか必ず別れなければならない…………」

 レスターは長く綺麗な黒髪を細長い指先で撫でていた。


「こんな事、貴方に言っても仕方無いですよね」

「いや、俺はお前の事が気にいった。もっと、話を聞かせてくれ。なんで、そんなファッションなんかしてるんだ? 最初に女と付き合ったのはいつだ? なんでもいい、お前の話が聞きたい」


 レスターはしばらくの間、考える。

 ムルド・ヴァンスが果たして信用出来る人間なのか、吟味しているのだろう。


「私の家は名門の家系でした。けれども、私の住んでいる地区にはマフィアが多く、ある一定の年齢になると、少年の多くはマフィアから勧誘を受けるんですよね。その苦肉の策として、市長は少年の何名かを“少女として育てる”カリキュラムを行っていました。男なら鉛玉で命を取られるが、女ならせいぜい売春婦か薬物中毒で止まるだろう……。そんな事は無かったんですが、とにかく少年期の男はマフィアからの誘いが多かったんです」

「それで、お前は両親から女の子として育てられた、と」

「そうですね。そして、女子中学校、女子高にも入れさせられました。女子高で、告白されて、初めて付き合った女性と初体験を行いました。……今の彼女は四人目ですね」

「そのカリキュラムは成功したのか?」

「あまり…………結果として、性同一性障害を生む事になったんですよね。何名かは危険なホルモン注射に手を出したりして……、市長としては苦肉の策だったんでしょうが。私は両親から謝られましたが、私を大切に愛してくれた両親をとても恨めませんよ」

 レスターは小さく溜め息を吐く。


「私の惨殺された、元恋人は、ちょうど二十歳になっていました。異国の服である、振袖という装束を着て、私とデートしてくれました。それから、ホテルに行って……行為の後、私は彼女と服を着せかえたんですよね。……三人目の彼女でした。ホテルから帰った後、……彼女は帰らぬ人となった。服を見て、私の事を憎むマフィアに拉致されたんでしょうね。今でも、その、振袖、という彼女の遺品の服は私の家に大切に保管しています」

「ほう」


「長話になりましたね。これでお別れにしましょう。コミッション、六大利権の一人、ムルド・ヴァンス様」

「レスター」

 その場からそっけなく帰ろうとしているレスターは、振り返り、ムルドの顔を見る。


「もしだ。もし、そのお前の愛する女を凌辱死させた組織が見つかって、報復の手助けをやれるとすれば、お前は俺のビジネスの手伝いをしてくれるか?」

 ムルドは無表情な顔で煙草に火を灯す。


 レスターは即断していた。


「喜んで」


 ムルド・ヴァンスは念入りにコネなども使って、レスターの恋人を殺害した組織を調べ上げた。その組織はMDの北西に浮かぶ大きな島国を主な拠点にしている。そして、自分達、コミッションの邪魔になる組織でもあった。


 そうやって、利害は一致したのだった。



 スナッフ・フィルムが送られてきた。

 当時のレスターの恋人の名前はエルシーという名の女だった。彼と同じ女学院出……。


 場所は便所だった。かなり汚い。

 大量の鎖。

 男達から吐き出される恥辱的なものが、エルシーの下半身から胸部を中心に塗りたくられている。彼女の顔は綺麗だが、全身の所々には痣があった。彼女の歯と、抜歯の時に使ったと思われるペンチも転がっている。


 二枚目のフィルム。

 彼女は鎖に鎖を付けられたまま、徐々に電動ノコギリで手足を切断されていっている。


 何時間もあるビデオ・テープだった。

 レスターは一度も眼を反らす事なく、その光景を眺めていた……。



「此処が『アルフヘイム』という国ですか」

 この国の人口は六千万人。


 この都市の場合は八百万人といった処だ。首都だ。

 華やかな都市だが、裏にはマフィア達の組織が蔓延っている。


 レスターは真っ黒なゴシック・ロリータ装束を身に纏い、唇に紅を引いていた。


 ムルド・ヴァンスからの情報によって、組織名とメンバーの顔と名前を教えられている。


『レプラコーン・ハット』。

 その組織のボスは能力者だと聞かされている。能力の概要は不明だ。

 構成員は一、二万人。

 準構成員を含めると、四万人近いと言われている。


 レスターの中で、やるべき事は決まっていた。

 そう、その組織の者達は一人残らず皆殺しだ。



 ホテルを取って、そこでお色直しをしていた。

 

 レスターは恋人の着ていた赤い振袖を纏う。

 それは死に装束だった。

 

 髪の毛は金髪に染め上げ、その上から更に部分的に桃色に染め上げた。

 …………、自身の姿が、炎によく合うように、と……。



 真夜中の闇の中だった。


「これは売れるな」

「だろう」

カルテルである、『レプラコーン・ハット』の幹部二人が街の明かりを肴にして、上物の薬物を吸引していた。二人はウイスキーを口にしながら、今度、街中に流すドラッグを吸引し、それらに“混ぜ物”をして売人に売らせる事を話していた。不純物が混ざれば酷い依存状態に陥り、身体も精神もボロボロになるだろうが買い手が止まる事は無い。


 時計塔が勢いよく切り裂かれる。

 レスターはただ、一本の細長い長剣によって、塔を切り落としたのだった。


 この街はとにかく不快だ。

 全てを墓標にしてしまいたいくらいに。


 塔が崩れ去り、切られた塔の切っ先が別のビルへと突き刺さっていく。


 幹部二人は、身体中のあちこちに傷を負いながらも生きていた。彼らはスマートフォンを通して、何名もの応援を呼んだ。


 二人の兵隊達が即座に、その場に集まっていく。


「一人残ず殺す。何があっても」

 真っ赤な異国の衣装を纏った人物は、そう告げた。


 機関銃の射撃が、一斉に撃ち込まれていく。

 

 闇の中、爆炎を背にして、鉛玉は輝く赤の中へと吸い込まれていく。誰もレスターを狙撃する事は出来ない。


 ぼとり、ごろり、ぽとり、ごどり。


 生首が次々と地面へと転がっていく。

 一体、どれ程、刃は振るわれていったのだろうか。

 何度も、何度も、何度も、何度も、空中に線が走っていく。


 此処にいる者達の全ては、死すべき定めにある。レスターには確かに、死の線が見えた。RPGロケット・ランチャーの弾が撃ち込まれる。レスターはいともたやすく跳躍していた。狙撃手の首を刎ねる。


 幹部二人が斬首される。

 レスターの纏う真っ赤な着物は血と爆炎を吸っていた。


「汚して申し訳ありませんでした」

 彼はうやうやしく、虚空に向かって頭を下げた。


「お前が、レスターか」

 炎の中から一人の男が現れた。


 そいつはスーツに髭面の男だった。背中に何かを背負っている。


「お前は良い殺し屋になるだろう。数年後だろうか。お前はこの世界を牛耳れる力を持つだろうなあ。くくっ、ひゃひゃひゃひゃ」

 髭面の伊達男は仮面を取り出して被った。

 全身に布のようなものを纏う。

 まるで、カカシ男だった。

 彼は、三つの刃を持つ大鎌を背負っていた。


「レプラコーン・ハットのボスであるブレイディ…………」

 レスターは息を飲む。


「恋人の形見なのだろう? 傷を入れないようにしてやる」


 ……瞬間、レスターは。

 左首筋から、勢いよく鮮血を噴出させていた。


 レスターは、背後に跳躍する。

 懐に仕舞っていたナイフを次々と、投げ放っていく。対象の急所に向かって、綺麗にナイフは吸い込まれていく。……ナイフは届かなかった。


 カカシ男の姿が見えなかった。

 この闇の中、一体、何処に隠れたのか。


 強い…………。

 銃火器を手にした一万人の部下よりも、この男一人の方が遥かに強いのだろう。太刀筋がまるで見えない。


 レスターの剣を持つ右手が大きく裂けていた。

 

「何を、された……?」

 敵が本気なら、間違いなく、首と腕を落とされている。少し、いたぶられている。

 

 レスターは屈辱に震えていた。

 

 いつからだろう。自分が最強だと錯覚していたのは。

 いつからだろう、自分の能力に自惚れていたのは。


「それがお前の本気か? お前の刃は、この俺に届かないのか? この俺の首を貰いに来たのだろう? くれてやろう、お前の刃がこの俺に届くのならな」


 この男は、レスターの恋人を凌辱して命を奪った彼の部下達とは違う。極めて高尚であり、そしてただただ、強さのみでこの組織の頂点にいるのだという事を理解する。実際の処、組織の利益の大半は他の幹部達の甘い汁となっているのだろう。


「俺を倒してみろ」


 レスターは全身を刻まれて、地面に倒れていた。

 着物にまるで傷は無い。まるで、攻撃が透過して、肉体を直接、傷付けられたみたいだった。超能力の産物なのだろうが、一体、何をされているのかまるで分からない。


 胸、腹、腕、脚を刻まれている。


 レスターは気付けば、熱を帯びた地面に倒れていた。


 自分の血が闇の中へ、燃え盛る炎の中へと流れていく。


「…………、何故、この私を殺さない…………」


「利害関係でしか無かったが、一応、俺の部下達だったからな。家族みたいなものだな。ファミリーの復讐の為には、お前に一瞬で死なれては困るんだよ」

 男は無感情だが、強く威圧的な声で告げる。


「かといって、俺には手足を少しずつバラバラにしながら殺したり、性的に凌辱して殺す趣味は無い。後、五分、いや、十分はそうやって苦痛の中、生きていて貰おうか。俺は此処から見下ろしている」


 レスターは薄れゆく視界の中、自分の影が見えた。

 そして、敵の影も見えた。

 そして、彼は気付いた。敵の先程からの動きを考えても、攻撃方法は……それ以外に考えられない。


 影だ。

 あの大鎌で自分の影を切られれば、その場所が負傷する。おそらく、負傷の度合いも調整出来るのだろう。武器である剣は何処かに飛ばされてしまった。だが、レスターの能力の性質上、あらゆるもの全てを武器に出来る。地面には、大量の薬莢が転がっていた。


 レスターは眼を閉じた。

 そして、ただただ、音だけを聞いた。気配だけを感じた。

 次が最期の一撃。自分は死ぬ。


 レスターの右手は動いて、転がっている薬莢を手にしていた。

 そして、自らの右首筋に少し当たる形で、薬莢は背後へと飛んでいく。


 カカシ男ブレイディの脳天に孔が空いていた。

 意識は死へと向かいながらも、ブレイディの大鎌がレスターの影を引っ掻こうとしていた。レスターは薬莢をもう一個指で弾く。ブレイディの指が何本か弾け飛んでいた。


 カカシ男はそのまま、炎の海の中へと突っ込んでいった。


 炎が燃え続ける。


 レスターはまるで動けなかった。


 死神だろうか、何者かが近付いてくる。


 顔面ピアスにスーツの男。ムルド・ヴァンスだった。


「私の事を見ていたのですか。見張っていた」

「ああ、そうだ。お前はイイ女だからなあ」

 そう言うと、ムルドはレスターを担ぎ上げる。

 そして、そのまま、レスターの首筋から流れ続ける鮮血を、さながら伝説の吸血鬼のようにムルドは吸い続けた。


「…………。私は、女ではありませんよ……」

「いや、俺の女にする。決めたんだ。お前は俺のものだ。ずっと可愛がってやる」

 そう言うと、ヘルツォークのボス・ムルドは、まだ新入りである殺し屋のレスターを連れて、自身の組織お抱えの病院へと向かった。



 ポロックのビデオを消す。

 子供同士の性交渉の映像は途切れた。


「俺はお前と結婚したかったんだ」

 ムルドは真顔で、薔薇のウイスキーであるフォアローゼズを口にした。


「いや、男同士で結婚出来ないでしょう」

 レスターは真顔で返した。


「お前との一夜はとてもとても熱いものだった…………」

 ムルド・ヴァンスは無表情のまま、三杯目のウイスキーをあおる。


「それは熱いでしょう。私が爆破炎上させて炎の海にしていたのですから」

 レスターは紅茶の温度が適量か確かめていた。


「お前の身体の事は全て知っている」

「あの時、傷の応急手当てをして戴きましたからね。肉体関係があるように何故、おっしゃられるのでしょうか。まるで理解が出来かねます。私の恋愛対象は女性って何度も何度も言っているでしょう? いい加減にしろよ、なあ? おい? この気持ちが悪い変態のホモ野郎。ダッチボーイのケツでやっていろよ、この変質者が!」

 レスターは無表情のまま、ムルドに罵詈雑言を浴びせて、苺ジャムのクッキーを口にした。


「俺は、俺は、レスター! お前で毎晩、毎晩、自涜している。何度も何度も抜いている!」


 大陸最強の殺し屋は、大陸最大規模の一人であるヤクザの大ボスの顔面に、無言で飛び膝蹴りを放ち、そのまま地面に組み締める。顎の骨が折れる音がした。


「おお。俺にとっては、そのなんだ。ご褒美だ」

 亀裂骨折を起こしたであろう顎をさすりながら、ムルド・ヴァンスは法悦の顔になる。レスターは彼のセクシャルハラスメントをやめさせるべく、喉に蹴り技を入れて沈めたのだった。ムルド・ヴァンスは、レスターと結婚して、ヴァシーレを愛人にする事を未だに諦めていない…………。



 レスターの話を聞いて、ウォーター・ハウスは沈黙していた。

 心無しか、紅茶の入ったカップを震わせていた。


「俺は男の娘フェチ……、ニューハーフ・フェチの変態に翻弄され続けていた、というわけか…………」

 そう言いながら、彼は自身の腹部を押さえる。

 今や、奪われていた肉体の一部を取り戻して、ウォーター・ハウスは上機嫌の筈だったが、明らかに不快感を露わにしていた。


「その通りですね。でも、ご安心を、もう貴方を脅かす人間は存在しませんから」

「何故、俺の相対する相手は、変態が多いのだ?」

「同情します」

 レスターは涼しげに紅茶を啜りながら、淡々と言った。


「貴様も入っているからな」

「……私を同類に入れて欲しくない……。私だって、男の変質者から変な目で見られるのですよ」


 ウォーター・ハウスは紅茶を飲み干して、大きく溜め息を吐いた。

 あの忌まわしい事この上ない戦いを強いられたレスターと、妙な部分で性格的に波長が合うのが、なんとも自身にとって好ましい事では無い…………。

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