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カルト・オブ・ヴェノム-最強テロリストが裏社会のマフィア共をぶっ潰す!-  作者: 朧塚
ハートレス・アンデッド、児童売春組織『オルガン』のポロック
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第三十六夜 騒乱の観察者達。 3


 もう何年も前の事だ。

 五年前か。

 もしかすると、六年程だったかもしれない。

 メテオラは現在、23歳だ。

 当時は何歳だったか……。


 あの男の事はよく覚えている。


 ザルモンド。

 前アルレッキーノのボスだ。

 四十後半の髭面の長身の男だった。

 高級スーツを纏い、豪奢な部屋の中にいた。

 部屋の中は煙草と香水の香りで充満していた。


 友人達の顔を思い出す、テッサ。パレイオ。それに他のみんな……。

 ストリート・チルドレンのギャング団の仲間達だ。

 まだ十代に満たない友人達で集まって、路上生活を送っていた。みな、貧困で両親の下から逃げてきた。ギャング団はスリを行ったり、ブランド服のコピー商品を売ったり、カジノに行ってイカサマをしたりして生計を立てていた。

 ドラッグは他のギャング団のメンバー達が中毒症状に掛かって、次々と廃人にあったり、死んだりしていた為に絶対に手を出さないのがギャング団の戒律だった。


 メテオラはこのギャング団のボスでは無かったが、みなから可愛がられていた。

 大体、十名前後のチームだった。入団審査なんかも緩く、家庭にも学校にも居場所が無い者達同士で集まっているチームだった。


 まとめ役であるパレイオ辺りだったと思う、『アルレッキーノ』の息の掛かっている賭博所で不正行為を行って巨大マフィア組織から眼を付けられるようになったのは。


 メテオラのかつての仲間達が、次々と、彼の前で殺されていったのは。

 メテオラは、逃げた。仲間を見捨てて逃げた。


 そして、自分に対する怒りと、マフィア達に対する怒り。

 そのあらゆる感情によって、メテオラは『超能力者』として“覚醒”した。


 アルレッキーノのボスである、ザルモンド。

 彼の護衛の部下共々、超能力を使ってグチャグチャのバラバラにして殺してやった。


 ザルモンドの死体を見下ろしながら、部屋に入ってきたアルレッキーノの幹部がメテオラに告げた。

 

 ボスを殺された為にその場で報復されると思ったが、その幹部は意外な事をメテオラに告げた。


‐アルレッキーノの現ボスを殺害されたのは、貴方ですか。では、これからは貴方がアルレッキーノのボスになって戴きます。それがこの組織のシステムですから。-


 アルレッキーノは古い組織だ。

 下剋上も多い。

 そして、代々、ボスの座に付くのは、前のボスを殺した者がその資格を得るものだという規約がある。


 そして、何代目かの、十何代目かのボスとして、メテオラは巨大賭博組織『アルレッキーノ』のボスの座に就任した。仕事に関しては右も左も分からなかったが、幹部や生き残ったボスのボディガード達が補佐、指南してくれた。それから六大利権を司る『コミッション』の存在も聞かされ、後にムルド・ヴァンス、残月、ポロック、ケイト、エスコバーレ、そして調停者に就任したレスターと出会う事になる。



「五年前、いや、六、七年くらい前かな? 俺と残月、ムルド・ヴァンス、レスターは比較的仲が良い。マフィア同士での秩序を作り上げ、一般市民を巻き込む事を比較的嫌う傾向が強かったからな」


 メテオラは自身の超能力である『黒い森のさくらんぼ酒ケーキ』を駆使して、生体兵器の軍団を倒していく。どうやら、生体兵器の中には別の生体兵器と融合してより強力な怪物へと進化を遂げる性質を持っている個体も多いようで、放置しておけば、誰も手に負えなくなる怪物へと変化を遂げるだろう。


「逆説的だが、公の秩序を俺達は守ろうとしてきた。ヴァシーレ、絶対にこの敵を倒すぜ」

「ああ、ひひゃ、言われなくっても、分かるってんだよっ!」

 ヴァシーレは次々と、キリなく襲い掛かってくる民間人達を戦闘不能に追い込んでいく。


『フェイタル・イリュージョン』を始末する。

 ヴァシーレは、国民達を操っている敵の正体の見通しがまるで付かなかった。ウォーター・ハウスと合流出来たならば、助言を貰えるかもしれない。だが、暴君の方も、今、音信不通だ。


 メテオラにしろ、ヴァシーレにしろ、持ち歩いているスマートフォンには位置確認を遠隔で知る事が出来るGPS機能が付いているのだが、スマホの中にGPS機能による探知を阻害ジャミング出来るプログラムが仕込まれている。マイヤーレ討伐に向けて暴君達が動いていた頃、ウォーター・ハウスは自分や仲間のスマホの中にGPSによる探知を妨害するプログラムを自作で仕込んで入れていた。ヴァシーレ達は他の技術を用いる事によって、暴君一向を襲撃したのだが…………。


 暴君に行っていた追跡手段の一つとして、追跡者のGPSを追う形で暴君の足取りを追っていた。


 おそらく、『フェイタル・イリュージョン』の本体は、操縦している無数の人間達の所有しているスマートフォンを頼りに、メテオラとヴァシーレの位置を正確に把握している。完全に敵の姿が見えない。向こう側が一方的にこちらの動向を探る事が出来る。


 何か打つ手は無いものか。


 このままでは、一方的にこちらが不利な状況に追い込まれていくだけだ。


 建造物の物陰に隠れて、ヴァシーレは暴君か、あるいは師であるレスターに電話を掛けえ続ける。


 暴君からの連絡が帰ってきた。


<どうした? 俺は水を操作する敵を今、撃退した処だ。これから、グリーン・ドレス達の下へ向かう>

「なあ、今、メテオラと共に化け物達と戦っている。一般市民も操られていて、襲い掛かってきやがるんだよ、どうすれば…………」

 ヴァシーレは詳細を詳しく話していく。


<成る程、分かった。この敵が何処に隠れているかだ>

「マジかっ!?」

 ヴァシーレは思わず、声色が裏返る。


<あくまで可能性だがな。そのままだと、ジリ貧なんだろ? なら、試してみる価値があるんじゃあないか?>


 暴君の分析によると、この敵はわざわざ完全な安全圏から一方的に攻撃出来るにも関わらず、名を名乗った。おそらく、自己顕示欲の高い人物だろう。だから、必ずこの辺りに潜んで二人の戦いを見ている筈だ。更に射程距離の問題。今の処、この敵が他の市民達を操作して、攪乱している状況は見当たらない。それこそ、街全体の者達を操作出来るのならば、分散している他の連中にも一般市民を突撃させて、更なる混戦状態へと持ち込んでいる筈だ。市民を操れる能力の射程距離は、せいぜい、数百メートル、半径一キロ程度だと推察出来るとの事だった。


<それから、ヴァシーレ。お前も殺し屋なら、分かると思うんだがなあ。依頼人とか、上司とかに報告書が必要だろ?>

「ああ、確かに、そうだ。絶対に、絶対に、俺達の俺達の戦いは記録されている筈だな。それこそ、動画の実況中継を行っている筈だ。上司に向けてなっ!」

<その通りだ。お前達の戦闘を撮影出来る場所に必ずいる筈だ。その位置を探せ>


 此処から、一キロ以内に潜んでいる可能性が高い。

 ビルか、地下かは分からない。

 少なくとも、この手の安全圏から一方的に敵を攻撃しようとするタイプは、近くの車の中に隠れているとか、飲食店の中に隠れている、などといったタイプでは無いだろう。


 ヴァシーレは分身共々、敵を探す事にした。


「メテオラ。俺は敵を探しに行く。やれるか?」

 ヴァシーレは、相棒に訊ねる。


「ああん? 俺を誰だと思ってやがる? アルレッキーノのボスであるメテオラ様だぜ。市民を守りながら、化け物共を倒す事なんて余裕で出来る!」

 そう言うメテオラの顔は、徐々に疲労が浮かび始めている。


 ヴァシーレはすぐに、破壊された建造物の残骸の上を跳躍しながら敵を探す事に決めた。


 地下はまず無いだろう。

 ビルの最上階の可能性が高い。

 この辺りで、二人が市民と怪物達の襲撃を見て苦戦している処が見える、ビルは有に15棟程度はある。当然、一番、遠い場所の可能性が高い。化け物の数が少ない場所の可能性も高い。そして、暴君いわく、絶対に上の者にヴァシーレとメテオラの戦闘の動画を実況中継ないし、動画送信を送っている筈だ、と。


 潜んでいるビルは絞られる。

 ヴァシーレは二人いる。

 分身を一体、消せば、もう一人が本物になる。

 この特性は絶対に此方側が有利だ。



 ビルの最上階の一つに、ヴァシーレは入り込む。

 どうやら、逃げてきた市民が何名かいた。


「おい、テメら、少しの間、眼をつむっていろよっ!」

 ヴァシーレは、その場で、発光弾を地面に投げ捨てる。

 爆弾が爆発したと思って、市民の何名かは慌てふためいていた。

 ……敵は一般市民に紛れている可能性もある。だが、絶対に動画撮影をしている筈だ。ヴァシーレはスマホで動画撮影を行っている者、隠し撮りを行っている者まで探した。ビル内をしらみつぶしに探していく。それらしき人物がいない。別のビルか……。



 四つ目のビルの中だった。


 無人だったが、ヴァシーレは確かに気配を感じ取っていた。


「此処が正解か? いるだろ? いるなら、出てこいよ?」

 ヴァシーレは物陰に隠れている者に訊ねた。


 ストリートにいる、ラッパー風の男が現れた。

 ヴァシーレは、その男の胸倉をつかむ。


「テメェが、『フェイタル・イリュージョン』かあ?」

 ラッパー風の男は、慌てふためいていた。


「俺は、先程、金を貰って、お前らを撮影するように言われて…………」

 男は泣き叫び始める。

「ふざけた事を言いやがって、もうちょっと尋問は強くなるぜ……」

 ヴァシーレは手を上げようとして、すぐに気が付く。

 確かに眼の前の男の言う通りだ。

 最初から、ずっとカメラを回し続けている筈だ。

 その男は物陰に隠れて、カメラを中断していた。


「お前に金をやった奴の容姿は?」

「俺が着ている服、ユニフォームだとよ。同じ格好をしてやがった。何故か、俺の番号を知っていて、俺にメールを打ち込んできやがった。ある場所に行って、この服に着替えて、スマホでお前らを撮影してやれば、口座に金を入れてやるって……」

 男は影武者だろう。

 ヴァシーレはすぐに思考を切り替える。


 カメラで動画を撮影しながら、別の人間を影武者に仕立て上げている。

 そして、ヴァシーレや、あるいはヴァシーの協力者が戦略を見抜く事も周到に考えていたという事になる。何か案は無いか。ヴァシーレはウォーター・ハウスにもう一度、助言を仰いだ。


<成る程。可能性の一つだが。この辺りの高層ビルの作りで、不自然に設計がおかしい箇所がある場所を探れ。たとえば、“本来は部屋がある筈の空間”が設計されていてもおかしくない建造物は無いか?>



 時間は掛かったが、やっと辿り着いた。

 メテオラの体力は限界に近付いている。

 

 ヴァシーレは、隠し部屋のある高層ビルをついに突き止める事に成功する。

 明らかに空室があるべき場所に入るには、隠し扉を見つける必要があった。


 中には、緑色のTシャツの上にじゃらじゃらと、ゴツいアクセサリーを身に付けたストリート・ギャング風の男がいた。スマホスタンドで固定しながら、スマートフォンのカメラでメテオラと生体兵器の戦いを撮影しながら、現れたヴァシーレに一瞥した。カメラを持つもう一方の手には、スケート・ボードが握り締めている。

 

「テメェが、本物の『フェイタル・イリュージョン』だな?」

 スケボーを手にしている男は、しばらくの間、沈黙していた。

 何やら、スマートフォンをもう一台取り出して、メールを打っているみたいだった。動画撮影もどうやら、止めたみたいだった。


「おい、テメェ。何をしている?」

「上司に報告に決まっているだろうが。動画は中断。ヴァシーレ、テメェに居場所がバレたってな」

 ストリート・ギャング風の男は淡々と言う。


「さてと。ヴァシーレ、俺がモノホンの『フェイタル・イリュージョン』様だ。俺を倒せれば俺が操作している街の人間達も動きが止まるぜ。それにしても、ヴァシーレ。お前、マジで笑えるわなあぁ? 俺を探し当てるのに、暴君ウォーター・ハウスか、レスター、どっちかに電話掛けていただろぉ? 一人では何も出来ねぇんじゃあねぇえのかああぁ?」

 フェイタルは、腹を抱えて笑い始める。


「少なくとも、テメェを今、此処で始末する事は出来るぜ」

 ヴァシーレは言いながら、二人になる。


 それぞれ、両手には両刃の刀剣が握り締められていた。

 襲い掛かってくる市民から奪って、手にした得物だった。


「なあ、おい、テメェ自体に戦闘力があるか分からなえぇがなあ。今、この場で切り殺してやるよっ!」

 ヴァシーレはそう言って、四つの刀剣でフェイタルを襲撃するフリをして、刀剣を放すと、懐に隠し持っていた拳銃を瞬時に取り出して、引き金を引いていく。


 四方向からフェイタルは近距離狙撃を受ける。

 だが、銃弾の全てを手にしていたスケート・ボートを盾にして弾き飛ばしていく。


「俺個人が弱いとでも思ったのかよおぉ! ヴァシーレッ! このガキがああっ!」

 そう叫んだフェイタルの両脚は、ヴァシーレがつい先程、放り投げた刀剣がブーメランのように回転しながら切り裂かれていく。


「俺は策略を見抜くのは苦手だが。近接戦闘は得意だぜ。レスターに何度も戦闘訓練で殺されかけたからな」

 刀剣での攻撃はフェイクで銃弾で撃つ……銃弾で撃つ行動の方がフェイクだった。

 地面に膝を付くフェイタルは、自身の両脚の傷の深さを理解すると、懐から、何かを取り出していた。小型爆弾だ。


 それらをヴァシーレに向けて、放り投げようとする。

 ヴァシーレは二人に分身している。

 もう片方が死亡しても、もう片方が生き残っていれば、何も問題が無い。


 ヴァシーは、あえて爆弾を受け止めて、もう一人の方でこの敵にトドメを刺そうと考えていた。フェイタルは小型爆弾をヴァシーレの一人に向けて投げ放つ……フリをして、自身が撮影に使っていたカメラが回っているスマートフォンへと放り投げる。……情報隠蔽の為だ。フェイタルのスマホを調べれば、彼の上にいる者の存在を知る事が出来る。


 どうやら、スマホの内部自体にも小型爆薬が仕掛けられていたらしく、爆発は二度起こった。それは煙幕と化して、部屋全体に行き渡る。


「俺がテメェの居所に気付いた時から、テメェは既に敗北を覚悟していたってわけかよ」


 ヴァシーレは煙幕の中で、敵を探した。

 先程、フェイタルがいた場所は血が点々としていた。

 ヴァシーレは、血の痕が続いている場所を追跡しようとして……、背後を振り返った。

 スケート・ボードには散弾銃が仕込まれていたらしく、無数の鉛玉がヴァシーレを襲う。ヴァシーレはそれにすぐに気付き、靴の中に隠し持っていたナイフを背後にいたフェイタルの喉へと投げ付けていた。


 ごぽり、と、フェイタルは口から血を吐き散らしていく。

 どうやら、腕でスケート・ボートを動かして移動したみたいだった。


 急所は刺した。

 後は、余計な事をされる前に、トドメを刺すべきだ。


 ヴァシーレはフェイタルへと近付く。

 この男は服を脱いでみせる。

 なんと、身体に爆薬を巻いているみたいだった。


 部屋は密室だ。

 ヴァシーレは分身と共に、二人同時にいる。

 もし、分身共々、両方が同時に死亡すれば、ヴァシーレはそのまま死んでしまう。


 大きな閃光が巻き起こった。


 ヴァシーレは命からがら、ボロボロになりながら、部屋を出た。

 全身、打撲、負傷を追っている。欠損部位は無い。

 

「ああああああ、畜生。このダメージは治らねぇえええぇ……」

 スマホは無事だ。これで味方に連絡を入れる事が出来る。


 ヴァシーレの一体が、フェイタルが自爆する瞬間に密着して覆い被さり、爆発を緩衝させたのだった。だが、それでも、もう一人のヴァシーレもダメージを負った。


 メテオラに電話を掛ける。


「おい。街の住民を操っている敵の方は倒したぜ。だが、そいつに指令を下している奴の情報源は破壊されて、挙句に爆弾で自爆されちまった…………」

<みたいだな。お前の負傷は?>

「やばい。少し眩暈がする。手足は無事だ。身体のあちらこちらに、爆弾の破片なんかが突き刺さっている。今すぐ、そちらに向かう、ぜ…………」

 そう言って、ヴァシーレはスマホを取り落とす。

<おい、ヴァシーレ。おい、テメェ、ヴァシーレ。どうした? 何があった!?>

 メテオラの声が響いていたが、ヴァシーレのダメージは深く、ヴァシーはそのまま一人、ビルの中で意識を失った。

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