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カルト・オブ・ヴェノム-最強テロリストが裏社会のマフィア共をぶっ潰す!-  作者: 朧塚
ハートレス・アンデッド、児童売春組織『オルガン』のポロック
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第三十六夜 騒乱の観察者達。 1


 気狂い帽子屋マッド・ハッターのような容姿の男が携帯で連絡を取っていた。

 彼はとあるビルの屋上からメリュジーヌを見下ろしていた。


「ああ。こちらは“アリット”と“グレーゼ”の二人を呼んでいる。そちらも『特殊部隊』の連中を呼んでいるんだろう?」

 炎が公園の辺りでは燃え盛っている。

 おそらく、あれはグリーン・ドレスの『マグナカルタ』だろう。機械人間のバーニアックと戦闘中だろう。


「マフィア達の勢力図は変わるだろう。この私はポロックに絶大な支援を送ろうと考えているのだよ。暴君と組んだ者達の中には、あの美麗の剣士レスターも混ざっているそうじゃないか。彼には私が利権を得ていた組織を潰された遺恨がある。この機会に奴を潰せるなら上々。いずれ、宣戦布告しなければならない相手だからな」

 そう言いながら。ブエノスは楽しそうに笑っていた。


 ブエノスの背後には、男が一人、女が一人、立っていた。


 男の方は。灰色のコートを着込み、拳銃を持った端正な顔をしていた。

 女の方は、真っ青なドレスに身を包んでいる。

 ブエノスは彼らをそれぞれ、『ネメアのライオン』と『セイレーン』と呼んでいる。それが、コード・ネームなのか、あるいは超能力の名前なのか。その両方なのかは不明だ。


「アリット。お前が行ってくれるな?」

「標的は?」

「残月を襲撃しろ。始末は出来ないかもしれない。奴の超能力の全貌を知っておきたい。だが、深入りはするなよ。不利と判断したら、すぐに撤退しろ」

「了解」

 灰色のコートの男は、その場から消え去った。


 街を灰燼に変えるパーティーはまだまだ始まったばかりだ。

 メインディッシュが運び込まれるまで、まだもう少し先だ。



「そうか。『ヘカトンケイル』のブエノス。お前も右腕と左腕を動かすのか。なら、ワシも動かすとしよう」


 この街の警視総監であるコルトラは、オフィスの中から気狂い帽子屋の電話を受け取っていた。


 彼の背後には警視総監の『特殊部隊』が控えている。

 それらは、コルトラが凶悪殺人犯達の中からスカウトしてきて、育成してきた者達だった。コルトラの背後には巨漢が立っていた。身長は2メートル近くはあるだろうか、彼は顔に白骨の雄牛のような面を構えて、黒いコートに身を包んでいた。警察官の服装とは違う。何処か軍隊か何かのような服に身を包んでいる。


「混戦状態は必須になりますな、警視総監殿」

「アーノルドゥ。行ってくれるな? 私の可愛い可愛いアーノルドゥ」

「御意。『フェイタル・イリュージョン』は既に視察に向かっていると聞きます」


 既に、各地で戦闘は起きているみたいだ。

 生体兵器による建造物の破壊と住民の殺害も広がっているらしい。

 メリュジーヌは地獄になるだろう。


 利権構造は変革を迎える時が来たのだ。

 この状況は、一部の政治家や多国籍企業の者達も動き始めるだろう。結局の処、利害の調整を考えている『コミッション』を眼のカタキにしている者達は多い。ムルド・ヴァンス、残月、メテオラ、レスターの四人がまさにそれだ。彼らを始末出来れば、よりビジネスを拡大化させていけるチャンスなのだ。


 何にしろ、ポロックの行動を賞賛する者達は多い。

 ブエノスもコルトラもその中の一人だった。



 噴水のある広場のベンチで、残月はキセルで煙草を吹かしながら、彼女を狙っている者の動向を探っていた。


 この広場の中には何名かの者達が生体兵器の襲撃から逃げてきている。

 残月はふうっ、と、空を眺めていた。

 こんな美しい青空の下で、とても物騒な事をする連中だ。


 ポロックの『オルガン』だけではない。暴君達とコミッションを潰したいのは……。中小組織のマフィア達だろうか。それも違う。もっと別の者達が動いている気配がする。そして、その者達は自身の身元を隠すつもりは無い。


 つまり、これは宣戦布告。


 無数の腕が生えている人型の生体兵器が広場へと現れる。

 この広場へと逃げてきた街の住民達は悲鳴を上げて泣き叫んでいた。

 残月はスーツ・ケースの中から、スナイパー・ライフルを取り出して、それを生体兵器へと向けて狙撃していく。人型生体兵器の頭部は複数あった。残月の狙撃によって、頭の全てが吹っ飛び、胸部や腹部も弾け飛んでいく。生体兵器は倒れて動かなくなった。


「出てこい。そこにいるのだろう?」

 残月は苦々しく、近付いてきている何者かに告げる。


 灰色のコートを纏ったサングラスの男が残月の隣に佇んでいた。

 端正な顔立ちだ。年は二十代半ばに見えるが実年齢は分からない。


「あのフランケンシュタイン・モンスターみたいな怪物だが。何故、弱点である脳が胸と腹にも存在する事に気付いたんっすか?」

 男は飄々とした口調で訊ねてきた。


「答える必要はお前にあるのか?」

「互いに、互いの力を教え合いませんか?」

「断る」

「なら、互いの超能力の名称だけでも。その方が呼びやすい」

「『ベアルフル・ストリクス』と、私は自身の力を呼んでいる。能力名から力の概要を推察出来るものではない」

「俺は『ネメアのライオン』。残月さーん、以後、俺の事を覚えておいてください」

「今日までは、な」


 風が舞い、地面に落ちた木の葉が舞い上がる。


 それが戦いの火蓋となった。


 残月は別のスーツ・ケースから取り出したショットガンを眼の前の男の額へと向けていた。対する灰色のコートの男はいつの間にか高威力のハンドガンであるマグナムを残月の額に向けていた。


「何処の組織の者だい? アンタ?」

「さて? でも、そのうち、分かるんじゃないっすかねぇー」

 飄々とした口調で男は煙草を吹かしていた。


 先に引き金を引いたのは男の方だった。


 残月は自身の超能力を発動させる。

 空中を泳ぐ海蛇が現れて、至近距離で撃ち込まれた弾丸を弾き飛ばしていた。だが、残月は正直、かなり焦りが顔に出ていた。……距離を取らなければ。

 返す刀で振るった残月のショットガンの弾丸は、全て男にかわされていた。……ショットガンは散弾銃だ。一度に13発は発射される。それら全てを無傷で、服にかする事も無く避けていた。


 シンプルに強い……。


 残月の肩が流血していた。

 マグナム弾の攻撃の一発を弾き損ねたのだ。


 ネメアのライオンと名乗った男は、更に距離を詰めようと迫る。


「今、アンタを見て分かった事はっすねー。アンタの超能力、戦闘用じゃあ無いんじゃあないっすかねえ? だって、本当は狙撃の腕で敵を始末するのが得意でしょ?」


 …………、バレてしまっている。

 残月は冷や汗をかいていた。

 

 残月は腹をブチ抜かれていた。


 男は小型のハンドガンを取り出して、残月の腹へ向けて引き金を引いたのだった。


「麻薬カルテルの女王。『ハイドラ』の残月……。今、俺が殺せたら、麻薬ビジネスの利権構造が変わりますねえぇー」


 残月は膝を崩し、仰向けに地面に横たわった。


「そうね。あたしを今、撃ち殺せば、アンタの勝利よ。アンタ達の組織のね。私は完全に舐めていたわ」

 残月は呼吸を荒くしながら、素直に眼の前の敵を賞賛していた。

 今まで、マフィアの中小組織の者達を直々に始末した事は何度かある。その中には能力者もいた。だが、眼の前の男程、正面切って残月に挑み、射撃の撃ち合いで彼女に勝利した者はいなかった。残月の能力は元々、戦闘向けでは無い。多少の防御は出来る。だが、防御を突破されれば、それでお仕舞いだ。


 男は残月に止めを刺さなかった。

 代わりに、その場から立ち去っていく。



「ブエノスさん。残月を戦闘不能に追いこみました。俺一人で始末出来そうです。どうされますか?」

<成る程、やはりお前は私の右腕だ。だが、残月は生かしておけ。能力の概要は分かったか?>

「正直、分かりません。能力の全貌を出さなかった。戦闘向けでは無い。潔く殺せと言ってきました。……ひょっとすると、ひょっとすると、彼女を殺害するのはマズイんじゃないっすかねえぇ?」

 これはネメアのライオンの勘だった。

 残月を始末してはいけない。

 せいぜい、再起不能になって貰うくらいが良案だろう。


<ふむ。残月は麻薬カルテルの女王か。配下の諜報員を使って、もう少し彼女の力の全貌を調査させよう。お前は戻れ>

「了解いたしやした」

 そう言って、灰色のコートは広場から立ち去る。

 途中、ポロックが解き放った何体かの動物型生体兵器に襲撃されるが、次々と拳銃一丁で急所を撃ち抜いて返り討ちにしていったのだった。

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