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第二十六夜 玲瓏の剣士レスターの『フラガラック』 3

 この渓谷の頂上は、確か標高1500メートルから、2000メートル程あった筈だ。この大自然の地形自体を利用して、この敵を倒すしかない。

 グリーン・ドレスは、そう考えていた。

 彼女は余り物事を深く計算したり策略を練る事は苦手だったが、自身の能力の性質を考える上で、地形などを利用する事は常日頃から考えていた。


 レスターは彼女を始末する為に追ってきているのが分かる。


「……畜生があ。しかし、テメェを倒す算段は考えているんだぜぇ。テメェがどれだけ強かろうがなあ。私は炎だけじゃねぇ……、テメェを倒す手段は考えているっ!」

 頂上に向かえば、どうにか出来るかもしれない。

 いや、頂上に向かわなくても、倒す算段は整えられる。

 問題は、成功する事が出来るかどうかだ。


 レスターと言ったか。

 敵は、しっかり、こちらに着いてきている。


 頂上まで、いや、せめて頂上付近まで辿り着ければ勝機はある。


 グリーン・ドレスは頂上付付近まで全力で炎の翼をはばたかせていた。

 ……誘い込む事が出来れば、奴を倒す事が出来るんじゃあねえぇのか?

 彼女は考える。シンプルに。


「何をやっているのか分かりませんが」


 ドレスは気付く。

 何かを投げ付けられている事に。

 彼女の腿の辺りに、次々と何かが突き刺さり、そして貫通していった。……木の枝だった。


「ち、ち、畜生があああああああっ!」

 激痛に耐えながら、それでも、彼女は頂上付近まで目指し…………、頂上に向かう事を諦めざるを得なかった。


 グリーン・ドレスは両手から炎を発生させる。

 そして。


 当たり周辺に炎をバラ撒いて、爆破させていく。

 炎の渦と爆撃が、大地を揺らしていった。



 数十メートル先にいる、能力を行き渡らせた木の枝を放り投げて、炎の天使の脚の辺りに貫通させる事に成功した。

 彼は、次に何を投擲(とうてき)しようか思索を巡らせていた。


 グリーン・ドレスは炎を撒き散らしていく。

 その後、周辺が爆破炎上していった。


「何……っ!?」

 レスターは思わず、唸る。


 辺りに衝撃が走って。


 凄まじいまでの雪崩が引き起こされていったからだ。


「狙いはこれですか……。……?」

 レスターは小さく唸る。


 雪崩が自分を飲み込もうとしていた。

 だが、彼は瞬時に跳躍して、渓谷にある岩山の尖端と尖端へと跳躍していく。


「この雪崩で、この私を圧し潰そうと? この程度の策で私は倒せると本気で思ったのですか?」

 彼はどうにか、雪崩をやり過ごせそうな場所を探していた。

 少し先に、大きく長く尖った山の尖端を発見する。

 彼はそこへ向かって、跳躍していった。


 雪崩が渓谷全体を飲み込んでいく。

 しばらくの間は続いているだろう。

 グリーン・ドレスは更に、山の頂上へと向かっているみたいだった。雪崩を立て続けに引き起こす事が目的なのか。…………?


 ……マイヤーレの施設は雪崩では破壊出来ない程度に堅牢にして、鉄壁の作りをしていた筈。もっとも、外で気絶している構成員達は雪崩に呑まれて、圧死するでしょうが。

 彼は涼しい顔をしていた。

 空を見て、まだ日光が照り付けている。日光さえあれば、あの赤い天使は熱によるエネルギー切れを起こさない筈だ。


「さて、私は暴君達の方を先に始末しましょうか?」

 レスターは考えを切り替えて、マイヤーレの城の方へと向かった。ウォーター・ハウス達が隠れている筈だ。一人、一人、確実に始末しておきたい。

 レスターは敢えて、雪が滝となって降下していく、山の下へと向かっていった。雪崩による衝撃を巧みに逃れて、地面へと跳躍していきながら。


「さて。暴君、施設の中に隠れましたか? 貴方から始末しましょうか?」


 ふと。

 レスターは自分に近付いてくる者の気配を感じる。

 彼は剣を気配へと向けた。


 その気配は、ラトゥーラだった。

 ラトゥーラは生み出した渦巻く炎の剣を手にしていた。


「ああ。君がいましたね。良かった。探して殺す手間が省けて」

 そう言いながら、レスターは長剣を手にして、ラトゥーラを切り伏せようとする。


「僕は、僕はお前を倒しに現れたんだ……っ! ウォーター・ハウスさんとグリーン・ドレスさんの足手纏いに来たんじゃないっ!」

「ふん。そうですか」

 レスターはラトゥーラの首を刎ね飛ばそうとする。

 ラトゥーラは…………。

 即座に、手にしていた炎の剣をレスターの立っている岩の尖端へと放り投げた。岩が剣によって弾け飛んでいく。レスターはすかさず、跳躍していた。


「小細工で、この私を倒す程、甘くないですよ?」

 レスターは、この美貌の暗殺者はせせら笑った。


 ラトゥーラもまた、跳躍していた。

 レスターへと突進する。


 ラトゥーラは。

 レスターへとつかみ掛かる。

 そして、掴み掛かった両手から炎を生み出していく。


「何を?」

 玲瓏な顔の暗殺者は、ラトゥーラの行動に首を傾げていた。


「このまま、僕と一緒に雪崩に飲み込まれて貰う…………っ!」

 ラトゥーラはレスターを掴んで、雪の波へと共に、落下しようとしていた。

 レスターは動じずに、ラトゥーラに掴み掛られながらも、着地した場所で態勢を崩さずに冷静に剣を振るおうとしていた。


「では。私は今から、貴方の首を落として差し上げますね」

 レスターが剣を振ろうとした瞬間に。

 ラトゥーラは彼から身体を離して、自ら雪崩の中へと飛び込んでいく。

 彼が先程、投げ付けた渦状の炎が未だに回転しながら、周辺を焼き焦がし、破壊していたのだった。おそらく、先程、グリーン・ドレスが行った事の真似事だろう。そのネズミ花火のように回転していく炎の剣は、レスターの立っている地面を見事に破壊していく。レスターは今度こそ態勢を崩して、雪崩の中へと放り込まれていく。


 巨大な雪の衝撃が、剣士の肉体を押し潰していく。


「…………。ふん、この程度のもの、私なら簡単に逃れる事が出来ます」

 レスターは雪崩の中から脱出しようとする、が……。

「ほう。果たして、本当にそうかな?」

 背後から、声が聞こえた。


 ウォーター・ハウスだった。

 ウォーターはレスターの背後から現れて、彼の脊髄を強烈に蹴り上げる。


 雪の中から、這い出そうとしていたレスターは全身を転倒させる。


 …………、おそらく、この戦闘で、始めて彼にダメージらしいダメージが入ったと言っていい。レスターは強い眩暈に襲われていた。


 そして。

 更に、レスターの両足首に、ロープのようなものが巻き付いていく。彼の両脚は縛られていく。


「数十秒でいい。いや、十秒くらいでいいな。お前には動かないでいて、貰いたい」

 レスターの両脚を、ウォーター・ハウスは左手で触れた。


「何を?」

 レスターは未だ自由な両腕を使って、敵の策を打ち破ろうとする。彼は右手で即座に剣を振るっていた。ウォーター・ハウスの胸の辺りが切り裂かれる。……浅い。


 ウォーター・ハウスは、その場から離れた。


「脚、どうだ? 人体が、麻痺する毒をお前の両脚の辺りに生成しておいた」

「それで、この私を始末出来ると本気で思っているんですか?」

「知らん。だが、時間稼ぎをさせて貰う。俺達は元々、お前なんてどうだっていいんだ。お前は俺達の邪魔をしなければいい」

 ウォーター・ハウスは雪の中でラトゥーラを拾うと、跳躍しながら雪崩に飲み込まれない、安全地帯へと着地していく。

 レスターは即座に自身の脚を絡み取っているロープを外していくが……。二、三秒程、時間が掛かった。……おそらく、これで充分だったのだろう。麻痺毒を両脚に行き渡らせる時間は、充分だった筈だ。


 レスターは脚を思うように、動かせずにいた。

 下の方を見る。


 雪崩に飲み込まれ、滑り行く彼の落下先に、沢山の人体に安々と突き刺さるであろう、尖った岩が並んでいた。



 シンディはマイヤーレの城の中を探索していた。

 ボスは自分の手で始末する。

 それは彼女が決意した事だった。


 おそらく売春婦が何名か、この城の中に拉致されているだろうと、彼女は予測していた。


 か細い、啜り泣き声が聞こえる。

 シンディはその声が聞こえる部屋へと近付いていく。


 シンディはドアの隙間から部屋の中を覗き込む。

 悪臭がする。

 おそらく、マトモにシャワーを浴びていないのだろうか。


 部屋の中に、この国に住んでいる人種とは違う肌の女性達が押し込められていた。彼女達は売春婦として働かされているのだろう。おそらくは移民だ。部屋の隅には排泄物を入れる為の大きな樽が置かれていた。悪臭の下はそこだろう。


 彼女達の全身には顔から身体のあちらこちらに、タトゥーが彫られている。中には卑猥な柄のタトゥーを彫られている女もいた。徹底的に彼女達の自尊心を破壊して、組織の道具として自覚させる為だろう。


 ……赦せない。

 シンディは自身の下腹部に彫られた屈辱的なタトゥーを思い浮かべる。

 ムリヤリ入れられたタトゥー。

 マイヤーレのボスを殺害するまで、決して消さないと決めたものだ。彼らは徹底的に娼婦達を奴隷や……いや、家畜のように扱っている。人権なんて無いし、人間とさえ認めていないのだ。


「貴方達は助ける。待っていて……」

 シンディは部屋の中にいる女性達を見て、呟いた。


 シンディの懐に、ナイフと拳銃を携帯していた。

 これで、マイヤーレのボスを始末するつもりだった。

 彼女は自身の能力を使い、周辺の悪意や敵意を探知する。

 向かってくるマフィアの構成員達も、みな始末するつもりでいた。




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