第二十四夜 マフィアのボス達のサミット。
1
「分かった。臨時的に明日の午後に“ボス会”を開く。サミットは必要みたいだからな」
電話の向こうにいるサトクリフは、かなり焦った声で息巻いていた。
ムルド・ヴァンスは自室の中で、小さく溜め息を吐き、スマートフォンの背をコツコツと叩いていた。
<頼むぜ、ムルド。暴君一行はメリュジーヌに集まっていた殺し屋連中をみんな片付けちまったじゃねえか。更に、お前の言う処によると、ヴァシーレって奴も行方が知らねぇ。後、残っているのは、マフィア組織のボスである事を隠していたお前だけじゃねえか>
「ああ。そうだな。奴らは強い。予想以上だ」
ムルドは神妙な顔で、サトクリフの声を聞いていた。
そして、少しだけイラ付く。
「サトクリフよ。マイヤーレって組織だけは、なんで、ボス同士の会議のサミットに、組織のトップが来ねぇんだろうな? お前の処のボスは何で、顔を出したがらない?」
<行けねぇんだよ、ウチのボスは。……なあ、これ以上は言えねえ。とにかく、ウチのボスであるエスコバーレは、ボス会には参加出来ねぇ。……どうしようもねぇんだ……>
「そうか、なる程、分かった。じゃあ、いつも通り、代役であるお前が来る。それでいいな。お前の連中にも俺から連絡しておこうか?」
<いや、俺から連絡するよ。他の奴らの協力も必要だ。正直、暴君達には勝てねぇ。どうしようもねぇよ。魔女ラジスも死んじまったんだろ?>
「ああ、そうらしいな」
ムルドはワインのボトルを片手で開ける。
「まあいい、サトクリフ。お前の処のボス、エスコバーレには、そのうち会いに行くからな。ちゃんと、顔見せろよな。面子があるだろ?」
<あ、ああ>
「じゃあ、明日、ボス会を開く。何処に、何時か、ちゃんと言ってくれ>
<そちらのメリュジーヌでいいか? 東部がいい。そちらでみんなを集めよう。いつものメンバーだ。各カルテルの奴らを集める>
「そうか。分かった、じゃあ、ちゃんと声掛けておくんだぞ」
サトクリフは礼を言って、通話を切った。
ムルドはハーブ入りの赤ワインをラッパ飲みしていく。
「マイヤーレのボス、エスコバーレ。……もしかして、もうとっくに死んでいるのか?」
彼はそんな疑問を呈するのだった。
†
車の後部座席で、グリーン・ドレスとシンディの二人が缶ビールで酒盛りをしていた。車の中に大量のソーセージやポテトを持ち込んでいる。何でも、メリュジーヌでビヤホールに入れなかった鬱憤を晴らしているとの事だった。
「酒臭いです、二人共」
ラトゥーラはむっつりとした表情で運転を続けていた。
ウォーター・ハウスはと言えば、何冊かの書籍を読み漁りながら、そのまま助手席で寝てしまっている。ぶっ通しで、何時間も運転させられている。これから、いくつもの国をまたぐとの事だった。しかも、途中、途中、後部座席の二人に言われて、トイレ休憩と買い出しの為に、何度も駐車させられている。……とにかく、自分はこき使われる運命にあるのか、と、彼は悩んでいた。
「それにしても、シャワー浴びたいな。セーラー服、少し臭うようになってきたし……。服も洗いたい…………」
「じゃあ、ラトゥーラ。水着着ろよな、女物のっ! フリルが付いている奴、絶対、写真取ってやるぜっ! 写真集作れよなあっ!」
「ラトゥーラー、お姉さんからの命令―、メイド服もいいよー」
後ろの二人の酔っ払いは、そう言いながら、ラトゥーラを茶化していた。
ラトゥーラは、うう、と項垂れる。
座席の下から、何本も空き缶が転がってきた。
2
MDにある大きな組織のボス達で行われるボス同士の会議。
通称、ボス会。あるいはサミットと仲間内で呼ばれている。
何か揉め事が起きた時や縄張り争いに発展した時、他にも様々な事で、ボス会なるものは開かれていた。まるで、仲良しサークルのような呼び方だった。
行われる地域は毎回違う。
だが、集まるのはいつも似たような面子ばかりだった。
今回はメリュジーヌの東部にある都市『メロー・シュバルツ』という場所だった。ムルド・ヴァンスが彼の組織ヘルツォークの本拠地を置いてある場所の付近だ。サトクリフはそこを指定した。
場所は高級ホテルの最上階、貸し切りだ。
時間は午後の3時。
ランチを終えた後、すぐだ。
ボス会には、各組織のトップが集まって、交流会も兼ねた会議を開いていた。まるで、何かの仲良しサークルや学生時代の友人グループのように集まる。
だが、話す会話は極めて殺伐としたものだった。
ムルドは待ち合わせ場所のホテルのソファーに座っていた。
従業員達の何名かはマフィアの協力者だ。仲にはムルドの組織に所属している者もいる。
「さて、と。今は14時25分か。二人程、遅れてくるだろうな。メテオラと残月は遅刻の常習犯だ」
彼はそう言いながら腕時計を眺めていた。
元軍人である屈強な男、サトクリフがムルドの前に姿を現す。
「お前一人か?」
元軍人は、少し憔悴したような顔をしていた。
「そうだが。他の五名は?」
「ケイトは10分後に着くそうだ。レスターは既に着いているが、彼は全員、揃わないとビルの中に入らないとの事だ。残月、メテオラ、ポロックからは連絡が付かない。どうせ、遅れてくるだろうが。本当に、どいつもこいつも…………」
「まあ、いつも通りだな。あいつらはこの会は仲良しクラブの集まりだと思っている。そもそも、俺とお前、ケイトは組織同士の対立を無くす為に動く穏健派。他の三名は他の組織の寝首を掻く事ばかりを考えている。メテオラが率いる『アルレッキーノ』もイカれ警視総監共々、幾つかの弱小組織を潰した。ポロックの『オルガン』は幾つかの新米の弱小組織を強引に併合させたそうだ。本当に過激な奴らだよ」
ムルド・ヴァンスは葉巻に火を点けながら、大きく溜め息を吐いた。
「しかし、何故、みんな仲良くやれないのかねえ。俺は平和が好きなんだが」
そう言いながら、ムルドは唇のピアスを弄るのだった。
†
「どうもみなさん、今回もこの会に集まってくださってありがとう御座います」
三十路後半といった優男はIT関係の若社長だった。
スーツを着て、見るからに一般人にしか見えない。
だが、彼は表向きは普通の会社の社長だが、裏にマフィアを抱え込んでいた。彼の会社の名は『ゴースト・カンパニー』と言う、それが彼の組織の名だった。彼の名はケイトと言う。この会のまとめ役だ。
ソファーの上に『アルレッキーノ』のボスであるメテオラが、ふざけた道化師の格好で座っていた。彼にしては珍しく、時間ギリギリで遅刻せずに現れたのだった。
サトクリフは少しだけイライラしていた。
時間は16時10分。たっぷり一時間以上も遅れて来ている。
「ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、渋滞に巻き込まれちゃってさー」
そう言いながら最上階の部屋に入ってきたのは、小さな少女だった。十歳前後の童女だと言ってもいい。青に緑のマントのような服を着こみ、胸元には禍々しい髑髏の絵が描かれている。
彼女の名はポロック。『オルガン』という臓器売買組織、児童ポルノ組織のボスをしている少女だった。……少女の姿をしているが、実年齢はかなり高いだろう。ムルドは彼女の正体は未だに分からない。
ポロックの背後には、着物という異国の服に身を包んだ、全身にタトゥーと切り傷の入った髪の毛が腰まである黒髪の女が佇んでいた。
残月。
異国の名前だ。本名なのかどうかは不明だ。実年齢は四十路を超えているだろうが、まだ二十代後半くらいに見える。この会の設立者で、後にケイトにまとめ役を任せた者だ。
『ハイドラ』という麻薬売買組織のボスをやっている。魔女ラジスとは知己の仲だったらしい。
そして、彼女の右隣には、一人の女装姿の美しい顔の青年が佇んでいた。
ゴシック・ロリィタの装束を身に纏っている。
桃色の髪の毛を編んで、腰元まで伸ばしている。
一見、どう見ても女にしか見えない。両性具有のヴァシーレを彷彿させるが、明るく下品なヴァシーレが陽ならば、対して、この美青年は上品な立ち振舞いで、物腰が柔らかく、そして……強い狂気を秘めた瞳をしていた。腰元にはいつも、長剣を帯刀している。たまに、ファンタジー小説に出てくるような女騎士のような格好で現れる事もある。
レスター。
それが彼の名だ。
彼はマフィア組織のトップでは無い。
彼はこの会における用心棒みたいなものだ。あるいは調停者と言っていい。仮に誰かがこの会で他のメンバーを殺害しようとした時、言い争いから銃撃戦に発展しそうになった時に、それを制する為に彼は同席していた。
レスターをMDのマフィア組織が依頼する殺し屋の中では、最強だとも言われていた。彼より強い殺し屋は存在しないとも。勿論、殺し屋の殆どは超能力者だ。能力同士の相性なども存在する。だが、彼は他の殺し屋よりも頭一つか二つ程、明らかに抜きん出ていた。
ムルドが聞いた処によると、ヴァシーレは彼、レスターに憧れているらしい。実際に殺しの訓練で師事を受けた事もあったそうだ。ヴァシーレは男性時も女性的な格好をしているのだが、もしかすると、ヴァシーレはレスターに容姿の面でも強い憧れを抱いているのかもしれない。
「じゃあ、みなさん、会議、はじめましょうよ。私は此処で見守っていますから」
そう言って、レスターは満面の可愛らしい笑顔をみなに向ける。
残月とポロックは頷く。
しばらくの間、会議と称して、他の組織に助けを求めたサトクリフが現在の状況を説明していく。暴君達四名はこのままサトクリフの組織マイヤーレのある北東の『ファハン』に向かっている。何名か新たな殺し屋を派遣しているが、全員、マトモに傷一つ負わせられずに返り討ちに合っている、と。
「私の方でも、他の殺し屋に呼び掛けましたが。全滅みたいですね」
レスターは淡々とそう告げる。
「やっぱり、私が行くしかないみたいですね」
そう言って、彼ははにかんだ。
サトクリフは泣きそうな顔で、レスターの手を握って礼を言う。
「それにしても、情けないわねぇー。たかだが、四名でしょ? 数で始末出来ない? あたしの処の組織、かなり賞金出したんだけどさあー。正直、出し過ぎじゃない、って思っているくらいなのよねぇー」
残月はキセルに火を点ける。
「全員、弱っちい奴らばかりなんじゃない? じゃない?」
ポロックは嫌味の入った声で言った。
「ならお前ら行ってみるか? 手強いぞ」
ムルドは葉巻に火を点けながら、面倒臭そうに言った。
「暴君だろおぉ? 色々な事件に関係しているー。俺さあー、一度、殺り合ってみてぇーんだよねー。これ本気でマジで言っているんだけどなあー、俺のショーの一部にしてぇよ。俺の大劇場に参加してくれねぇかなあ? 何なら、闘技場のファイターとして出演してくれたら、多額のギャラ払うんだけどなああっ!」
メテオラはいきなりナイフでジャグリングを始めながら、そんな事を言い始める。
まとめ役であるケイトは少し困ったような顔をしていた。
やはり、この会に参加する組織のボスはクセモノ揃いだった。容姿も中身も、一番、マトモなのはサトクリフくらいだろう。逆に彼は凡庸な男でしかないのかもしれない。正直、ムルドはこの面子の大多数がマフィアに見えない上に、マフィア組織のトップである事を外側の人間に教えたら何かの悪い冗談だと受け取るに違いないと思っている。残月も、メテオラも、ファッションが奇抜過ぎるし、ポロックに至っては、ただの児童だ。こんな連中が、大量のゴロツキ共をまとめている等と、一体、誰が信じるのだろうか。
だが、彼らの組織はMD中に数多にあるマフィア組織の中でも、大きな縄張りを手にしており、支配力、影響力を有していた。ぽっと出のマフィア組織など、彼らの餌食にしかならないだろう。みな連合の中では、相当な影響力を持っている。
「メテオラ。警視総監殿はお元気か?」
ムルドはそれとなく訊ねてみた。ヴァシーレの動向が気になる。
「ああ? 元気だぜい? ぽんぽん、一般市民、裏で殺害している正義の味方様だっ! ま、あのオヤジが頑張ってくれているお陰で、俺は組織のボスやりながらでも、色々なショーで遊べるからなー。組織の維持、運営は、警視総監殿や他の部下達に任せているよ。俺、そーいう柄じゃねぇーし」
メテオラは、ジャグリングのナイフの中に、火の点いた蝋燭を混ぜ始めていた。
既に、彼とヴァシーレが殺し合った事はムルドの耳に入っている。
更に、ヴァシーレが警視総監コルトラに宣戦布告を行った事も、ヴァシーレ本人から電話で聞かされている。メテオラはムルドとヴァシーレが組んでいる事は知っている筈だ。
だが、メテオラはその事に関して、一切、言及しない。
泳がせているのか……。それとも、本当に、どうだって良いと思っているのか……。
残月は席に着いて、並んでいる高級料理を皿に入れ始める。
「なにこれ、凄い美味しい。鴨肉のローストね。オリーブ・オイルがたっぷり」
格好こそ奇抜だが、残月のそれは、普通の女だ。
もし全身タトゥーを隠して、コンサバ系の服に身を包んだのなら、彼女を一般人のOLだと紹介しても、誰も疑おうとはしないだろう。
だが、この女のせいで、MD中の未来ある若者達はクスリ漬けのジャンキーになって、多くは留置所や刑務所で過ごしている。しかも、一度、流通させた麻薬はそれこそ多頭蛇の首のように増殖し、首の何本かを切り落としても、何度でも切断面から生えてくる。故に組織名があの神話の怪物ヒドラの別名である『ハイドラ』なのだろう。
彼女が麻薬の流通によって生んだ資産は、小国の国家予算にも匹敵するとも言われている。
「この国の高級ホテルの食材は安物ばかりなのかなあー? かなあー? ポロック、ぷんすかぷんすか、するなー」
そう言いながら、童女。あるいは可愛らしい顔の幼女は不機嫌そうに食事を口にしていた。
ポロック。
この幼女はムルドの知る限り、このメンバーの中で、もっとも最低な奴だ。人間としても相当なゲスな部類に入るだろう。彼女は貧困者の子供から生きながら臓器を摘出させる事を拒まないし、世界各国にネットワークを駆使して先進国の病気持ちの子供の両親に、MD中の貧困者の子供の臓器を提供している。そして、児童ポルノでの荒稼ぎも酷い。……それにしても、この幼女の実年齢は、一体、幾つなのだろうか? 超能力の産物か何かで、幼女の姿をしている事は間違いない。だが、彼女がとてつもなく邪悪で醜悪なモンスターである事には何も変わりは無いのだ。
そして、ケイト。
彼はIT企業の社長だ。世界各国に自身の会社を持っている。
彼は主に軍事産業に投資をして、各国の戦争に協力している。政治家にも献金しているし、原子力の利権も持っている。一方で、彼の会社が作り出すパソコンなどは、MDに住む多くの人間が利用している。ケイトは何冊か書籍を書いていて、ベストセラーにもなっている。彼の事を尊敬して、独立して起業する若者は多い。みなから青年実業家として慕われている。……彼が世界の裏側で、戦争に手を貸して利益を得たり、原子力に投資したり、人体に病気をもたらす遺伝子組み換え食品の作成に手を貸しているという事を知らずに。ケイトが指揮棒を振れば、一国の経済が破壊されるとも言われている。
ムルドは、このメンバーの中ではかなりの下っ端だ。ムルドの『ヘルツォーク』は弱小組織に過ぎない。
せいぜい、ムルドのやっている事は一介の武器商人に過ぎない。組織内で銃火器を制作、製造して、他のマフィアや各国の軍隊に売り付ける。稼ぎは他のメンバーに比べれば微々たるものだ。
「そうだ。ムルドさあ、ねえ、ねえ」
ポロックは、ムルドの方を見る。
「ウチの『オルガン』も、銃火器の製造してぇ、売りたいんだけどおぉ。ちょっとくらいイイかな? ねぇー?」
そうポロックは瞳を潤ませながら告げる。
「オイ、テメェ。クソババア、ふざけんなよ? お前のトコ、カジノ沢山、作ったろ? MD中のカジノは俺と俺の組織が利権を持っているつーんだろおがぁ。競合相手として、この俺と争うてーのかあああぁ? なあぁ??? テメェは以前、ヘロイン製造もしていたよなあぁ? ドラッグは『ハイドラ』、ギャンブルは俺の『アルレッキーノ』。それで、縄張りってのは決めているよなあああああああぁ?」
殺人道化師メテオラはジャグリングを止めて、あからさまにポロックにナイフを投げ付けようとしていた。レスターが二人に睨みを効かせていた。
「ちょっとだけ、ちょっとだけじゃんね? ね? ね? イイじゃん。カジノは儲かるんだし、ポロリンにも、ちょっとだけ美味しいお菓子食べたいなーって」
「ポロック。マジで『オルガン』潰すわよ? あんたがヘロイン流した時、あたしのシマがグチャグチャになった。不純物ばかりだったし。ええ? おい? ファミリーはいつから、あんたが引っ掻き回して良い玩具箱になったっつーのよ? 今、脳漿撒き散らされてぇーのかよ? やるわよ? ああ? クソババアがああああああっ!」
べきべきっ、と、先程まで食事をしていた残月がフォークを素手で握り潰していた。
幼女は残月とメテオラの二人を舐め腐った眼で見て、両手を広げる。
「だって、ポロ。もっとお金持ちになりたいんだもん。臓器売りだけじゃー、余りお金にならない。ウチの競合相手の組織は幾つもあるし、それに、正規ルートで臓器提供している団体もある。極めて気にいらなーい。ドラッグ、ギャンブル、放っておいても、ドカドカ、ズカズカ、財布がいっぱいになるビジネスにポロも手を出したーい」
この幼女は、トラブル・メーカーだった。
いつも、ファミリーを引っ掻き回そうとする。
この幼女は、相当な数の者達から恨みを買っているとも聞く。極めて強欲で、連合に所属している他の組織のボス達の事をマトモに考えようともしない。自己中心的で、性格も極めてねじ曲がっていた。
「なるべく、温和にして戴けませんでしょうか? 少なくとも、今日の会は、サトクリフ様の申し出で開かれたものですし」
レスターが睨み合う三人の中へと入る。
残月は憎悪の籠もった眼でポロックを見ていたが黙る。
メテオラは何事も無かったように、ジャグリングを再び始めた。
ムルド・ヴァンスは心の中で思った。
近々、此処にいる面子が組織同士で殺し合う事になるかもしれない。MDのマフィアの頂点は自分達ではなくて、漁夫の利を得た、此処にいない組織のモノに移るかもしれない、と。
だが。
「とにかく、今はサトクリフだ。彼のマイヤーレだ。ボスはいつも通り、未出席だが、代役の彼の為に誰か手を貸してくれないか? 賞金を掛けて募った殺し屋の殆どが全滅したんだから、どうしようもない」
ムルドは葉巻を強く噛みながら、苦言を呈するようにまとめる。
「では、私がやりましょうか?」
ゴシック・ロリィタ・ファッションの美青年が告げる。
レスターだ。
「ファミリーが募った殺し屋は全滅なんですよね? 貴方を除いて。ヴァシーレは奴らに寝返ったとさえ噂されています。以前、ヴァシーレは私に師事した事があります。奴らの始末も、ヴァシーレの手打ちも、私が行いましょうか?」
レスターは自身の胸に手を置く。
彼の全身から、底なしの闇のようなものが禍々しく炎のように燃え上がっているかのようだった。
「頼んだぜ、レスター。他にも、誰か……」
サトクリフは彼の背中を叩いて喜ぶ。
「いいえ、私一人で充分です。奴らを全滅させられる」
彼は凛とした口調で言った。
「レスター。サト君の言う事は聞いておけよおぉー。お前、一人だってやれるって言っているけどよおぉ。俺はお勧め出来ねぇ。他にも数揃えておいた方がいいんじゃねえかあ? 最後の最後でしくじっても知らねぇえぜぇ?」
メテオラは少しだけ罰の悪そうな顔をしていた。
彼は先日、ヴァシーレを襲撃して逃げられている。それに関して周りから小馬鹿にされたくない為に、ヴァシーレの件を言い出さないのだろう。
「メテオラ」
レスターは殺人道化師の手を握り締めて、彼を抱き締める。
メテオラは少し困惑したような顔をする。
レスターはメテオラの額に自身の額を当てる。
「私一人で充分。他の奴らは足手纏い。ふふっ、メテオラ。私一人で充分ですよ」
「イチャイチャしている処、悪いが」
ムルドは口を挟む。
「奴らを舐めるな。……そうだな、念の為に“彫刻家の男”を連れていけ。奴もちょうど、この国に住んでいる筈だ。レスター、お前が迎えにいけよ」
言われて、レスターはメテオラから身体を離すと、渋々、頷いた。
ムルド・ヴァンスは灰皿に葉巻を押し付ける。
「これで今回のボス会は終わりだ。じゃあ、各自解散するぞ。利権に関しては、ポロック、お前、満足しろよ。他人の縄張りを横取りしようとするな。仲間同士での流血沙汰は……正直、勘弁して貰いたい」
「もし……」
少女は顔を歪めさせながら言う。
「もし、この中の誰かが連中にやられたのなら?」
彼女は明らかに、サトクリフの組織マイヤーレの事を差していた。
「その後釜の利権。縄張り。奴らをぶっ殺せた奴が手に入れられるってのはどう? ねえ、どう? ついでに、サトクリフのマイヤーレを守る為にみなで出し合った賞金、ポロが全部、ゲットしても良いよね? ねえ?」
「ああ、いいぞ。それでいい。サトクリフも、それでいいよな? お前の処のボス、エスコバーレもそれで納得する筈だよな?」
「あ、ああ…………、異存は無いと、思うぞ」
サトクリフは頷く。
他のメンバーも頷いた。
眼を爛々と輝かせながら、この醜悪な心の少女は舌舐めずりをするのだった。
そして、ようやく、今回の“ボス会”なるものは、平和的に終わった。




