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第二十二夜 顔の見えない何者か。

 ××××年8月12日生まれ。血液型は0型。身長176センチ。体重84キロ。やや肥満体質。煙草にアルコールを嗜んでいる。一流大学を出て、そのまま警察官の道を進む。


 そして、順調に出世の道を歩いているが、彼には絶えずスキャンダラスな噂が纏わり付いている。


「特殊部隊か…………」

 ヴァシーレはコルトラ警視総監の資料を漁っていた。


 コルトラの特殊部隊は謎に包まれている。


 ヴァシーは『ヴァンピーロ』という国へ飛行機で到着する。メリュジーヌから東南へと下っていった場所にある国だ。ウォーター・ハウス達は飛行機や船の類は空や海で狙撃される事を警戒して陸路から長々と向かっているが、まだ、ヴァシーレの動きを知る者はいない。ヴァシーはヴァンピーロの首都にある、アルレッキーノのカジノへと向かっていた。情報によければ、今日は、此処にアルレッキーノのボスが滞在している筈だ。組織のボスを始末する。ヴァシーは決断して、躊躇が無かった。


「さて、と。ひひっ」

 ヴァシーレはバイクを一台、盗む事にした。

 ヴァシーは駐車場へと向かう。


 バイクを手にした後、次はレンタカーを手に入れたい。そうやって、追跡が出来にくくするように細工する。目的地はこの空港付近から百と数十キロ程、離れた場所だ。カジノは知る人ぞ知る場所で、ヴァンピーロという国の闇経済にも貢献している。観光客がカジノ目当てでよくやってくるらしい。



“敵の正体が分からない”。

 いや、本質的に言うならば、このMDという地域全てが“敵”といっても過言ではないのかもしれない。結局の処、自分が戦っているのは“資本主義”そのものだと言ってもいい。ムルド達、マフィア組織(カルテル)のボス達の上に君臨する何者か。それらは確かに存在しているが、実体が分からない。……何者なのか。そもそも、実体なんてあるのか?


 ヴァシーレのひとまずの目的は、カジノを牛耳る組織(カルテル)である『アルレッキーノ』の利権を手に入れる事だった。……だが、自分は連合の一部として生きているのだろうか?


 本音では、暴君と赤い天使に強い憧れを抱いているのではないのか?


 奴らはたった四名でMD中の連合(ファミリー)に立ち向かっている。

 ……もう、安心なんて出来る場所なんて無いのに。

 彼らを突き動かしているものは、一体、何なのだろう?


 そもそも、

 連合(ファミリー)とは一体、何なのだろうか?


 資本主義そのもの?

 マフィアと大企業、政治家達が癒着した集団?

 あるいは、国家そのものなのか?


 MDという複数の国家が集まった大陸そのものでさえあるのかもしれない。


 保育園に通う小さな子供から、年金暮らしの老人まで、組織(カルテル)の存在は漠然と知っていたとしても、自分達はまるで関わり合いのないものとだと考えている。けれども、一般人が普通に消費している、金の流れを追っていくと、つねにマフィアの資金源は尽きない。


 他国で多くの重労働を行っている奴隷達。

 マフィアの下で働かされる売春婦達。

 MD中に撒き散らされた違法ドラッグ。

 戦争を経済行為だと考えている武器商人達。

 

 自分達は汚れた利潤の中で生きているし、腐った世界の下で生きている。



 暴君と赤い天使は、この構造(システム)自体を破壊しようと考えている。


 ヴァシーレからすると、イカれているとしか思えない…………。


 だが……。

 自分だって、こんなクソみたいな社会でクソみたいな生き方をしている汚れた存在でしかない……。小賢しく立ち回り、金に踊らされて生きている……。何の為に?


 大切な父親の遺恨の為に、賭博の胴元の頂点になりたい。

 それは、ヴァシーレの夢であり、この世界に対する復讐だった。



 何者かに監視されているような気がする。


 コルトラを挑発した事が原因だろうか? いや、挑発ではない…………、明確な宣戦布告だと言ってもいい。


 だが、妙だ。

 確かに、コルトラの回し者だと思われる者達も自分を嗅ぎ回っている。だが……。


「何か、妙だな……」

 ヴァシーレは考え込む。

 何か分からないものが、自分を狙っている。


 それは、自分が連合を探り始めてからだ。

 ヴァシーは、探り始めている。

 …………、MDのマフィア組織達のボスと、……そして、マフィア組織のボス達の上に存在する、何者か、に関して…………。


「しかし、妙だな…………」

 ヴァシーレは街を歩いている時も、何か不可思議な世界に迷い込んだような気になった。何かが、おかしい。この違和感を拭い去れない。


 後ろに張り付いている警官が二人。

 彼らはコルトラの部下だろう。

 鏡を見て、制服や身に付けている紋章も確認した。


 …………、ヴァシーレを監視しているのは、彼らだけでは無い。


「なんだあ? 一体?」


 ヴァシーは、ひとまず、レンタカーを借りる事にする。

 偽造免許証を上手くやりくりして、レンタカーに乗る。


 BGMを流す。


 時刻は夕方の6時だ。

 少しずつ、暗くなってきている。


 バックミラー。

 何か、妙なものが映っているような気がする。


 路地裏の物陰。


 ……ああ、ひひひっ、分かったぜ。俺を始末する為の暗殺者(ヒットマン)でも募ったかあ? コルトラよおぉ。俺を評価してくれているじゃあねぇか。やっぱ、ビビりだったなあ?


 ヴァシーは駐車場で、レンタカーを乗り捨てる事を考えた。

 追っ手の追跡を免れなければならない。


 気配を感じる。

 次第に外が暗くなってくる。


 霧が街中を覆っていく。


「なんだあ?」

 ヴァシーは思わず、呟いた。


 コルトラの部下である警官達はまいた。

 だが……。

 もう一つの、何だか分からない何かの方は、依然として、ヴァシーレを追跡している。……そういえば、いつの間にか、よく分からない路地の中に迷い込んでいる。……此処は一体、この街のどの区画なのだろうか?


「おかしい…………、やっぱ、おかしいぜ…………。これ絶対、能力者のテリトリーだろ?」

 ヴァシーレは息を飲む。


 周りを見渡すと、家々が朽ち果てた廃墟のように見える。

 空を見ると、月が不気味に浮かび上がっている。月の色が少し紅い。


 機械音のようなものがする。……動物の唸り声にも聞こえる。

 そういえば。

 レンタカーを駐車した場所は何処だ?

 ヴァシーレは自分が一体、何処を歩いていたのか方向感覚が分からなくなっている。


「なんなんだあ? 此処は?」

 

 人が一人もいない。

 けれども、ヴァシーを監視している気配のようなものは日増しに充満している。

 しばらくの間、廃墟のような場所を彷徨っていく。

 巨大な工場のようなものが聳え立っていた。


「なんだか。……あの工場の中に入らなければいけない気がするなあ……」

 何故だか、そのような衝動に襲われる。理由は分からない。


 ヴァシーは工場の扉を開ける。

 中は、奇妙な大量のパイプが壁を張っていた。


「何だ? 此処は? 一体、何を生産している工場なんだ?」


 ヴァシーレは入ってきた扉が、一人でに締まる事に気付く。


 ……おいおい、待て。これ、マジなのかよ?

 ヴァシーレの心拍数は上がる。


 もしかすると…………、既に、自分は始末されようとしているのか?


 ヴァシーレは入ってきた扉に手を掛ける。……開かない。

 仕方無く、先に進む事にする。

 敵の能力の一切が正体不明だ。自身の『エンジェル・クライ』の分身で逃げ切れる自信は……無い。


 それでも、ヴァシーは工場の中を進んでいた。

 まるで、甘いハチミツにでも誘われるような気分だった。


 天井や床下、壁から轟音がする。生き物の唸り声のように聞こえる。


 ふと。

 ヴァシーレの背後に、濃厚な気配を感じた。


「お前は、探っているな? ……色々なものを…………」

 ヴァシーレは刃物を取り出して振り返す。


 ……誰もいない。


「出てきな、チキン野郎。テメェは一体、なんなんだ?」


 ぞわり、と、気配が広がる。


「少し、先の方に進むといい。これから先に、お前が待っている未来がある」

「おい。ふざけるな」


 ヴァシーレは声のした方角へと進んでいく。


 それは巨大な石の壁だった。

 壁の中には大量の死体が埋め込まれている。死体は脈打ち、未だ呼吸しているようにも見えた。


 ヴァシーレは恐怖の余り、全身から冷や汗を流す。


「かつて。MD中の連合の中核に迫ろうとした者達の成れの果てだ。彼らは死ぬ事も出来ずに、永遠の後悔をしながら、この壁の一部として今も懺悔の時間を続けているのだよ」


 声は何処からともなく、聞こえた。


「テメェ。コルトラの雇った暗殺者か? それとも組織『アルレッキーノ』のマフィアか!?」

 ヴァシーレは自身を鼓舞するように叫ぶ。


「どちらでも無い。わたしは、既に連合の一部であると言ってもいい。お前のような存在は、過去に何名もいた。わたしは、お前のような存在を始末する役目が与えられている。わたしはお前の名さえも知らないが…………、今回は、警告なのだ…………。お前は中核に近付く事を考えているな? それを止めろと、このわたしは言っているのだ」


 ヴァシーレは振り返る。

 そこには、とてつもなく不気味な……、口から上の顔半分が消滅した男が立っていた。頭蓋も眼も耳も無い。ただ、口と鼻だけが不気味に存在している。頭半分が存在していない。蜃気楼のように、全身が揺らめいている男だった。


「なんだ? テメッはっ!?」

「警告は与えた。お前が、壁の一部として懺悔の時間が与えられぬよう。わたしは願っているよ」


 そう言うと、空間自体が揺らめいて、消滅していく。


 ヴァシーレは気付く。

 気が付けば、レンタカーを停めた駐車場の辺りにいた。


 …………、精神攻撃の類か?


 ウォーター・ハウスの協力がいる。

 この情報を絶対に伝えなければならない。


 あの顔の上半分が無い男。

 奴とも、いずれ暴君は戦う事になるであろうから……。


 だが、その前に。


「『アルレッキーノ』とは関係無いっつったよなー。なら、奴らの利権を得ても構わねぇよな?  MD中のマフィアのトップ達が他の競合相手を潰しながら、トップに君臨しているって話は耳にした事がある。ならよおぉ、俺が賭博ビジネスの利権を得てもいい筈だぜ。さっきの奴、アルレッキーノと関係無いっつーのなら、俺はこのまま、目的のカジノへと向かうぜっ!」

 ヴァシーレは先程の警告に怯む事なく、先程の警告を無視して、アルレッキーノのボスが現在滞在しているという情報のあるカジノへと向かった。これから、MDで賭博を取り仕切るボスをぶっ殺して、自分は賭博利権によって伸し上がる。

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