最終話 港町の海の木漏れ日。
ブエノスを倒した後も世界が何か変わったという事は無い。
あの男はどうしようもなく、この世界の悪の象徴にしては、小物過ぎる程に小物でしかなかった。みなと旅をして戦って、この世界が特に良くなったわけではない……。
腐敗した利権……。
政府と癒着するマフィア達……。
ドラッグや貧困に苦しむ国民達……。
何一つ変わったわけではない。
ただ、それでもウォーター・ハウスはレスターから言われた。
意味のある事をした、と。
ただ、今、いる者達は、みな、少しでも世の中は良くなるように努力していくのだろうか……。
港町。
メテオラはようやくサンドイッチの具材をちゃんと切れるようになった。
ウェイトレスの店員を増やした。グレーゼだ。
グレーゼはそれなりに料理が得意だったので、すぐに喫茶店の店員に馴染む事が出来た。黒尽くめの服の上から着るエプロンは、少し恥ずかしそうだった。
「処でこの店の名前って何て言うんだ?」
ウォーター・ハウスはシンディに訊ねる。
「あのー。ウォーターさん、ちゃんと聞いてなかったんですか?」
「で。なんだ」
「看板―」
ウォーター・ハウスは看板を見る。
『月の下の星屑店』と描かれていた。
妙にメルヘンチックだ。
メテオラの趣味か、それともシンディの趣味か。あるいは両方の趣味か。
レスターとは業務連絡のみ行っていた。
ヴァシーレと一緒に、六大利権の負の遺産の処理で忙しいとの事だった。
ウォーター・ハウスは『月の下の星屑店』の奥で読書をしながら、うたた寝をしていた。
「コーヒーの味が良くなったなっ!」
グリーン・ドレスが騒いでいた。
「グレーゼさんが淹れてくれたのが上手いんですよっ!」
シンディは笑う。
「処でこの店って酒出さねぇの?」
「ドレスさんは、酒癖でモノ壊したり燃やしたりするから、絶対、此処では出しませんっ!」
シンディは叫ぶ。
「別にいいじゃねぇえかよっ!」
「よくありませんっ! 弁償出来ないでしょっ!」
「まあ、確かに金稼ぎしないといけねぇけどなっ!」
「そう言えば、ドレスさんって。何でお金稼いでるんですか?」
「あーあー、ウォーター・ハウスにおんぶに抱っこ…………」
「ドレスさんも働きましょうよっ!」
「あー。普通の働き方、わかんねぇーんだわ。あいつの場合は株とかで稼げるからなっ、腹立つ事にっ! 今はレスターからも給料貰ってるんだとよっ!」
二人の口論は延々と続いていた。
仲の良い証拠だ。
ウォーター・ハウスは紅茶とサンドイッチの代金を置くと、店を出る。
港町は平和だ。
弱小マフィア組織の連中と、それに加担する議員を黙らせた為に、国家権力からの国民のカツアゲは減っていった。今では売春婦を選ばざるを得ない女性も減り、そもそも貧困層自体が減り続けている。
空を見上げると、夕方に月が輝いていた。
ウォーター・ハウスは軽やかな足取りで、海辺にあるラトゥーラの墓へと向かうのだった。
了
 




