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第一夜 港町の廃工場。 1

 これ人間の戦いじゃないだろ!?

 眼の前にいる二人の戦闘を見ながら率直に出た、少年の感想だった。


 廃工場が並んでいる場所だった。

 この辺りはよく闇のビジネスの取り引きや、死体を処理する場所に使用されている。


「さっさと死ねよ。頼むから死んでくれ、臭ぇ植物野郎がっ! ああオイ、灰になれよっ! プラナリアみてぇに増殖しやがってよおぉ!」

 真っ赤な炎が燃え盛る。

 女の叫び声だ。かなり攻撃的な怒声を上げていた。


 炎を身に纏う女が空を飛翔していた。

 彼女は工場と工場の屋根を、跳躍し続けていた。


 全身が緑色の皮膚をしている男は地面に着地すると、途端に砕けたコンクリートの破片を口の中に頬張り始めた。咀嚼し嚥下していく。男の手足は散らばっていた。だが、散らばった手足の切断面から木の根が生えて地面に潜り込んでいく。


「ふーん、ひーひひっ。ふーん、ひひーひぃー! 食べて食べて食べて食べて、パワーアップッ! パワーアップッ! するんだなああああああああああああああああっ! 光合成も、光合成もしたいなああああああああっ! ひひぃ、ひーひひひひぃ!」

 男はとても楽しそうだった。

 そして上半身を背中に向けて折り曲げていく。

 まるで在り得ない角度に背中が折れ曲がる。

 男は空に向かって咆哮を続けていた。


 男の身体からは木の枝や根などが生えていた。

 彼はそれらを大地に這わせていく。

 そして、全身をくねくねと動かしながら地面を這っていた。


「気持ち悪いっつってんだよっ! 緑の豚がっ! なあオイ、そのドブ臭ぇえ身体をさっさとブッ潰してやるよっ!」


 彼女は右手から炎を生み出して辺りに無作為に撒いていく。

 植物の肉体を持つ男は、巧みに女の攻撃から逃げ続けていた。


「面倒だな? クソ忌々しい! 頭砕いたら、さっさと死ぬのかよぉ?」

 そして彼女は辺りに転がっているスクラップ前の自動車を手当たり次第に持ち上げては、その辺りにまるで、バスケット・ボールのように放り投げていた。


 男が地面に潜ろうとする。

 女はブン投げた廃自動車の上に乗っていた。

 そして。


「潰れろよ。この緑の糞便野郎がっ!」

 彼女は両手の拳で自動車を殴り続ける。

 自動車は男の肉体を押し潰していく。


 辺りは火の海と化していた。

 廃れた工場が次々と黒ずみと化していく。


 女は炎の翼を広げてスクラップにした自動車の上に立っていた。


 少年は陰に隠れていた。


「取り逃したかあ? 畜生? 報告しねぇとな。なんなんだ? あの緑色のクソ野郎は!?」


 女は陰に隠れていた少年を見つける。


「おい。そこにいる奴、お前、私達の戦い……。ってか、私の戦い見ていたのか?」

「うん、そうですけど……」

「あれ、なんだ? あの植物人間? 人間植物? なんなんだ? あの化け物は?」

「多分……、この辺りのマフィアの構成員かと。…………」

「マフィアって。……人間じゃないだろ、あれ!? 光合成がしたいとか叫んでいたぞ!? そこら辺のマフィアは戦闘準備の為に光合成を始めるのか!?」

「知りませんよ……。……貴方も全身に炎を纏っているじゃないですか……」

「まあ『能力者』だからな。奴もそうなんだろ。しかし、植物化する人間なんて気持ち悪いな。マフィア、か」

「はい。この辺りの利権を握っている構成員で、戦闘員なのかと」

「ありゃ、常人じゃムリだな。地中に逃げやがった。気持ち悪いわね。あなた、家まで送っていこうか?」

 そう言うと、女は全身から噴出させている炎を消していく。


「いえ、僕一人で帰れます。でも、お姉さん、かなり強いですね」

「まあな。私の名はグリーン・ドレス。『マグナカルタ』っていう、炎を操作する能力を使える。クソ、この辺りは夜食も買いに行けねぇのかよ。コンビニに行く途中に攻撃されて、此処まで来たんだよっ!」

 彼女はそう言いながら悪態を付いていた。


 オレンジの混じる真っ赤なロングボブをしている女だった。

 外見は二十代半ばくらいに見える。

 服装はパンク風なファッションだった。首には赤い牙のような装飾品が付いた、特徴的なチョーカーを身に付けている。


「しかし、お前。女の子一人がこういう場所にいたら危ないんじゃねぇか? 私が家まで送り届けてやるよ。ほら、住所教えな。送ってやるからよ」

 そう言うと、彼女は髪をかき上げる。

 

「あの、いえ。…………僕、男の子ですよ…………」

「はあ!? お前、生えてんの!?」

 グリーン・ドレスと名乗った女は驚く。


「はい、男の子、ですよ……。名前はラトゥーラと言います」


 そう言う少年ラトゥーラはセーラー服姿で、プリーツ・スカートから艶めかしげに生脚を生やしていた。

 こいつの言う事が正しければ、スカートの下に男のブツがあるのか……。グリーン・ドレスはそんな事を考えながら、少年の下半身をまじまじと眺めていた。


「男の娘って奴か…………」


 …………、美少年でもあるのか…………。

 グリーン・ドレスはまじまじと美少女姿の少年を上から下まで眺めていた。スタイルも抜群にいい。華奢な首に腕。そして、白い生脚。


 …………、タイプだ。

 彼女は生唾を飲む。

 そして口の中で舌舐めずりをした。

 …………、犯したい。


 彼女はラトゥーラに自分の背後に来るように言う。


「背中に乗っけてやるからよ。ちょっと、空の散歩連れてってやるよ。ヘリに乗るより楽しいぜ?」

「あ、ありがとう御座います。お姉さん…………」

 少女の姿をした少年は真っ赤な顔をする。


 グリーン・ドレスは少年を背中に乗せると、月の明かりに照らされながら両腕を炎の翼へと変えて空高く舞い上がっていった。





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