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04.一乙

「はー! ミスった! 事故った!」

 盛大に頭を抱える。痛い。思いっきり痛い。何あれ。もうやだ。

 痛いのは一瞬。今はもう治っている。けれど幻の痛みが「もうやめてくれ」と言っているかのように俺を攻める。

 嘘だろ。こんなに痛いのかよ。一瞬であれかよ。何度も死に戻りしている創作の主人公はこれ以上の激痛を毎回感じてるのかよ。心折れるわ。気軽に「死に戻り出来るんだから死ねばいいと思うよ」とか言ってごめんなさい。あんなもん二度と経験したくない。

 腹を押さえて唸っていると、頭上から声が掛かった。

「はい、一乙」

 俺はラオネの場所へ戻っていた。なるほど、被弾するとここに飛ばされるのか。

「敗因は?」

 本当に色々と文句を言いたい事だらけだが、それらを横に置いて考える。

「人は急には止まれない」

 そうなのだ。

 人は全力で走っている状態で急に止まる事など出来ないのだ。止まるためにはスピードを落としながら止まるか、壁に体をぶつけて急制動をかけるかしなければいけない。百から零には落とせないのだ。

 つまり今回の敗因は、進みすぎによる事故。スピードが速いキャラを使うときに、チョン避けが行き過ぎたり、移動中に進みすぎたりすることがあるが、事故の種類はそれと一緒だ。

 一度目は良かった。壁に手をついて止まった。二度目は壁に手こそ付かなかったものの、その部分に弾は無かったから止まれた。

 一度目と二度目では、同じ攻撃に見えても僅かに差がある。切り返しをした際にはままあることだが、三度目はその差がさらに大きくなった。それは一度目と二度目の差によって予想していたことであり、そして事実となり、止まろうと思った。

 が、現実は上手く止まれずに被弾。

「どないせいっちゅうねん」

 いや、全力疾走で避けないで止まれるよう動けという話しなのだろうが、今回は見た限り、あれが一番簡単に避けられそうだったのだ。

「ステップで横に移動すればいいじゃないか」

「それだと速度が足りない」

 全力で前に走ってようやく回避出来るラインだった。それを横にステップで避けていては到底回避出来そうにない。

「何も一度で避けきる必要は無いだろう?」

 確かにその通り。その通りであるのだが、難しいのではないだろうか。

「んー、でも他のラインはなぁ」

 断言出来ないのは所詮攻撃パターンを脳内で再生しているだけなので、差異が大量にあることが原因である。もしもここで魔王の攻撃を正確に再現できるモニターがあれば話は別なのかもしれないが。

「ここに、先ほどの攻撃を示したボードがあります」

 あるんかーい。

「さては暇だなテメェ。ありがたく見させてもらいます」

 そういうのは事前に見せておいてほしい。あ、でもこれ静止画だ。スクリーンショットみたいなものか。

「確かにここのラインを一直線に、次のラインも一直線に……というのがパッと見では楽に見えるよね。でも、弾を三つやり過ごしてから左に少し移動、前に行って左に、後ろに行って左に……って行けば避けられるんじゃないかな」

 ラオネの指摘した内容を、弾の速度を思い出しながら思考する。

「確かに可能そうではあるけど、この密度のど真ん中にいるのって怖いんだよ」

 難しいが、大きく移動するわけではないし、出来なくもない。だがそれ以上に精神的ダメージがでかい。

 命が掛かっていると思えば大きく回避したいと思うのが当然だろう。ただし、大きく回避出来るだけの空間が弾幕ゲーにはあまり無いのだが。

「でも、矢切君はそうやってゲームをクリアしてきたわけで。誘導系の弾より直線の弾で敵の正面に立つスタイルだっただろう?」

「え、何で俺の好きなスタイル熟知してるの怖いわ」

「そりゃ、それを見て呼び寄せてるわけだしね」

「なるほど納得」

「それを見ていると、」

「さっきの立ち回りはらしくない、か。そもそも敵の正面に立たないと攻撃も出来ないし、魔王を倒すなんてことは無理だよな」

 ラオネが用意してくれた盤面をジッと見る。

「(あれ、これ、一直線に動かずとも、中央付近で四角を描くように動けば避けられるのでは?)」

 新たな回避の可能性を見出した。

 如何に自分が視野狭窄に陥っていたかが分かる。目立つ隙間に目を取られ、より楽な避け方があるのに見落とすとは、自分が情けなくなってくる。

 命をかけたゲームなど、視野が狭くなって当たり前ではあるが、それを良しとしていては弾幕ゲーはクリア出来ない。

 とはいえ、それは確証ではない。確証を抱けるようにするためには、静止画ではなく動画が必要だ。

「ラオネ、コレ動かせる?」

「出来るよ」

 ラオネが指をクルリと回すと、ふよふよと赤い弾が動き出す。

 出来るんかーい。もっと先に見たかった。

「じゃあ、セリアの攻撃パターンの再現は出来るか?」

「出来るよ。今まで見た事のあるものだったらね」

「それ最初から教えてほしかったなぁ。そもそも機体性能を熟知する前にラスボス括弧初見とバトルとか、無謀にも程があらぁ」

「まぁ、僕としてもあそこに魔王が来ているなんて予想外でね」

「へぇ、ラオネにも予想外なんてあるんだな」

「沢山あるよ。僕は全知全能じゃない。で、考えていたストーリーでいうと、最初に近くの街に行って、そこで玉音放送……まぁ国の代表者が演説に使うときの魔法だね。に映った姫巫女さんが、神のお告げガーとかいう電波な発言をぶちかまして、矢切君を城に呼び出す。そこで魔王討伐のお願いをされる。そういう流れだったはず」

 ちなみに、その国で何万人もの犠牲の上にようやく手に入れた魔王の攻撃を動画(勿論魔法)で見せられ、空想上で再現。実際に挑む時に初見になんてならないはずだったらしい。

「……なんだそれ。そこまで決まってて、どうしてこうなった」

「いやぁ、プロット通りには行かないよね。そもそもあの魔王がイレギュラーの塊なんだから、そこにもう一度イレギュラーの塊を放り投げたらどうなるかなんて、予測出来るはずなかったんだ」

 俺はイレギュラーの塊だったらしい。魔王がイレギュラーなのはまだ分かるが、何故俺も……?

 マイナスにはマイナスをぶつけてプラスにしようとかそういう考えなのか?

「行き当たりばったりかよ」

「ちなみにそのプロットを組んだのは僕じゃないから、文句を言われても困るよ」

 えぇ……誰よ……。

 頭の中でしたつもりの呟きは声に出ていたようだ。

「僕よりも上の存在の神様……かな」

「神様なんて嫌いだ」

 目の前のイケメンも神様なのだが、ラオネの自己申告で言えば「のようなもの」らしいので、神様ディスがそのままラオネディスには繋がらないはず。

 人間にも色々居るように、神様だって色々居るだろうしな。ラオネを神枠に入れたとしても、八百万の神とか言うし、その中にも上下があるのは当然と言えよう。

 なるほど、つまりラオネは中間管理職。急に身近に感じるな。

「……とにかく、ラオネは出来る限りセリアの攻撃パターンを教えてくれ。コレ使えば出来るんだろう?」

「わかったよ」

 さすがにここで「ちょっと待ちやがれ」とは言われない。魔王を倒せ、魔王を止めろと言ったのはラオネだし、そのために必要な事ならやってくれる。

「ちなみに……今あの世界ってどうなってるんだ?」

「君が復活するまで時間は止まっているよ。矢切君が死んだ世界なら進むけど、ギリギリ死んでないからね。正確にはいくつもある平行世界の死んでない世界の矢切君が君なわけだけど」

 平行世界云々の話は長くなりそうだ。今の俺が生きているのだから細かい事は気にしないでおこう。

「へぇ……。ならじっくりと予習が出来るわけだ」

「あくまで僕が知っている攻撃だけね。まだ見せた事の無い攻撃方法を持っていたら、その攻撃は分からないよ」

「ラオネの持ってるデータが全てだと信じよう」

 奥の手は隠しておくのが基本だからな。多分何かしら新パターンが出てくると思うが、そうなったら頑張るしかないだろう。最悪二乙目で把握出来れば可能性はある。




 そうしてこれでもかと予習し、自分の動きも確認する。

 横に動くときは全力で移動するのではなく、ステップで移動するようにした。

 そもそも考えてみれば、俺の魔法弾は俺の真正面からまっすぐ発射されるタイプだ。……今の今まで使わなかったから、どんな攻撃かも知らなかったけど、ラオネが教えてくれた。

であれば、敵の居ない方向に体を向けるなど言語道断。

 あぁ、だからシューティングは必ず向きが一定になっているんだな、とある種納得すらしてしまったくらいだ。

「一つ教えてほしいんだけど」

「なにかな」

「なんであんな小さな子が魔王なんてやってるんだ?」

 俺から見てもセリアは非常に幼い。数分しか会話をしていないので本質を掴めているかは分からないが、どう見ても『魔王』をやれるとは思えない。

 もしかしたらファンタジーによくある外見と実年齢に差があるタイプなのかもしれないが、そうだとしても『魔王』に相応しいかと問われれば疑問である。

「さぁ? あれは本当にイレギュラーな存在だから、僕には何も」

 ラオネはそう言ったが、俺と目を合わせていなかった。

 それはラオネが俺を送り出す準備をしているからか、それとも本当は何かを知っているのか、それは分からない。

「もしかして、俺みたいに転移とか転生とか、そっちの方も考えられないか?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、何でそう思うんだい?」

 ……ラオネが知っていたとしても、教えてもらってどうなるとかは特にない。まぁ、単なる雑談だな。

 ただほんの少し、ほんの僅かにでも、あの世界で地球との接点を見つけたいだけなのかもしれない。

「いや、軍が情けないとか、あんな対軍魔法とかさ、普通に、全うに、あの世界で生活してたら、思いつかないんじゃないかって」

 逆に言えば、全うな生活ではなかったのかもしれないが、それこそ俺には知りようのない話。少なくともあれだけ綺麗な肌と髪をしているのだから、あまりにも酷い生活ではなかったはず。

「確かにあの世界では異常だよ。だけど、仮に転生だったとしても、彼女の中に元々の性格が残っている可能性は殆ど無い。イレギュラーであの世界に産み落とされたとしても、その発想はあの世界に生まれ、あの世界に生きた彼女自身から出てきたものにすぎないんだ」

「……よくわからねぇな」

 ラオネにしてみれば輪廻転生なんて当たり前で、個人個人がどうやって転生したのかまでは把握していないのかもしれない。

「突飛な発想をするイレギュラーの考えは僕にだって分からないよ」

「……倒しちまってもいいんだよな」

「僕は魔王を倒してほしいと依頼したはずだよ。何か気になる事でもあるのかい?」

 ただ、ほんの少しだけ、魔王に対してなんらかの拘りがあるのではないかと疑ってしまう。

 倒してくれと依頼された。そしてその後、止めてくれることを願っていると言って送り出された。

 一度も殺せとか滅ぼせとは言われていない。

 これは俺の気にしすぎなのだろうか。

「魔王を倒したとして、俺はどうなるんだ?」

 俺のその後の扱いも不明なまま。この際だから聞いておこう。

「どうにも。ただ選択肢が生まれるだけだよ。そのまま世界にいて権力の犬になるか、僕の小間使いになるか、誰かの奴隷になるか」

「おい、人に使役されるだけの人生を想定してるんじゃねぇ」

 まぁ奴隷云々は抜きにしても、元の会社でも会社の奴隷げふん、歯車の一員として生活していたのだから、あまり違いはないのかもしれない。

「まぁ、そうならなければいいな、とは思っているよ」

「はぁ?」

「何も、険しい道を歩ませたいわけじゃない。楽しく生きるのも、誰かと笑いあうのも、それはその人の自由だしね。だけど、この世界に運んだ僕の想いとしては、荒んだ心を持って欲しくはないなって」

 ……そういうところだ。そういうところが俺に疑問を持たせるのだ。

「……まぁ、いいや。魔王は、倒す。それが依頼だからな」

「しんみりしちゃったね。これから君を絶望の淵に落とす。準備はいいかい?」

「いや、よくねぇよ! さっき言っていた事を思い出せよ! 前言撤回が早すぎるだろ!」

 極端すぎるわっ!

 確かにしんみりしたまま戦場に行くのは無しだけども!

「それじゃ、魔王を倒しに、ほれ、いけ」

「だから雑なんだよ! 送り出し方が!」

 そして俺は深呼吸を一つして、ラオネの居る空間を飛び出した。





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