03.邂逅
「へぶっ」
顔面から地面に落下する。ジャリ、と土が口の中に入って最低最悪な気分だ。
「んなっ!?」
っと、すぐ近くから女性の声が聞こえた。
声の聞こえた方に顔を向けると、そこにはとても美しい――どちらかと言えば『可愛い』か?――女性と、とても目に麗しい純白の三角形がチラリと見えた。気分はハッピー。最高の気分だ。
ふわりと広がった短めの黒スカートは非常に可愛らしく、そこから伸びる二本の足は長い。太ももはサイハイソックスで締め付けられており、僅かに乗った太ももの柔らかな部分がなんとも悩ましい。黒色のサイハイソックスと色白の肌のコントラストが目に眩しく、しかし、いつまでも眺めていられそうだ。あぁ、サイハイソックスと太ももの間に指を突っ込みたい。
下から見上げるからこそ僅かに見える三角形は至高の一言。スラリとして長く、それでいてむっちりとした肉感という矛盾した表現が同時に存在する魅力的な足。
そこから顔を上げれば、神が形作ったと言っても納得するほどのボディライン。低めの身長のわりにメリハリのついた身体付きは暴力的の一言。服装はまたしても黒を基調としていて、シックな感じ。でも邪魔にならない程度にフリルがあしらわれており、ううむ、可愛い。
黄金比率な顔に存在する大きくパッチリとした金色の瞳は驚愕に見開かれ、俺の姿を映している。
頭上には角が生えているが、クルリと巻かれていて、まるで羊のよう。その形がより女性を可愛らしく見せた。
細くしなやかな銀髪は、角を真似るように緩やかなウェーブを描き、陽光をキラキラと反射している。
素晴らしい。エクセレント。転移した瞬間に現れる美女! いや美少女? とてもテンプレ展開ですが、とても良いと思います。
獣人と言うのだろうか? 角からして羊。メェ、と愛らしい声で鳴いてもらいたい。メェ、の前に「ダ」が入れば完璧です。
いいじゃんいいじゃん。初コンタクトが獣人とか! こういうのだよラオネ! こういうのを求めてた!
「お、お主、一体どこから……えっと、降ってきた? と言えばよいのか? ともかく、なんじゃお主は」
まさかののじゃ語尾ですよ! っていうか言葉通じるのね。一安心。異世界だから言葉通じねぇよ~とかそういう展開は無いのね。ご都合主義万歳。どうなっているのか考えたら負けだ。
「どうも、えっとですね、俺は、えっと」
内心ではフィーバーしているけれど、こんな美少女に話しかけられて動揺しないとか無理だから。俺の今までの人生で一番起こりえないと思っていた事が今起きている!
というか、なんて返せばいい? 異世界から来ました? それとも神様の使者です? アホか、頭可笑しいって思われるだけだ。ある程度打ち解けていたならともかく、第一声がそれは完全アウトだ。
どこからか飛ばされてきました? ……嘘は言っていないな。よし、これでいこう。
「どこからか飛ばされてきました。ここはどこでしょう?」
まず大事なのは情報収集である。一番近い街は一体どこなのか。
基本は大事。初期位置に「ここは始まりの村です」なんて言ってくれる親切なNPCなんて実際にいるわけないし。
そう考えていると、目の前の女性は可哀想な人を見る目で俺の事を見てきた。……可哀想な人を見るって言い方が良くなかったな。なんていうか、そう、同情的な、同情的な意味で、可哀想な人を見ているような目だ。決して残念な人を見るような目ではない。
「そうか、お主は流されてきたのじゃな。何か悪い事でもしたのか?」
流されて……? この世界には放逐の刑でもあるのだろうか。
「え、いや、別に何も。なんか死にそうになってたらしくて」
これもまぁ嘘ではない。
「なんじゃそれは。……まさか何かの隠蔽のために人を流したというのか?」
知らんがな。なんだその設定。勝手に都合よく勘違いしてくれるのはありがたいが、この世界の常識は俺にとっての常識じゃないからよく分からん。
きっと何かの失敗を隠すために神隠しと称して秘密裏に処分することは珍しくないのだろう。なんていう世界だ……。
「まぁよい。ここで出会ったのも何かの縁。妾はセリア・シュレリア・アラゴネゼじゃ」
「……矢切暖竹、です」
自己紹介をされたので、こちらも名を名乗る。ナチュラルに上からの目線で思わず敬語になってしまった。にしてもなんとも形容し難い凄い名前だな。
「……ヤギニィ・ダンチ・クウ? なんぞ恐ろしい名じゃの」
「いえ、矢切です。矢切、暖竹。暖竹が名前で、矢切が姓です」
なんだヤギニィ・ダンチ・クウって。何を食うんだよ。ヤギか? やっぱ羊と同種だから食われるのが怖いのか? それにダンチってなんだ。ミンチみたいなものか? ヤギのミンチ食うの? それともヤギのメンチ食うの?
「おぉ、おぉ、ダンチク、か。なるほどなるほど」
そうです暖竹です。
セリア――セリア氏? それともセリアちゃん?――から手を差し伸べられる。え、握ってもいいものなのでしょうか。怒られない?
はい友好の握手。
「ほっ」
「ふぁ」
握手と思って手を握った瞬間、思いっきり引き寄せられ、立たされた。え、握手じゃなかったの? おっそろしい腕力ですな。あれか、獣人は力が強いってやつがこんな子にも適用されているのか。……羊って力強いの?
身長が低いとは思っていたが、立って彼女を見ると、さらに小さく感じる。百五十センチ無いのでは?
なんかこう……不思議と頭を撫でてあげたくなるね。これが父性か。さっきまで太ももガン見してた奴が感じる感覚ではないけれど。
「あう、こ、こら、いきなり頭を撫でるでない」
「……はっ」
しまった、つい。可愛い頭だなぁとかサラサラしてそうだなぁとか、でもやっぱ羊だから実はモコモコしてるのかなぁ……とか考えてたら頭を撫でてしまった。
「ごめん。見ず知らずの人が急にこんな事をするのは駄目だよな」
通報されてしまう。イエス・ロリータ・ノータッチの精神である。全力でゴータッチした後ではあるが。
いやしかし、なんかこう、不思議とふわふわしていた。もう一度、もう一度と撫でたい衝動が湧き上がってくる。ふわふわふかふかで止め時が分からない!
この『愛でたくなる』という感覚。敬語も取れるわ。
「失礼な奴じゃ。何故唐突にわっちの頭を撫でるのじゃ……」
「わっち……?」
「わ、妾じゃワラワ!」
ものすごく可愛い一人称になった気がする。あと頭を撫でるのは気持ち良いから。ペットを撫でる感覚に陥るし、事実もっと撫でたい。
「それで、ここはどこで、セリアは何でこんなところに?」
「うむ! 妾はこの先にある人間の街にちょちょっと行ってパパッと殺戮してこようかと」
「へぇ、ちょちょっと行ってパパッと……殺戮?」
「うむうむ。妾は恐ろしい魔王じゃからな。一つ二つ国を滅ぼせば、皆も妾の事を恐れ、頭を撫でて癒されようなど考えることもなくなるじゃろう」
……え?
……は?
「えっと、情報量が多くて整理出来ないんだけど……魔王? 誰が?」
「わっ……らわ! がじゃ」
うそーん。こんな羊少女が魔王なわけ?
最初に接触したのが美少女でヒャッハーとは思ったが、魔王は求めてない。ラオネ、違う、そうじゃない。
とにかく、聞き間違いかもしれないから、一個一個聞いていこう。
「殺戮?」
「うむ」
……はい。聞き間違いではありません。
「人の街を?」
「そうじゃ」
……はい。聞き間違いではありません。
「……なんで?」
「そうすれば妾を恐れるじゃろう?」
「そうね」
「そしたら頭撫でさせてなど言われなくなるじゃろう?」
「理由が軽すぎるっ! そんな理由で滅ぼされる国が可哀想!」
聞き間違いであってほしかった。その結論に対してその理由はどう考えても可笑しいダルルォ!?
「それに、軍が情けなすぎての。任せていたら悪戯に被害が増えるだけじゃ。妾が直接行って魔法ぶっぱで終わりなら、そのほうが人的被害も少ないじゃろう」
「意外とちゃんと魔王してる!」
そうだよ、そういうのがキチンとした理由なんだよ。だけど魔王なんだから大人しく魔王城で待っていてほしいんですけどね! いや確かに、敵がわざわざ成長するの待ってるなんて舐めプかもしれないけれど。
「ぶっちゃけ妾、強すぎて暇なのじゃ」
「だから雑なんだよぉ! 理由が! 暇潰しに滅ぼそうとするなよ」
確かに魔王城でひたすら待ってるのは暇かもしれないけど、魔王なんだから仕事なんてたくさんあるはずだろ! 大人しく業務しててくださいよ!
強者求めて三千里ってか。この世界でもこの単位が有効か知らんが、フラフラと暇潰しに出かけないでほしい。
「むぅ、さっきから何なのじゃダンチ・クウ。わっちの言う事に文句ばかり」
「暖竹な! あとやっぱわっちの方が可愛いぞ!」
団地は食いません。だが団地妻なら食いたい。実際に据え膳になったら多分食えない。
ところで頬をぷくっと膨らませているセリアは実に可愛い。
「妾はお・そ・ろ・し・い・魔王なのじゃ! 可愛いではない!」
「はいはい、可愛い可愛い」
「ムゥ~」
ほっぺた膨らませてるところも可愛ければ、拗ねている様子も可愛い。プギュっとほっぺの空気を抜いてあげたい。
にしても、参った。まさか初エンカウントが魔王とは。いや、これもお約束と言えばお約束なのか。確かにいくら回避しようと思っても回避しようがないわ。さっきもう会うことはないだろうキリッみたいに考えてたけど、今直ぐラオネの元に行って文句を言いたい。
そして件の魔王ちゃまは「ちょっとコンビニ行ってくる」みたいなノリで「ちょっと街一個壊してくる」とか言ってるし、ラオネからお願いされた手前、止めなきゃまずいんだろう。
だが、どうやって?
「……ちょっと街壊すのは止めてほしいなぁ」
意味は無いだろうが、ボソリと呟く。
「街を壊すとは言っとらんぞ。殺戮して国を滅ぼすだけじゃ」
「それ同じだよね」
何が違うと言うのか。結果としては同じですよそんなもの。
「大違いじゃ。街がそのまま残っている方が、手っ取り早く野良魔族共を住まわせられるじゃろう」
「変なとこでちゃんと考えてる」
だが何がどうなって殺戮にまで辿り着いているのかが今一分からない。結局は侵略戦争ってことだろう。
「というか野良魔族とは……?」
「住む家の無い貧乏魔族のことじゃが?」
「魔族版ホームレス」
どこの世界にもそういった存在は居るのだと思うと世知辛い。
「直ぐに住まわせる事が出来るほどの街を造るより、街を一つ奪ったほうが手っ取り早いからの」
「なんと言う侵略者。その少しでも奪われる側の事を考慮してあげて」
「……?」
コテンと首を傾げ、『?』を浮かべるセリア
「いや、そんな何故そんな事を? って本気で分からないような顔しないで。分かって。為政者なら」
「そもそも、何故ダンチクはそんな事を言うのじゃ?」
「見れば分かるでしょ。俺、人間。当然でしょ」
「いや、そもそもお主は流されてきた者じゃろう? 恨みこそあれ、奴らのために慈悲を請うことはあるまい」
そもそも認識が違うようだ。
「いや、俺は流されてきたと言われても、この世界の住人じゃないから分からないわけで」
流されたきたのは事実と言ってもいい。
「……?」
「いやそんな、こいつ頭大丈夫? みたいな顔しないで。可愛い女の子にそんな顔されると傷付くから」
想像通りの結果だよ! 多少会話していたとは言え、暴露には早すぎたんだ。だけど今更引くわけにはいかない。
「この世界の住人じゃない? なんじゃそれは」
「そうそう、そういう全うな返しがほしかったの。俗に言う異世界転移ってやつ。流されてきたって意味では、異世界放流?」
「ほう、なんのために」
セリアは頭に『?』を浮かべながらも、なんとか俺の言う事を理解しようとしてくれている。
健気で可愛い。けれど、
「一人出るゲームの違う魔王さんを止めるために」
悲しいけどこれ、現実なのよね。こんな可愛い魔王ちゃまを倒せと。
「……なんじゃ、平たく言えば敵か。それならそうと言えばよかろう」
「んー、でもねぇ、素直に戦おうとかって言いにくい雰囲気だったし」
心なしか、敵と伝わって声が弾んでいる。なんでそんなに楽しそうなの?
私雑魚中の雑魚よ? 強者を求めて三千里している魔王ちゃまの足元にも及びませんよ?
「妾を倒せと命令を受けるくらいじゃ。さぞ強いのじゃろう?」
「聞いて」
なんでオラワクワクしてきたぞ! とか言いそうな雰囲気出してるの?
「暇潰しにはもってこいじゃ。そうさな、妾を満足させられれば、考えてやらん事もないぞ」
「聞いて。あとその台詞はベッドの中でもう一度言って」
「と言うわけで勝負じゃ。得意な距離はどの程度じゃ?」
「聞いて」
下ネタは華麗にスルー。すばらしい。
「まぁ遠距離だけど」
「ならダンチクの得意の位置から始めよう」
「こんなところだけ聞かないで」
戦闘に関する事だけは耳に入るらしい。都合のいい耳をお持ちで。
「っていうか相手の得意位置から始めてあげるとか、魔王ちゃんマジ淑女」
「何事もフェアなのが好きなのじゃ。あとちゃん付けはやめんか」
「魔王ちゃん絶対最終決戦前に回復とかしてあげちゃうタイプだ」
「聞かんか。互いに全力を尽くす。そのためには万全で無くてはの」
「魔王ちゃんネットで評価二分されるやつだ。舐めプしてるから負けるんだとか、全快してくれる親切設計淑女な魔王ちゃんマジ魔王様とかって」
「聞かんか。魔王ちゃんは止めろと言うたぞ」
「魔王ちゃんマジ魔王ぢゃん」
「馬鹿にしとるのか」
「どちらかというと尊敬」
それと聞いてって言ったのに聞いてくれなかった仕返しも兼ねて。
「なんか調子が狂うのじゃ……。いいから、早く自分の距離まで離れい」
「魔王ちゃんと離れたくないで候」
ほんの僅かににじり寄る。
「ならば、今すぐ死ぬか?」
その言葉と同時に、素人にも分かる殺気が放たれた。
「離れさせていただきます」
全く、冗談が通じない。いや、むしろある程度通じていたからこうなっているのかもしれない。
さて、問題はどの程度離れるか、である。
俯瞰視点を使用して周囲の情報を確認する。初めてながら、どのように使えばいいのかが分かるのだから不思議なものだ。
フィールドは、ある程度の広さをもちながらも、左右に崖がそびえ立っている直線的で赤土色のフィールドだ。まるで弾幕ゲー向けにあつらえたかのようなものだが……実際あつらえたんだろうな。ラオネが。
敵の大きさは戦艦のような巨大物ではなく、人間サイズ。どんな攻撃が来るにしろ、敵は常に上部に据えておきたい。
俺は一度下がり、敵の位置が把握できなくなる距離まで下がる。……長さで言うと二十キャラ分。常に敵を表示させておきたいなら十九キャラ分を維持しなくてはならない。
そこから凡そ五キャラ分距離を詰める。
どうせなら敵から最も離れた距離に居ればいいと思うだろうか。これには明確に理由がある。
一つは、安地(安全地帯)が相手の後ろ側があるかもしれないから、相手の後方に二キャラ分余裕を持ちたい。敵の後ろに余裕が無いタイプのゲームもあるので、保険の意味合いが強い。何より相手は機械ではなく、自ら考えて攻撃してくる人物なのだ。敵の後ろに安地なんて無いと考えてもいいだろう。あとほら、振り返るだけだし。
もう一つは後方から上がってくるタイプや跳弾タイプの弾幕に対応するため。自分の後方三キャラ分も余裕を持ちたいところだ。状況によってはセリア後方の空間を自分の後ろに回すことも必要だ。つまり、後方は三~五キャラ分。
俺とセリアとの距離は十五キャラ分。これが俺の初見時ベストポジション。
十五キャラ分と言うと割りと近いように感じるが、俯瞰視点を切ってみると意外と遠い事が分かる。と言っても『遠い』というのは俺が感じる距離であって、実際戦闘するような距離から考えたら大分近い。二十五メートルといったところだろうか。
よくよく考えたらこんな距離で撃ち合いするとか、正気の沙汰じゃねえな。敵の攻撃が銃弾並みの速度だったらどうするんだよ。まぁそれは無いからこんな距離設定にしているのだろう。
問題は俺がどの程度の動きをすれば、チョン避けレベルの回避になるのかだ。準備運動も兼ねて、何度か横にジリジリと動いたり飛んだりして確かめた。
初期位置に関してはこんなところだろう。
「なんじゃ、存外近いな。そんな距離で遠距離と言えるのか?」
「そういうなって。俺としても初戦闘なんだわ」
「……は?」
セリアがポカンと口を開けた。呆けた顔も可愛いとか、どんだけだよ。
「初戦闘がボスとか、どんなクソゲーだって話だよな」
しかも初見、二乙まで可、食らい判定中の救済無し、再プレイ不可。クソなんてレベルじゃねぇぞ。
「……つまり実戦経験の無い雑魚ではないか。つまらん」
「そう言うなって。案外強いかもしれないからさ」
明らかにガッカリしているが、そう簡単にやられてやるつもりもない。
「近くにいたときとはえらい違いだの。まぁ、退屈凌ぎ程度には頑張ってほしいところじゃ」
まずはお試しと言ったぐらいに、小さな弾が一つ放られる。小さいと言っても俯瞰で見た弾幕ゲー換算で小さいと言うだけで、実際には俺の頭よりも大きい弾である。それなりの速さで迫ってくるが、この程度の弾であれば問題無い。体一つ分ステップをして避ける。
「流石に避けるか。まぁ当たり前じゃな」
「(わりとドキドキなんですけどー)」
命が掛かっているというプレッシャーは凄い。さらに予備知識無しの一発勝負。二乙可能だとしても、たかが二回分ではパターン把握など出来ない。
一発一発しっかりと見定めなければいけない。
「次じゃ」
弾がそれなりの密度で、微妙にばらつかせながら飛んでくる。思わず右に大きく避け、それを狙ったかのように同じ弾が飛んできた。左側には弾が残っている。
一度大げさなまでに右に避け、直ぐに左へ移動する。
再び狙い打たれた弾は、俺の右側を通過する。
「(誘導は単純に出来るな)」
「ほほう」
再度同じ弾。今度はばらつきのある弾の隙間を縫うように移動して回避する。左一、上三、左二、右三。自機を数字分動かすようなイメージ。
「良いな。割と戦えるではないか」
興が乗ってきたのか、今度は弾を満遍なく散らしてくる。画面全体を覆いつくすような弾。一つ一つが俺の頭ほどの大きさがあり、中には俺の体を飲み込んで余りある大きさの弾も混ざっている。
これぞ弾幕。軍団にやられたら逃げ場の無いえげつない攻撃だった。
だが、まだまだ単純。発射地点はセリアの手前だし、逃げ場の無いようにばら撒いているが跳弾するわけでもない。
俺はジッと目を凝らし、弾のスピード、バラつき、隙間を観察する。
そして弾が俺に当たる直前、一歩だけ後ろに下がり、全速力で左へ駆ける。
直ぐ横を致死の弾が通り抜け、目の前の弾に突撃するように進む。
壁に手を付いて止まると、自分に迫ってきた弾を大きく右へ避け、次に前に進んで斜めから俺に狙う弾を回避。左に弾二個分移動してから、今度は右へ全力で移動。
「面白い! そのような回避方法など始めて見た! 妾の高密度の魔法を避けようと考えるものなど初めてだ! 面白いぞダンチク!」
何か叫んでいるが、俺の耳には届かない。全神経を集中しないと、俺の命などあっという間に吹き飛んでしまう。だが少しだけ、『俺』という機体性能が分かってきた。
右側の壁に到着。少しだけ前に移動し、チョン、チョン、チョン、と三回回避してから左へ全力疾走。
セリアの攻撃方法が僅かに変わる。
射出範囲が大幅に広くなる。くるりくるりと回りながら弾を精製し、横に並べて射出してくる。弾に緩急が付き、避け難さが増す。
「ハハハ、楽しいなぁ!」
こっちはぜんっぜん楽しくないけどな!
弾幕の雨を掻い潜るように。隙間に体をねじ込み。必死に足を動かして。俺は被弾した。
「……は?」
お腹が熱くなって。そしてそのまま突き抜け、臓物を撒き散らして、俺は死んだ。