第77話「太陽」
「――真っ赤な太陽この身に背負い! 走り走って巡り巡る!」
謎の口上と共に登場。
彼女は天上にて君臨する日輪にも負けぬヒートメイカー。
日射しはその闘魂籠もった声が乗って更に熱く感じる。
「――とうとう来たなこの時がァ!!」
彼女の進撃に、観衆が退いていくのが足音で分かる。
見なくても、振り返らなくても分かる。
背後の人でごった返しているはずの大通りは、まるで神か王様、それか災厄が歩くために一本の道が形成されているはず。
「あのクレス君……」
「とうとう来た、か」
クラリスさんは困惑した様子。
そりゃそうだろう、当然だ。
まさか今日が今生の別れになるとは、残念です。
「だけど――」
とてつもない熱気が近づいてくる感覚。
どうやらボスたちの救援は間に合わなかったらしい。
ならばこそ、もう逃げることも敵わない、向き合うしかない。
「ふぅ」
心臓の上、胸をトントンと叩く。
本来感じるであろう緊張感や焦燥感も熱で溶かされ、あまつさえジリジリと焦がされるような。
ある意味で胸焼けだ。
それに彼女の足音も止まった、もうすぐ後ろにいるのだ。
「よぉクレス!!」
「……まさか本当に来るとは思ってませんでした」
「かっかっか! 私は自由だ! やりたいと思ったことはやる!」
「……変わらないですね」
「んなことねぇよ! 今だって飛びかかりたいのを堪えてる!」
「まったく物騒な……」
向かい合うことなく会話をする。
俺だって今すぐにでも再会を喜びたい。
ただタイミングと場所が最悪だ。
「え、えっと……」
クラリスさんは訳が分からないだろう。
振り返れば――もうそこには戻れない。
(でももう手遅れか)
覚悟を決める。
その前に向いているはずだった足を後転す。
王立魔法学園とそこで知り合った者たちに別れを。
今度着席するのは教室の席ではなく、災厄の数字が9番の席である。
「だいたい半年ぶりくらいですか――」
再会の言葉を口にしながら振り向くこの瞬間、やけに体感速度が遅い。
もうすぐあの紅蓮色の髪を見れる。もうすぐあの熱さを傍で感じられる。
もうすぐ――
そう思うと、やっぱりニヤついてしまうのだ。
「久しぶりで………………す?」
しっかりと身体は反転、相棒の方へと向いた。
しかし、俺は本来あるべきモノとは違うその光景に度肝を抜かれた。
伝えようとした言葉も忘れ、そこに立ち尽くす。
「ん? どうした? 喜びのハグはしないのか?」
「いやあの……」
「来ないと言うのなら私から行こう!!」
「っぐへう゛ぁ!」
まるで馬車と体当たりしたみたい。
相棒と確信していた人物が凄まじい勢いで抱きついてくる。
その見た目にも行動にも大きな衝撃を受けるが、なんとか踏みとどまって受け止めた。
「んんんんんー! クレスの匂い!」
「えっとー……」
ガッチリとホールドしてくるこの人に対し、俺はこの両手を空でソワソワとするだけ。
「クレス君、この人は……?」
「っ……」
すぐ傍にいるクラリスさんから当たり前の疑問が飛んでくる。
いやね、この人は5番目の災厄なんです。
ただそう自分が答える前に、トレードマークたる〝赤髪〟で一発で災厄と誰でも分かるはずなんだ。
でも――
「なんで銀髪っ……??」
そう、この胸元でスリスリしてるの女性は銀髪だった。
しっかもまったく俺と同じ色合い。
でも瞳は赤くて――
「あの、お名前は……?」
「む!? まさかたったこれだけの期間で私の名前を忘れたのか!? 酷いぞクレス!」
「いやその……」
「ただ仕方ない! 名乗れと言うのなら名乗ってやろう! 名乗るのは大好きだ!!」
密着していた身体をグワッと離す。
俺もクラリスさんも、そして観衆も見守る中、両手を腰に据え仁王立ち。
そして堂々高らかに名乗りを上げた。
「私はクレスの唯一無二の相棒にして、世界一熱い女、名は……」
「アルカだ――!!」
……
……………
…………………アルカ???
「だ、だれっすか……?」
◆◇◆
(バカだなークレス! 偽名だよ偽名! 私だって脳みそついてるんだ!)
(いや普通にビビりましたよ!)
(私はお前だって遠くからでも分かったぞ)
(そりゃコッチの髪で判別しただけでしょ!)
俺が『誰っすか?』と口にして数十秒が経過した。
ただ見た目に惑わされるほど廃れた関係じゃない。
魔力の質は真実を物語る。
無言の視線が四方八方から降り注ぐ中、俺とアウラさんはアイコンタクトにて瞬間的な会話をしていた――
(Ⅶの奴に特殊な薬作ってもらった。短期間だが銀髪で過ごせるんだ。凄いだろ?)
(そりゃ凄いっすけど……)
(姉弟って設定で行くぞ!)
(は!?)
俺、独り身ってカミングアウトしちゃってるんですけど!?
義理の姉という設定を通すにしても、同じ髪色じゃ……
「クレス君、アルカさんと言うのは……」
「私だ!」
「そ、それは理解したんですが……どういう関係で……」
ど、どうしよう。
いやもうここはアウラさんの言ったとおりの設定で進めるしか――
「あ、姉ですね!」
「あ! お姉さん!? でも前は家族が……」
「義理ですよ! 義理!」
「髪は……」
「姉さんはよく髪を染めるんですよ! 今回はたまたま銀! 普段からよく染髪するんです、ね!?」
「いや、普段は赤一色だぞ。それが地の色だし」
「おい!」
ここまで来たら話を合わせてくださいよ!!
ま、マズイ。
即興で言い訳したせい、これはすぐにボロが出そうな……
「と、とにかく義理の姉? 師匠? 相棒? みたいな自分にとって色々な意味を持つ人なんです」
「そうなんですかー」
アウラさんの変装は思いのほかしっかりしていた。
周りからも炎の災厄だとバレている節はない。
それどころか、俺とアウラさんのやり取りを面白そうに見るぐらいに変化している。
(そ、そういえば神大剣はどうしたんですか?)
(アレあるだけで目立つからな。お前を発見次第、急いで埋めてきた)
(埋めてきた!?)
(クレスを見つけて、飛んで行きたいところをグッと堪え、急いで髪や身なりを整えてきた)
(…………ちゃんと配慮が、大人になりましたね)
(なんだその言い方! 私は最初から大人だぞ!)
しかしあんな高価……いや、価値を付けられないほどの代物を地中に埋めてくるとは。
彼女の行動力は相変わらずだ。
(今なら撤退も可能か――?)
まだクラリスさんも観衆も事の重要性に気付いていない。
アウラさんを連れ、とりあえずこの場を離れるべきかも。
今ならまだ監視任務を続行、問題を収束できる。
「すいませんクラリスさん。ちょっと一回――」
「クレスゥゥゥゥ!」
「…………」
「ん、誰か来るぞ」
はい。スミス一行の到着です。
そうだった。
俺とクラリスさんに引っ付いて来てる奴等がいるんだった……
「この人だよこの人! 俺が感じたっていう超美人なオーラを持ってる人!」
「お、落ち着きなよスミス」
「だけど言ったとおりだっただろ!」
「まぁな。案の定クレスの関係者っぽいけど」
「だから俺は一層許せねぇ! このスミス・アルビンが成敗してくれるわ!!」
「む、クレスはやらせんぞ。私が相手をしよう!」
いつの間にかアウラさんが離れ、スミスの前に立ちはだかる。
「っく、美人に守られやがって許すまじ! だが好都合、戦闘中にでもオッパイを――」
「喰らえ! スーパーメラメラパアアアァァァアンチ!」
「ぐへばらばう゛ぁ!?」
そしてスミスが瞬殺された。
炎をまとったその拳は、一撃で相手を粉砕。
まぁ手加減は……したっぽいけど。
「す、すごい威力だ!」
「とんでもない飛距離で飛んでったぞ!」
「まさかこの人が噂のクレスの師匠……??」
で、残る3人も妙に盛り上がり出す。
アウラさん……もといアルカさんもとても良い表情で腕を組んでいる。
「安心しろクレス。敵は排除したぞ」
「そっすね……」
「さて飯行くか。そろそろ腹減ったし」
「自由すぎない!?」
「ここ最近は野宿ばっかりだったから。マトモな飯を食いたい」
「あのー僕たちもご一緒しても……」
「あ、私も……」
「いいぞー! 皆で行こうか!」
しかも勝手にクラリスさんたちも参加を表明。
アウラさんも快諾しちゃってるし。
というかもう歩き始めてる。
もう2人で離脱できる雰囲気状況じゃない。
「…………とりあえず、スミスを掘り出しに行くか」
ちなみにスミスはあれだけ吹っ飛ばされたのに奇跡的にかすり傷のみ。
むしろ美人の拳を味わえたと、満足そうな顔をしていた。
どうやら仮初めの青春はまだ続くそう。
より困難な事柄と、真っ赤な炎を抱えて――
今回mo
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