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第75話「式典2」

挿絵(By みてみん)

 ※クレスと、彼の異能であるエルレブンさん。

  ラフイラストです。

  

 『ローズ・エーベルング』


 彼女を一言で表すのなら――戦の天才である。


 個人の戦闘能力もさることながら、その真価は指揮官としての高い能力にある。

 若干18歳ながら、既に司令塔として戦争を幾度も経験。

 その多くを成功で収めてきた。


 彼女が『戦姫(せんき)』と称されるのは、今までの実績が認められたからこそ。


 更に容姿端麗で頭脳明晰、カリスマ性も充分(じゅうぶん)ある、まさに完璧超人。

 ただ一点、自己への自信がありすぎることを除けばだが――


 そんな彼女は当然の如く、今回の選抜戦に選ばれた。

 試合自体に気を配ってはいるが、最注目しているのはソレではない。


 王国にて召喚された勇者たち、そしてその1人を退けたクレス・アリシアという男である。


 場面はクレスがおかしな老人にテストを返却された後。

 ローズ・エーベルングが銀色(ぎんしょく)の髪を持つ者へと近づいている時――


     ◆◇◆


「良かったなクレス。ちゃんとテストが返ってきて」

「っくく、しかもこんなに大きな花丸つきだし」

「お前たち完全に面白がってるだろ……」

「で、でも、10000点だよクレス君?」

「す、凄いですよね」


 周りには見慣れたクレスメイトたちが集まっていた。

 さっきまでの一連の光景を見て、スガヌマとウィリアムは普通に笑っている。

 マイさんとクラリスさんもいるが、女性陣も苦笑。

 ちなみにワドウさんはイケメン探しの旅に。大丈夫、ちょいちょい姿は窺えている。

  

(ただあのじいさんとの一件、無駄に目立って終わりっていう――)


 一番どうしようもない結果になったな。

 

「おかしなご老人にテストを返却してもらったクレス」

「ただこれにて一件落着、とはならなかった」

「スガヌマ? ウィリアム? ど、どうした?」


 急に昔話みたいな語り口調に。

 ただその疑問はすぐに解消された。

 あ、これから始まるんだって。




「――ごきげんよう、王国の皆さん」




 透き通った声が唐突に投げかけられる。

 ハイトーンボイスとまではいかなくとも、よく響く。

 戦場でもこれならよく聞こえるだろう。


(戦姫、ローズ・エーベルング……)


 ダークパープルの髪を揺らし、堂々と登場。

 その出で立ち、10代とは思えないほどの風格だ。

 センとはまた違った独特のオーラを持っている。


「クレス君、こちらローズ・エーベルングさん」

「ご紹介ありがとう。マイ・ハルカゼ」


 そうか、勇者たちはもう挨拶を済ませたか。

 というかこの場にいる俺以外は全員済ませたのかな……?

 クラリスさんも既知っぽいし。


「えーっと、僕はクレス・アリシアです。ご挨拶が遅れて申し訳ないです」


 黙ってるわけにもいかない。

 もう知っていそうな雰囲気だが、一応名乗っておく。


「……ようやくお会いできましたね」

「?」

「勇者を退けた御仁、とても興味がありました。それに……ふふ」

「なにか……?」

「容姿についても聞いていた以上だな、と――」


 戦姫はその細い右腕をゆっくりと上げた。

 そして人差し指を、まるで品定めでもするみたいに俺の顎先へと。


 ――ピキン。


 しかし触れることはなかった。

 瞬間。独りでに青銀色の魔力同士が小さく相反、近づいてくる彼女の指先を弾いたのだ。


「っ?」

「あ、すいません! 大丈夫ですか!?」

「ええ……ただ今のは……」

「う、生まれつき魔力量が多いもので。油断するとつい出ちゃうんです。ごめんなさい」

「そうですか。しかし謝る必要はありません。(わたくし)が急に近づいたんですもの」


 別に今のは魔法でもなんでもない。

 これは魔力同士がぶつかって起こる……火花みたいなもの?

 言葉通り故意ではない。

 ただ――


(私のクレスに気安く触れるんじゃないわよ)

(ちょっと、エル……)


 今ローズ・エーベルングを下がらせたのは俺の異能だ。

 皆は感知できないだろうけど、かなりガンを飛ばしてます。


(な、なんか最近イライラしてる?)

(当たり前よっ! 出番ぜーんぜん無いんだもの!)

(まぁね……)

(しかも最近、あの女(、、、)の魔力もチラチラ感じるし)

(あの女……)

(超アホ熱血脳筋バーニング女よ)


 名は言いたくないのか、かなり雑な呼称である。

 エル曰くもうそんなに遠くない位置にいるとかなんとか。

 正確な位置までは不明。

 

(それとクレス)

(ん?)

(あのクソ炎女以外にも、もしかしたらロス――)


「アリシアさん? どうかされました?」

「え、あ、はい」


 声を掛けられふと我に返る。


「物思いにふけってらっしゃるので。わたくしとはお喋りはつまらないのかと」

「いやそんなことは……」


 ただ脳内がうるさいもので。


「興味があって、こちらで少し調べさせてもらったのですが、ヘルシン大陸のご出身なんですよね?」

「そうです。向こうには学校っていう学校もなくて……」

「学ぶためにわざわざ王国まで赴いた、と」

「はい」


 打ち合わせでもしてみたいな完璧な応答だ。

 身辺調査をしたようだが残念。

 設定は暗記、そして隠蔽工作も念入りにしてある。


「……失礼ながら、ああいう大陸ですし、ここに来るまで戦争のご経験は?」

「特にないです。暮らしていた場所はかなりの田舎だったので、駆り立てられることもなく。あと村から出た後も転々として……冒険者としては少し活動はしてましたけど」

「……なるほど」


 ――完全に品定めだな。

 ただヘタに隠すと余計詮索される。

 嘘では無いが、かなり大雑把に伝えた。


「もともと魔法学が好きだったんですけど、学園自体にも興味があって――」


 ふっふっふっふ。

 ボロは出さないぞ。

 しかも設定を喋るだけ。プライベートじゃない分、思考も口調も冷静にいける。


 それからもたわいもない、本当にたわいもない(、、、、、、)会話をした。

 トークの中に核がないような。

 まるで小手先だけの勝負をしているような。

 

 ただ、このやりとりはそう長く続かなかった――


「なら選抜戦が楽しみですわ。まぁこれですぐ倒れるようなら情けない結末ですけれど」


 俺の方がそもそもモチベーションが低め。

 うだつの上がらない自分に対し、戦姫は少し挑発的な発言をする。

 はいはい。

 そういうのには乗らないんで――


「いや普通にクレスが勝つんじゃね」

「「「「え」」」」」

「あ、す、すまん」


 なにも自分と戦姫だけが会話しているわけじゃない。

 周りにはウィリアムたちもいるんだ。

 そこで気でも抜けていたのか、スガヌマの素が出てしまう。


「……どういう意味かしら?」

「いや客観的に考えたら、クレスが勝つんじゃないかなーって……」

「……」

「で、でも個人的な考えなんで! なぁウィリアム!?」

「う、うん」


 いや個人的な考えならウィリアムに同意を求めるなよ!!

 普通に返事しちゃってるし。


貴女(あなた)方は?」

「「……私たちもクレスかなぁって……」」


 曖昧な回答は許さないという威圧感が女性陣にも降りかかる。

 クラリスさんもマイさんも、数拍置いた後に結局俺の名前を挙げた。

 頼むよ……そこで戦姫の名前を出してくれよ……


「どうやら貴方たちは本気(、、)でアリシアさんが勝つと思っているようですね」

「「「「……」」」」


 ここで元気よく『はい!』と言えるのはよっぽどのバカ。

 1つの失言から、だいぶ気まずい空気になった――ー


「……ふ」

「?」

「ふふふふふふふふ」

「???」


 てっきり怒るのかと思った。

 しかし戦姫は口元を押さえながら静かに笑い出す。

 それは演技には見えなくて――


「面白い。面白いですわ」

「……?」

「もう知っているでしょうが、私は軍を動かす人間。戦場では指揮官の役も担っている。だからこそ、いつだって優秀な兵、逸材を探している」


 聞き及んでいるとも。

 その名はこの大陸では有名だ。

 

「クレス・アリシアさん、貴方をスカウトしたい」

「……!」

「学園卒業後で構いません、ぜひとも――」

 

 あ、焦るな。

 このシチュエーションを予想していなかったわけじゃない。

 

「ありがたいお話なん――」

「ですが! そう易々と承諾はしないですよね?」

「っ」

 

 軍師のギラツキ、返答はお見通しとばかり。


「勝負をしましょう」

「……勝負?」

「ええ。選抜戦の舞台で私が勝ったのなら、卒業後にでも帝国軍に入団して頂きます」

「それは……」

「これ自体悪い話ではないでしょう。まだ手合わせしてないのでアレですが、誘った以上は相応の扱いをすることをお約束します。祖国への仕送りは十分にできるでしょう」

「……」

「それとも、将来他にやりたいことでも?」

 

 ――っ。


「即答できない時点でとりあえずは大丈夫そうですね」


 や、やばい。

 なんか相手のペースに引き込まれていく。

 勝負するって空気にこの場が持っていかれる。

 (エリザ)さんや(セローナ)さんに通ずるモノ、冷めた雰囲気の中に熱核が生まれるような。


「く、クレスが勝った場合はどうなるんすか?」


 だからソレを聞くなってスガヌマ。

 リアルに勝負が成り立つぞ。


「そうですね……まぁ何でもいいです」

「「「「何でも?」」」」

「軍入りの拒否は当然。それに加え、お金、地位、名誉、もちろんわたくしの身体でも」

「なっ」

「妻に娶るでも、愛人にするでも、何でもいいです」

「それはやりすぎ――」

「いいえ! 持ちかけたのは此方。気にする必要はありません。それに……」

「?」

「私が負けると信じて疑わぬオーディエンス。これを覆すのは最高に燃えるではありませんか――!」


 不敵な笑みを浮かべる。

 不可視のオーラが緊張を生む。

 見当違いだった、この人は冷静沈着ではなくかなりのギャンブラー。

 

「ま、私としても、ここまで賭けたのは初めてですが」

「後悔するんじゃ……?」

「どうでしょう。ただこの勝負は何となく(、、、、)仕掛けておくべきだと感じたんです」

「何となく……」

「貴方とはどんな形であれ繫がりを持つべきだと本能が告げます。たった数日で人見知りの剣聖が懐いたのもまた偶然では済まされない。これは運命(さだめ)。強者は強者に惹かれる」

「……」

「ふふふ。楽しみですね――」


 そう一言告げこの場を優雅に去って行く。

 その背中には美しく、華やかで、そして強さを感じさせた。

 


 遅れてスイマセン。


 次話はクラリスさんとのデート回にしようかなと。

 イラストも載るのでご期待ください。

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