第70話「剣聖3」
※マイさんの設定ラフです。制服も気合が入ってます!
『マイは異世界人(日本人)なのに何で碧眼なの?』という質問が来たので一応説明を。
異能所持者は個人差がありますが、髪や瞳などが高確率で「変色」します。
クレスが銀髪銀眼だったり、アウラが赤髪赤眼なのもそのせいですね。
かなり最初の方の話で説明したことなので、疑問を抱かせてしまったのかもしれません。
「うおぉー……」
「……どう?」
「き、きれいだな、と、」
「……遠慮しない、ちゃんと触って」
「ほ、ホントに良いんですかね?」
「……急に敬語。……良いよ、ボクがオッケー出したんだもん」
俺はセンと共に件の森に出発。
魔獣討伐へと赴いていた。
ただ夜になったので馬車は停車、道中で一泊の状況だ。
空に輝く星々の下、俺とセンは――
「……しょっと」
焚火に対し2人並んで鎮座する。
ただセンがまたグイッと近づく。
触れた肩から体温が伝播するよう、本能が昂ぶって感覚器官をより研ぎ澄ます。
「……今日は特別。……ただボクも初めてだから」
「あ、ああ」
「……優しく丁寧にね」
チラリと見せたソレ。
全部を見なくても格別の美しさを感じさせる。
それは宝石、絹、星々に通じる格別の艶やかさ。
「……じゃあ、全部見せるよ」
ゆっくりした手つきで全てを開帳。
ずっと守り続けてきたモノ、まるで封印を解くが如く。
「……さ、どうぞ」
「っ」
小声の誘引だというに不思議と鼓膜に響く。
身体中の神経が高揚感に持って行かれる。
加速する血脈、体温が上がり、心臓が段々とテンポアップするのが自分でも分かる。
「セン、じゃあ触るぞ」
「……うん」
目と目が合う、数センチしか間のない至近距離。
臆し気味な俺に対し、彼女の小さな身体は厳かに佇むのみ。
空気で伝わってくる、好きにしてくれて良いと。
(――俺も男だ)
ゴクリと固唾を一飲。
据え膳食わぬは男の恥だ。
ここは一気に――!
「カッコイイなぁ……!」
掴んだ宝石を離さないよう。
力強くしっかりと握った。
「……聖剣の握り心地はどう?」
「刀身を見ただけでもヤバイと思ったけど、実際に持ってみると――」
さっきはチラリと見ただけだが、今は手に取って質量感を味わう。
両刃の刀身は本当に宝石のように綺麗。
もともと興味があったのもあるが、実際に臨むとより魅せられる。
やっぱ俺も男だな、凄い刀剣を目の当たりにすると昂ぶってくる。
「……他人に持たせたのは初めて」
「俺もまさか許可が出るとは思わなかったよ」
「……普段のお礼。……あと超大切に扱って」
「センさん、いつも聖剣引きずって歩いてますよね?」
「……ボクは所有者だし、雑に扱っても問題なし」
だそうです。
鞘から解き放たれた一振り、まぁ見事だ。
せっかくの機会、センに言われた通りちゃんと触る。
(素材は不明。かなり特殊な鉱物を使ってる? 刀身自体には魔力的なナニカを感じるけど、これが能力に直結して――)
すぐ隣でフワフワしてるセンに注意しながら、自分なりの解析をする。
気づかれないよう軽く氷魔法を掛けてみるが――
(魔力が弾かれて全然凍らない。何を素材にしてるのやら……とりあえず、そんじょそこらの魔法じゃ相手にもならないか)
素晴らしい剣ということは確か。
「この聖剣には特殊な能力があるんだろ?」
「……だけど使えるのはボクだけ。……クレスには無理だよ」
「ですよねー」
魔力を込めようにもそもそも弾かれて入らない。
センは一体どうやってこれを起動してるんだろう……
「……もういいでしょ」
「うん。ありがと」
装飾煌びやかな鞘に刀身を収める。
何時もだったらその上で黒筒に仕舞うが、今はただの田舎道。
隠す必要は無く、鞘はその顔を常に露出している。
「もう見た目だけで強いもんなぁ……」
「……派手だよね」
ただ鞘も特別性、他で代用はできないらしい。
「でもそれを今回の選抜戦で使えば、それだけで盛り上が――」
「……聖剣は、使っちゃダメって言われてる」
「あ、そうなの」
「……逆に、普通の学生が聖剣にどう勝つの?」
「ん、んー気合とか」
「……アホ」
「ストレートなツッコミどうも」
危ない。
数字の思考に戻っていた。
俺は少しできるだけの学生、そう刷り込む。
「まぁ聖剣禁止でも、勇者2人が勝てるかどうか……」
選抜戦一番の注目株は、やはり勇者であるスガヌマとワドウさん。
2人はどこまで渡り合えるのか。
「……1人は支援系、不参加って聞いた」
「マイさんね」
「……もう1人は?」
「ああ、アイツは――」
「……クレスがボコった」
「え」
「……そう聞いた。……違う?」
「違うというか……」
確かに病院には送ったけど、その言い方で広まるのは……
「お互い反則負け。ただアイツは入院中だから……代わりに行けよみたいな」
「……そのマイって勇者が治療すれば良いんじゃないの?」
マイさんがケンザキを治療、もっともな意見だ。
すぐに完治するだろう。
ただあのケンザキの暴走に偉い人たちはご立腹。
(外傷だけで、命になんら別状はないって話だし)
緊急性はない。
今回はお灸を添えるということでマイさんによる特別治療はなしとなる。
当分は入院生活、その間に理想の勇者とは何かを叩き込むらしい。
「世の中な、色々あるんだ」
「……ふーん」
少しでも付き合いやすくなれば良いんだけどな……
「さてと、そろそろ寝るか」
「……見張り」
「まず俺からやるよ」
「……了解」
御者は既に眠りについている。
お喋りするのもいいが、睡眠はちゃんと取っておかないと。
「……クレス、ここで寝ていい?」
「ここ?」
俺の真隣にはセンが座っている。
そして今度はポンと肩も預けてくる。
小さいせいか、思いのほか体重は掛かってこない。
「横になって寝た方がいいぞ」
「……ボクは座って寝れる」
「これだと俺が動けない」
「……なんとかなる」
謎理論が炸裂しました。
「……お願い」
「はぁ。分かった」
「……やったー」
聖剣は近くに置いたまま。
抱き枕の代わりか、センは俺の左腕を軽く抱いて瞼を落とす。
(腕もか……これじゃあ本当に動けないぞ)
だが仕方ない。
ゴチャゴチャ言うのも面倒だし。
(それに――)
眠ってるのかどうなのか、それでも面持ちは穏やかそう。
いつもの無表情ぶりも少しは緩んでいるような。
俺の腕以外にも、彼女も彼女なりに色々抱えてる。
それはこの仕事が終わってからも、今ぐらいは……
「――パパッと済ませるだけじゃな」
◆◇◆
移動に時間を掛け、ついに魔獣が巣くうという森へ到着する。
そしてその最奥へと来たわけだが――
「「…………」」
予想では魔獣が山ほどいると見込んでいた。
しかし俺とセンはその有りように言葉を失う。
「……なにこれ」
「俺が聞きたい」
一言で表すならそこは『荒野』
激しい戦闘でもあったのか、大地には大きく抉られている箇所がかしこに。
ただ特出すべきは――
「……灰だ」
「燃やされたっぽいな」
ここは森の最奥、だというに草木がない。
辺りにはセンが指摘したとおり灰が大量に。
「この惨状を見る前から変な匂いはしてたけど……」
ここ一帯には焦げた匂いが充満している。
「……ビックリ。……それと此処には魔力の残子がある」
「戦闘があったのは間違いないか」
「……相当な炎魔法使い」
目をこらせば、真っ黒ながら魔獣の断片が転がっている。
圧倒的な火力で魔獣たちを一掃した人物がいるんだ。
「……やばいかも」
センが珍しく眼を鋭くする。
見えざる者に対し、警戒を示す。
しかしもう事後、周り不自然なものも感じない。
ただただ、燃えた大地が広がっている。
「……クレス?」
俺の口数が少ないからか、センが怪訝な顔をする。
「これは……やばい」
「……うん」
肯定する。これはまずい事態だ。
ただセンはこれをやった存在を断定できないだろう。
でも俺は残った魔力の粒子で察した。
ずっと組んでたんだ、そりゃ分かるよ――
「ふっ、ふふふふふふ」
自然と笑えてくる。
「このタイミングでかぁぁぁ…………」
そして頭を抱える。
もう笑うというかは泣きだな、泣き。
来る災厄に思いを馳せるんだ。
いる。いるんだよ。
この近くにアウラさんが――――!
これから発売日である4/1まで、毎回イラストなり新情報を載せていきます。
(とりあえず木曜・土曜の週2回更新で継続。遅刻は許してください)
ぜひチェックしてください。