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第64話「結末」

 王立魔法学園で開かれた上位予選。

 

 ベスト4最後の1人を決める2回戦最終試合。

 ユウト・ケンザキ対クレス・アリシア。


 結果から言えば、この試合はドロー。

 引き分けである。

 

 構図だけ見れば、最終的にクレス・アリシアが相手ごと会場を凍結。

 ユウト・ケンザキを戦闘不能にした。


 しかし両者共に既定を超えた魔法と異能を行使。

 ルールの不備もあったが、審議の結果ドローとなる。 


 また会場の氷化が凄まじく、この試合の時点で大会は中止に。

 後日3回戦が執り行われることとなった。


 その結果。

 

 優勝:コウキ・スガヌマ(王立所属、1年)

 準優勝:リンカ・ワドウ。(王立所属、1年)

 3位:ウィリアム・コンラード(王立所属、1年)

 4位:アルス・マリウス(王立所属、3年)

 5位:該当選手なし

 

 5位決定戦は様々な事情と審議の末、終ぞ行われなかった。

 

 ユウト・ケンザキは全治数ヵ月の負傷を負い入院。

 また勇者たる彼をそこまで追い込んだクレス・アリシアも『勝負には勝ったからいい』と。

 上位予選からの途中欠場を申し出た。

 

 しかしこの上記2人の力がずば抜けている事は観客誰もが既知。 

 それは5位決定戦に臨むはずだった他2人の生徒も同じく。

 

 1つ生まれてしまった選抜の空席、しかしそれは今日の会議によって決まろうとしていた————














「——それで、ユウト・ケンザキの容態(ようだい)は?」

「——命に別状はありません。ただ当分実戦は無理でしょう」


 国王、四大公爵、魔法騎士団長、王立魔法学園長などなど。

 ハーレンス王国の重役が一堂に会す。

 今回集まったのは帝国で開かれる『選抜戦』

 その最後の代表を決めるためだ。


「今更5位決定戦をやるというのもねぇ」

「肝心の勇者ケンザキは戦えない。クレス・アリシアの1人勝ちは明らか」

「ありゃ怪物だしな。同世代だと剣聖クラスじゃないと太刀打ちできないっしょ」

「然り。それに彼は大賢者や舞踏会での実績もある」


 会議はピリつくこともなく、緩やかに進む。

 この場にいる誰もが1人の少年を認めているからこそ。


「騎士団長殿はどう思う?」

「そうですね。まずアリシア君は魔法は違反しましたが、それは観客の保護を考えてだったと思います」

「あー。まさか異能で魔法壁を破られるとは思わんかったな」

「ええ。彼がそれこそ強力な魔法を使わなければ、一般人にも被害が及んでいた」


 大会中止後には事情聴取も行われた。

 クレス・アリシア曰く、最後の魔法は観客を守るため。

 嘘ではない。それは場にいた騎士団長アルバートも見抜いていた。

 

「ユウト・ケンザキは容態が回復次第、少し説教だな」

「あの異能の使い方は危険でしたね」

「勇者たる自覚が足らん。人を守る使命にあるというのに」

「その点から言えば、今回は灸を据える良い機会になっただろ」

「卿、なんてこと言うんですか……」

 

 貴族や関係者たちが思い思いの言葉を吐く。

 その内容はバラつきがあるようで意外と共通している。 

 それは、銀髪の少年を認めていると言うこと。


「アリシア少年、うちの婿に来てくれんかなぁ」

「おや、クラリス嬢と懇意だったのでは?」

「そうだったな。ランドデルク卿は聡明な目をお持ちだ。あれは逸材である」

「はっはっは。私ではなく娘の目が優れているのですよ」


 ユウト・ケンザキも、世間的にはそう評価は低くない。

 ルールが曖昧だったとは言え、観客を危険に晒した。

 それでも勇者としての実力は証明。

 貴族たちも体面は一応守れたと安堵していた。


「ちなみに5位決定戦に臨むはずだった、残り2人の生徒は……」

「両者ともに勇者かクレス・アリシアに席を譲るそうです。自分たちが立てる場所ではないと」

「え、諦めてんのかよー」

「いやいや、あの試合を観たら普通の生徒はそう思う」

「仕方あるまいよな。戦って氷漬けにされるのは誰だって嫌じゃ」

「ふっふっふ。違いない」

 

 この場の空気、(みな)の意見は大体一致。

 様々な事情が重なったが、その上で——


「そろそろ良いか」

「王……」

「最後の代表枠、決まりだろう。彼に対し不満がある者はいるまい?」


 国王の確認に全員が頷く。

 

「ならば、選抜戦に送る5人目は——」














 会議から数日後。

 場所は王立魔法学園、学園長室。


「……え?」

「アリシア君、君が5人目の代表だ」


 学園長から告げられる衝撃の結末。

 なんと空席だった5位。

 貴族たちとの会議の結果、俺に託すことになったらしい。


「いやいやいや! 俺は大会を途中棄権しましたよ!」

「違反は違反だからという理由だろう? それに勇者の1人にも勝てたからと」

「あ、あと腰とか腕もちょっと調子悪いような……」


 まずい。とてもまずい。

 ベストな幕引きだったはずなのに。

 ケンザキも倒しつつ、上手いこと去ったはずなのに。


「な、なら! せめて5位決定戦をしましょう!」

 

 入院中のケンザキはともかく。

 俺以外にも2人、代表に挑める生徒がいる。

 ケンザキには勝ったんだ。

 もういっそソイツらと戦って、わざと負けてやれば——


「彼らにも試合をするか尋ねた。だが……」

「だ、だが?」

「自分たちが未熟だと言う事は嫌と言うほど理解した。今回は君こそが代表に相応しい……と言われた」

「……へ?」

「そういうことだ」


 そういうこと?

 どういうこと?

 なんで戦わないで俺に譲るの? 

 

「ケンザキ君があの状態な以上、君以外に適任はいない」


 学園長は『しかも』と付け加える。


「こう言っては何だが、勇者を全治数ヵ月に追い込んだのがアリシア君でもある」

「責任、ってことですか……?」

「別に押し付けようという訳でもない。ただ、学友の意思は継いであげて欲しい」


 いやでも、ケンザキがボロボロになったのは自業自得。

 むしろ俺が凍らせなければ観客を殺めていた。

 なぜこうも尻ぬぐいを……


「それにアリシア君だって、代表を目指してこの予選に参加したのだろう?」

「え……」

「それ以外に出場する理由があるのかい?」

「う、うーん、自分の力を試したかった、みたいな……」

「ならば本選では最高の力比べができるぞ」


 っく。

 言い訳しても上手いこと返される。


「それに腰や腕が不調というが、ケンザキ君ほど酷くはない」

「た、確かに入院するレベルじゃないですけど……」

「本選まで時間もある。回復もできるだろう」


 ダメだ。脱出ルートが見つからない……


「では期待しているよ。我が学園きっての天才、クレス・アリシア君!」

「な、なんで綺麗に締めて——」

「負けた友たちの分! 優勝目指して頑張ってくれ!」


 あー。

 あーあ。

 なんだこれ……


「ハハハ……」


 乾いた笑い。

 まさかの戦わずして代表入り。

 会議や審議の結果、そんなんで無理やり代表にされるって誰が予想できる?

 せめて5位決定戦を執り行うと思うだろう……

 勝手に負けを認め、謎に譲られたし。


「ことごとく俺はダメだな……」


 あとで何とかすると覚悟した手前。

 結局本選行きを決めてしまった。

 俺は未熟な人間だ。

 こうなったこと、いくらでも責めてくれ。


(っくっそおおおお! せめてケンザキの奴を生かしておけばああああああ!)


 長かった俺の予選はとんでもない結末を迎えた。

 結果的には勝負にも試合にも勝った形。

 そしてこの手には半ば無理やり帝国行きのチケットが渡された。 

更新遅れてスイマセン。

来週は木曜か土曜、どっちか休みになるかもしれません。

なるべく更新できるよう頑張ります。

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