第62.5話「決断」
ハーレンス王国、選抜戦上位予選。
「ぐ、ぅ……」
「はぁ……はぁ……」
2回戦第1試合。
スミス・ケルビンVSリンカ・ワドウ。
「なぜ愛の力が敗北……」
「あなたのソレは、本物じゃないから」
「なん、だと?」
「思い出しなさい。本当の性癖を————!」
ダークホースであった愛の戦士は勇者に破れる。
その後も試合はペースよく進んだ。
結果、3回戦進出者——
リンカ・ワドウ。
ウィリアム・コンラード。
コウキ・スガヌマ。
2回戦で残すは最終試合のみ。
光の勇者と——
「俺の出番か」
重大なイレギュラーもなく順当に昇華されていく予選試合。
多少驚いたと言えばスミスの敗北だろう。
「ワドウさんも中々練度は高かったけど……」
魔法というかは、半分性癖の争いだった。
常に言い争いながらの試合。
最終的にワドウさんが打ち勝ったのは、精神的強さか。
「あれで目を覚ましてくれるといいんだけどな」
「スガヌマ……」
スミスは気絶して医務室に運ばれた。
命云々までいかないが、現在治療中だ。
「愛がどうとかより、女の話してるスミスの方がおもしれぇ」
「言えてるね」
「ウィリアムまで……」
待機室には既に帝国での本選行きを決めた2人が。
ここにワドウさんも追加。
俺とケンザキの試合で、4人目の代表が決まると言うわけだ。
「ケンザキに対し勝算は?」
「さあ」
「さあって……」
「なにせケンザキには必殺技があるって話だ」
曖昧に答えた手前、頭の中で既にシナリオは描ききっていた。
そう、決断したのである。
「そろそろ時間だ。行ってくるよ」
もうすぐフィールドの修繕も完了する頃合い。
ゲート付近に移って待機していた方がいいだろう。
「頑張れよクレス」
「スガヌマは同じ勇者を応援しなくて良いのか?」
「関係ねえよ。お前は友達で間違いない」
「そうだよ。僕も応援してる」
そんな期待を掛けないでくれ。
もうそんな弱気な言葉は口に出さない。
なにせ——
「ああ。行ってくるよ」
スタンドアップ。
これからの戦いで勇者の下馬評を覆す。
『ついに2回戦も最終試合となりました!』
『これで勝った方がベスト4に進出。とりあえず帝国行きは確定だ』
『しかしどちらも選手としては期待が持てますし』
『勇者か、それとも稀代の天才か』
『何にせよ凄まじい戦いになりそうです』
前振りサンキュー。
この距離だ、観客の熱さもほぼダイレクトに伝わる。
『それでは選手の入場! まずはユウト・ケンザキ!』
相対したゲートから勇者がやってくる。
良く知ってるようで知らない相手。
「でも良い顔してる……」
向こうは少なからず俺に鬱憤を感じてる。
それが正しいか正しくないかは別として、努力の糧にはなったようだ。
「嫉妬や怒りもまた人を強くする、か」
遠目からみてもオーラが見える。
強い奴の雰囲気だ。
どうやら前みたいにガッカリすることはなさそう。
『——勇者と相対するは1回戦でも会場を唖然とさせたあの男!』
拳と軽く握り込む。
眼光は備える、呼び声に応える。
『クレス・アリシアの登場だ!』
呼ばれて推参。
熱気が陽炎の如く揺れる会場に足を踏み入れる。
「こうして対面するのは久し振りだな、アリシア」
「ああ」
「こう言ってはなんだけど、本気で潰すから。悪く思うな」
「そうか」
まさかのケンザキから近づいてきた。
握手を交わすわけではない。
開口一番は勝利への断りだった。
要件は済んだのか、ケンザキは元の位置へと戻っていく。
「……杞憂だって」
むしろ謝るのは俺の方。
なにせ——
『これより2回戦の最後! ユウト・ケンザキ対クレス・アリシアの試合を行います!』
勇者が剣を構える。
出会った当初とは違う、ちゃんとした構えだ。
「いいじゃん……」
勇者に勝つか負けるか。
随分と悩んだよ。
だがその末に、俺は考え至る。
「——勝つのは、俺だ」
魔力が腹の中で渦巻く、このままぶっちぎる。
勇者がいるのなら、そこに障害として災厄が現れるのもまた道理。
ただ勘違いしてはいけない。
あくまでルールの範疇、制限の中でのみ力を振るおう。
(体裁はどうしたって? 後でどうにかするよ)
これは間違った選択と言う者もいるだろう。
だがしかし、俺が負けたくないと思った。
だから勝つと決めた。それだけのこと。
俺の変化に対し批判大いに結構、覚悟はできてる。
『試合、開始です!』
「「——勝負!」」
投稿遅れてすいません。
おそらく次話で予選編は決着します(させます)。
1、2話閑話を挟みつつ帝国編に移行、ようやくハイスケールで物事を運べます。
剣聖や戦姫に加え、いよいよ赤い彼女の出番が来ますかね。
次回の更新は1/13(日)ではなく、1/16か1/17。
火曜日か水曜日になると思います。