第54話「予選」
今日から選抜戦の予選が始まる。
1ブロックあたり約50人。
制限はあるものの魔法も体術も何でもアリ。
試合用の剣や槍も用意されており、なかなか整った環境だ。
そんな中で1対1で試合をする。
そこで優勝した奴が王立魔法学園のメインステージに行くことができるわけだ。
「ここがエンタール学園か」
ブロックによって会場も違う。
そして俺はエンタール学園という所に来た。
ここは平民区で数少ない大きな会場持つ学び舎だ。
ただ王立に通ったせいか、何も見てもやはりチープに思えてくる。
あそこの金の掛け方は異常だと再確認。
何はともあれ校門を抜け俺の舞台へ向かう。
「しかし視線が凄いな……」
『クレスが色男だからでしょ』
「いやいや。制服のせいだろ」
一種のお祭り行事、予選と言えど観客は結構いる。
ただやはり学生が多い。
制服からして此処の生徒や近くの学校から来た、つまりは俺と同じ平民が殆どだ。
そりゃ貴族区の会場には行きにくいわな。
彼らは物珍しそうに俺のことを見てくる。
エルは容姿のせいというが、たぶん一番大きな要因はこの制服だ。
「おい王立の生徒だぜ……」
「しかも銀髪と銀眼って」
「どっかの貴族か?」
「平民じゃないだろう。どうせコネで入学して————」
入学するために必死で勉強しました。
貴族じゃなくて田舎の生まれです。
俺がこの真白の制服を着たのは何も偶然じゃない。
着るべくして着た。
しかし王立というのは憧れにもなるが、僻みも買うんだな。
気にしない。
俺は俺の為すべきことを為すだけ。
「これがトーナメント表……」
王立と違いそこまで広くない敷地。
会場にはすぐに着く。
あとその入口付近には今回の組み合わせが掲示してあった。
結構な人だかり、俺も何とか確認————
「やっぱり知り合いはいないか」
『どうせ雑魚ばかりよ』
「それでも油断するつもりはない」
良かった。
これで予選でわざと負けることは回避できたよ。
少し早いがもう会場入りし————
「っきゃ!」
トーナメント表の横を通り過ぎようとした瞬間だ。
群衆に弾かれ1人の女が出てくる。
ここの制服着てるな。
強く押されたかどうなのか、勢いよく後ろに転倒。
このまま行けば後頭部直撃だ。
受け身も出来るように見えないし————
『……お人好し』
分かってたのにスルーする。
後味が悪いじゃんか。
俺は気持ちよく試合に臨みたいよ。
瞬時に思考し反応。
俺が後ろから抱く形、倒れそうなその女生徒を後ろから支える。
勢いあまって彼女の方が俺の胸元に当たるが、まあ大した衝撃ではないな。
「え、あれ……」
茶髪のポニーテール。
顔はなかなか可愛いと思うぞ。
きっとこのまま地面に倒れると思ってたんだろうな。
第三者の急な助けに驚いたってところか。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です……」
この国に来たばかりの俺だったら、同い年の女子と向き合うだけで緊張した。
だが俺のコミュニケーション能力は確かに成長している。
こうして女子と対面してもテンパることは少なくなった。
しっかり目と目を合わせられる。
噛まずに言葉も掛けられた。
どうだ凄いだろ?
「あ、ありがとうございます!」
「いえ。気にしないでください」
「その制服、もしかして王立魔法学園ですか……?」
「まあそうですね」
「うわぁ……やっぱりカッコいいなあ……」
俺からしたら王立に何も感じない。
ただやはりこの国で暮らす若者にとっては憧れなんだろうな。
しかし早めに来たと言えどモタモタしてられない。
もうこの場から離れ————
「ちょっと! リアに何してるのよ!」
「え?」
突如登場したのは女にしては短い茶髪を持つ人。
助けた女子と同じ制服を着ている。
彼女の友達だろうか。
ただ何故か俺に罵声? 警告? を浴びせてくる。
別に怒られるようなことしてないんだけどな……
「大丈夫リア!?」
「う。うん。でもジーナ、この人は……」
「無理して喋らなくても分かるよ。ナンパされてたんでしょ?」
「そ、そうじゃなくて……」
「私がもっと早くトーナメント表を確認して傍にいたら————」
ジーナと呼ばれた生徒はどうや勘違いをしているらしい。
勝ち気な性格なんだろうな、相方の言葉を全然聞いてない。
こういう人間とはあんまり関わりたくな————
ってあれ? 待てよ?
このジーナって人、もしかして……
「あんた、ジーナ・ラケーネって名前か?」
「っ! なんで私の名前を————」
やはりそうか。
驚くことはない。
俺だってついさっきアンタの名前を知ったばかりだ。
「俺はクレス・アリシア。1回戦の相手だよ」
全員知らないとはいえ、1回戦の相手の名前ぐらいは覚えている。
まさか関わりたくないと思った矢先にコレか。
気持ちよく試合に臨むどころか、最悪な出だしになりそうだ。
「へえ。ならこの報いは……って何処に行くのよ!」
もう誤解を解くのも面倒だ。
キャンキャン吠えるもんだから耳が痛い。
無視して待機室に向かうことにする。
せっかく助けてやったのに、まあ気にしてはいないでおこう。
「ちょっと無視しな————」
はあ、やけに喧嘩っ早い女だな。
俺の無視に気を悪くしたのか、手を伸ばし肩を掴もうとしてくる。
同じ女性でもクラリスさんなんかとは雲泥の差。
平民育ちがなんて言うつもりはないが、もう少し視野を広げることをお勧めする。
「彼女、ナンパされてるぞ」
「うそ!?」
嘘だよ。俺の虚言に騙され標的を変える。
同系統にアウラさんがいるが、あの人は許せる。
この人みたいに強引なところはあるが、しっかりと一線を心得ているのだ。
無下に侵入してきたりしない。
とりあえず隙は作ったし、このままトンズラといこう。
なにせ俺は喧嘩しに来たんじゃなくて、試合をやりに来た。
『この女、試合とやらで殺しましょう』
「それ普通に捕まる」
『ぐぬぬ……ムカつくわ……』
「まあ試合は俺が勝たせてもらうから」
彼女は安く吠えるだけで、本物の気を感じなかった。
ジーナという人だけではなくこの場にいる学生ほとんどがそう。
ともかく1回戦、一発目の彼女は大衆の面前で恥をかくことになる。
俺ができる中で全力を出すのだ。
女だろうが一切手加減する気はない。
ただ今の事を根に持ってではなく、ポリシーと優秀という建前もあるから。
せめて今ぐらいは良い気にさせといてあげよう。





