第50話「愈々」
「あの魔族の目的は何だったんだろうな!」
「謎だよなあ。あと胴が空いてるぞ」
「あ、待て! ギブアッ————」
「待ちません」
放課後————
今はスミスと組手中。
ただの組手ではない、魔法を纏ってやる。
つまりはれっきとした魔法戦である。
あと話すのは隙を無くしてからだな。
ただ気になるのも分かる。
数日前の出来事、俺だって気にしているんだ。
「ぐほぉぉ……」
「吐くほど強く叩いてないぞ」
「単純に痛てぇんだよ……」
ちなみにウィリアムとスガヌマも離れた所で横になっている。
グッタリした状態。
魔族のことで一層厳しく指導してくれと言ったのは3人だ。
俺はその要望に応えただけ。
「1回区切るか。休憩にしよう」
「よっしゃー……」
「しっかりしてくれ。予選で活躍するんだろ?」
「おう……」
結構キツく言うが、皆の魔法は確実に進歩している。
それは実技授業でも明らかだ。
3人だけキレがかなり良くなった。威力や速度も上がった。
今の状態でも2、3回戦は勝ち上がれそると思う。
「予選まであと少しか————」
近い内にトーナメント表も出るだろう。
ちなみに今年の選抜戦の予選、エントリーは既に600人を越えたらしい。
例年に比べ珍しく参加者が多いようだ。
「今年は多いらしいし、細かくブロック分けされんじゃね?」
「そうかもな」
「できればこの学園が良い。アウェーは嫌だわ」
予選の会場は人によって違う。
全員が各ブロック分けられ、ここ王立魔法学園で試合をする者もいれば、違う学校で試合をする者もいる。
そして各ブロックごとで勝ち上がった十数名を収集。
最後はこの王立魔法学園のメイン会場で試合をすることになる。
(メインステージまでは勝ち上がりたいな……)
いかんせん優等生を演じている身だ。
だが俺は勝ち上がったという結果が欲しいだけ。
頃合いを見て『病欠』してやるつもり。
手を抜いてると誰かに見破られる可能性もあるからな。
足とか手が痛いって言って欠席してやる。
もうドジは踏まないぞ。
本選には絶対に行かないんだ。
「クレスとだけは同じブロックになりたくねえなあ」
「どうしてだよ?」
「どうしてって、そりゃ瞬殺されるから」
「……まだ分からないぞ」
「おーい、目を合わせて言ってくれやー」
確かに知り合いとは被りたくないな。
皆それぞれ違うブロックになることを祈っておこう。
勇者なんかとも当たりたくない。
俺は予選上位に行ければそれで満足なんだ。
「予選の話かい?」
「お、ウィリアムも復活したか」
「立てるぐらいにはね。コウキ君もそんな感じかな」
ヘバッていた2人もようやく起き上がる。
そして俺たちの会話に混ざってくる。
「なあ、一番戦いたくないのってやっぱクレスだよな?」
「間違いねえ」
「強く同意だ」
「そんなに俺とは嫌か……」
そこまで言われると若干へこむ。
今だって少ししか強化魔法は使ってなかったのに。
「あ、やっぱり今日もいましたか————」
「「「会長!」」」
「クラリスさん……」
話し込む中で会場の扉を開ける者が————
もう見慣れた姿、クラリスさんだ。
最近はよく俺たちの放課後練習を見に来る。
生徒会としての見回りを兼ねてだとか。
お仕事ご苦労様です。
「相変わらずお美しい!」
「ふふ。ありがとうございます」
「スミスはこういう時だけすぐ元気になるからなあ」
「当たり前だろ! 美女と美少女は俺の一番の力になる!」
「はいはい」
さっきまでの疲労はどこに行ったんだ。
スミスの切り替え力は素晴らしい。
それを日頃の鍛錬でも発揮して欲しいよ。
「見てくださいこの痣! クレスの奴がやったんです!」
「あらあら」
「残念だったなクレス! これでクラリスさんのお前に対する好感度も急降下だ!」
「なにバカなこと言ってんだよ……」
気にしないでくださいクラリスさん。
スミスはただのアホなんで。
ウィリアムとスガヌマもやれやれといった感じ。
一周回って哀れにも思えてくる。
まさか真に受けるなんてこと————
「大丈夫ですよクレス君! わ、私の好感度下がってないですよ!」
「そ、そうですか……」
「はい! 心配無用です!」
あー良い笑顔で言ってくれますね。
しかも俺の手を両手で握ってブンブン上下に振る。
なに真剣に考えてるんだよ、なんてツッコミは出来ないな。
スミス、血涙が出てるぞ。病院行った方がいい。
「ズルいズルい。クレスばっかりモテてズルい……」
「あのな、別に俺は————」
「気にしてないって言うんだろ! 俺は気にしてんだよ!」
「お、おう」
凄まじい覇気だ。
よっぽど女に飢えているかんじ。
もう誰か彼女になってやれ。
最近はやけに女装を勧めてくるし、もう犯罪を起こしかねないぞ。
「クラリスさん。こんな鈍感男はもう放って僕と……」
「ご、ごめんなさい」
はい撃沈。
そんな膝をつくまでもなく分かってただろうに。
「そ、それに、私にはその好きな……」
「会長モジモジするの止めてください! 憎悪でスミスが狂人になってしまう!」
「も、モジモジ? でもそんな本人の前で告白だなんて————」
「だからそういう恥ずかしがる態度は……」
「クレスウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
「なんか地獄絵図になってんなあ」
「俺はどうしたらいい……?」
悪い。状況説明しようにも混雑しすぎている。
とりあえずクラリスさんが1人で恥ずかしがっている。
そんな彼女と俺を見てスミスが発狂している。
ウィリアムは何とか場を鎮めんと頑張っている。
あとスガヌマは傍観だ。
俺はただただ理解が追いついていない。
「……クレス、どうやら時が来たようだ」
「ど、どうしたスミス?」
「……非モテの代表として、やはり俺はお前を許すわけにはいかない」
うるさかったはずが急に冷静になるスミス。
しかも良い気を放っている。
その足取りも堂々。
まさに峠を越した。覚醒状態とでも言うべきか。
それぐらい勢いを感じる。
「魔法も教わった。勉強も教わった。今度女装もしてもらう」
「いや女装はしねーよ」
「常に感謝はしているし俺はダチだ。それでも、お前のモテっぷりをこれ以上許すわけにはいかねえ」
「つまり……?」
「前言撤回する。クレスは俺にとって一番やらなきゃいけない相手だ」
ギラリとスミスの眼が輝く。
一拍置き、そして高らかに奴は宣言した。
「選抜戦! お前を討つ————!」





