第49話「長々」
始まりの森に魔族が出現。
前代未聞の出来事だ。
この知らせは王国中にすぐ伝播することになる。
それは冒険者ギルド、騎士団の協力があったからこそ。
現場には騎士が送られ、森の近くにいた冒険者や商人も早くに撤退を完了した。
「だけど取り調べも現場検証も長すぎな……」
俺があの魔族を粉々にし、完璧に隠蔽をして少し。
拠点に張っていた騎士たちがようやく到着した。
それからは当時の状況を詳しく聴取したいとか、スミスたちと長々拘束されたよ。
皆王都に着く頃にはクタクタだった。
今はようやく自宅に帰還。
一息ついている。
明日も普通に学校あるし……
『辞めちゃえばいいのに』
「任務だ」
脳裏にはエルの声がこだまする。
実体化は負担が大きいのでそうやらない。
傍から見れば俺の独り言。
ただ頭の中ではしっかり対面、今回のことを喋っている。
「しっかしあの魔族の裏にいた魔王がグラシャラスとは……」
『堕天の魔王ね』
拷問の結果、それなりの情報が手に入った。
まずあの魔族は魔王の1人、グラシャラスのために動いたという。
ただ命令をしたのは魔王ではなくその配下。
今回の一件は主たるグラシャラスすら知らないらしい。
よくもまあそんな大胆なことするよ。
『それにしても、ちょっと弱すぎなかった?』
「俺も思った。他にもっと強い魔族がいるだろうに……」
『全然手応えなかったもの』
それを今は亡き魔族に聞いたが、なぜ自分が選ばれたかは分からなと。
変身はできるようだが、グランツ兄弟ほど隠密に優れているわけでもない。
謎だ……
他の可能性としては、あの魔族を囮に使ったとか?
アイツがやられている間に別方向から攻撃を仕掛ける。もしくは潜入したりする。
いやいや、エルは周囲に変な存在はいないと断言していたし……
「しかも魔族の目的は単なる勇者暗殺。何の捻りもない」
『囮ではなく、見せしめだった可能性は?』
「牽制ってことか……」
つまり普段から俺たちは勇者を狙ってるぞっていうアピール。
単にプレッシャーを掛けに来ただけってことだ。
となるとあの魔族は使い捨ての駒ってことだろうな。
まあ使い捨てされても致し方ない実力ではあった。
「行動制限。確かにもう迂闊には外に出られなくなったな」
『逆に人間たちの防衛意識も高めたけどね』
「とはいっても永遠には続かない。いつか弛む時が必ず来る」
あえて一度意識を高めさせ、落ちたところで一気に仕掛ける。
人類には攻める程の戦力がない。
つまりはずっと待ちの状態なのだ。
精神面での持久戦ではこっちが明らかに不利である。
不安や焦燥感を抱かせるやり方、実に魔族らしい。
「はあ、これ以上考えても埒が明かない」
深読みし過ぎても足元をすくわれる要因になる。
今は現状を客観視するだけに留めよう。
あくまで俺は勇者を監視すること。
その点で言えばスガヌマは良い成長をしている。
他の3人は————
「そういえばケンザキの異能、光神の加護だってさ」
『みたいね』
「中級クラスの神と見込んでるんだけど、真名って分かったりする?」
『格下に興味ない』
「さいですか……」
『雑魚よ。対峙したら一撃で葬れる自信があるわ』
流石は主神、流石は戦を司るだけある。
なかなか過激なことを言ってくれるよ。
ただ俺の見立て通りケンザキの異能、光神の加護はさして問題にならないようだ。
だがそうなると、やはり必殺技が気になるな————
『ただ女勇者2人は良いモノを持ってる』
「やっぱりそう思う?」
『特に髪が長い方はダントツね』
4人の中ではマイ・ハルカゼが一番の異能を所持している。
あの再生の異能は世界にさえ干渉する。
もし俺たちが世界を凍らせても、元に戻そうとする力で拮抗。
打破される可能性もある。
事実、世界凍結は無敵じゃない。
アウラさんにだって突破されたことがあるくらいだ。
『あの爆裂女……! 忌々しい……!』
「そう言うなって」
『だってクレス、あの女ばかり構うじゃない』
「まあアウラさんはズボラだし、誰かが面倒見ないと」
『じゃあ私もズボラになる!』
「エルは普段出てこないだろ。世話の見ようがねえよ」
『むー……』
そうそうボスから数日前に手紙が来た。
色々なことが書いてあったが、重要な事を1つだけ。
『アウラ・サンクリットが行方不明になりました』
謹慎中のはずが、気づいたら本拠から脱走していたとか。
最大限の警戒を払っていたが、今回は地中を掘り進めて脱獄したらしい。
ちなみにストレガさんに特殊な変身薬も作ってもらい、それを所持して行方をくらました。
「あの人が変装しても一発で見分け付きそうだけど……」
『私もそう思うわ。もうアホってオーラが常に出てるもの』
「そこまで言わな……そうかもな……」
通信の魔道具も置いて行ったとか。
こちらに向かってきている可能性は十分にある。
ボスからは細心の注意を払えという伝文があった。
注意っていってもな……
この天災は防ぎようがなくないか?
やっぱり違う。俺の氷魔法は全てを全て凍らせられるワケじゃない。
「あの人の炎は熱すぎる————」





