表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/165

第4話「入国」

「————うおぉすげえ!」


 トーマスさんの馬車にのって丁度4日目。

 日が真上に昇った頃、俺はついにハーレンス王国へと到着した。

 眼上に佇むは巨大な門、遠目からでも確認で出来ていたが、間近で見るとすさまじい大きさ。

 高すぎて見上げていると首が痛くなってくる。

 流石は大国の中心都市、その凄さを改めて感じることに。


「今日は空いててよかったぜ」

「何時もは混んでるのか?」

「おうよ。いつもは入場待ちの馬車で長蛇が出来んだよ」


 確かに、今はスイスイと進んでいる。

 審査が甘いのかと思っていたが、単純にラッキーらしい。

 

『そこで止まれー』


 ここでもう門の寸前に、やはり審査はやる、というか思いのほか厳重だ。

 勇者のことで他国からの刺客を警戒しているのかも。

 まずはトーマスさん、それから俺の方に。

 ただ事前に書類も証明書も用意はしてある、勿論勘繰られそうなことは偽造してあるが。

 そもそも王立学園を受ける身、その受験票だけでもある程度の安全は確保できる。


『よし、通っていいぞ』


(まずは第一関門クリアと) 


 何か言われるでもなく無事に入ることを許される。

 進行、つい荷台から顔を出してしまう。

 そこには俺の見たことのない活気ある、華やかすぎる街が広がっていた。


「どうだ? ビックリしたろクレス?」

「なんだこれ……」

「田舎から出てきた奴は皆驚くよな」


 同大陸のビンサルク帝国は、軍国だけあって、潤っていながらも武骨な感じがあった。

 アリミナ商国も栄えてはいたが、此処は美しさも兼ね備えている。

 ハーレンス王国の中心都市ハーレンス、見渡す此処はまさに理想の城下街だろう。

 レンガ造りの家が隙間なく立ち並び、売店なり居酒屋なり宿屋なり、よくわからない店までひしめき合う。

 中心の大通りもそうだが、あらゆるところに人、人、人。

 人の海とでも表現しようか、そこから活気という熱気が凄まじい。


「んじゃ広場につけるぜ」

「あ、ああ」


 馬車は入ってすぐ、噴水のある広場へと。

 そこには他と比べものにならないくらいの馬車が。

 しかも市民だけではなく、武器を携えた連中、冒険者の姿も多く見受けられる。

 

(これだけの大都市だったら、冒険者ギルドも相当な規模なんだろうな)


 ただざっと見た感じ、そこまで強い冒険者はいなそう。

 冒険者全体の質は高そうだが、ビンサルク帝国の一枚下といったところ。

 いやはや、自分の冒険者時代が懐かしく思える。

 そんな思い出に浸る暇もなく馬車も終着、この4日間の移動も終わりを迎える。


「ほいお疲れ、到着だ」

「いよいよか……」

「なんだ緊張してるんのか?」

「まあ多少は」

 

 別に短期の仕事だったらこんなドキドキはしない。

 だが学園は3年間を通してだ。

 しかも久しぶりの一人暮らし、懐かしさとか期待とか不安とか、色々混ざってもう良く分からない。


「そうだ、運賃は20000ビルスだった————」

「2000でいいぜ」

「は?」

「修理のお礼だ、特別料金だぜ」

 

 曰く一人暮らしをするなら金はとっておけと。

 修理のことも有るっちゃ有るが、最後の最後でカッコいいことをいうおじさんだ。


「頑張れよクレス!」

「……はは、そうだな、何時までも臆してはいられないか」

 

 別れの時だ、災厄の数字(ナンバーズ)以外でここまで話すのは久しぶりだった。

 宿なり法なり食べ物なり、色々なことを聞くことも出来たが、それを踏まえても楽しい移動に。

 魔法も丁度良く4日間持ったことだし、契約も同じように凍結魔法もそろそろ溶け始める時だろう。


「じゃあな、トーマスさん」

「おう! 達者でな!」


 囚われるには早すぎる、俺の心臓は氷で出来ている。

 これもまた1つの出会いと割り切るだけ。

 ただ手は軽くだが振ろう、また会える日を楽しみに。




















 トーマスさんと別れて向かうのは宿である。

 宿というかは賃貸の家に近い。

 学生寮もあるらしいが、殆どが相部屋制、それではもしもの時に動きが制限される。

 雑に描かれた地図を片手、トーマスさんにおススメされた場所へと向かう。


(学園からも近いし、家賃もそこそこ、一番は裏通りにあるってところだな)


 災厄という体面的にも、目立ちたくないという精神的にも。

 大通りから細道、細道から裏通りへと。

 ただそれでも人の姿は多い、闇は感じない。

 裏通りというか、庶民の町という表現が似合うかもの。


「————ここか」


 長期間の滞在に向いているという宿『グリーン』

 なんとも爽やかな名前、造りは木造、3階建て、窓の数的に部屋は9といったところ。

 ただ洗濯を干してあるのはその半分ほどしか。

 人が少ない所、どうやらその要望は叶いそうだ。

 穴場というだけある、教えてくれたトーマスさんには感謝をしなくては。

 年季の入った扉を開ける、迎えたのは————


「いらっしゃい」

「あ、どうも」


 出迎えたのは女の人、というかおばあちゃん。

 結構な歳を召していそう、番台に座るもののなんか常にヨロヨロしている。

 

「宿泊ですかな?」

「はい。長期で住めるところを探してまして」

「ほほう、学生さんじゃろ?」

「まあ、入学試験すらまだ受けてないですけど」

「っほっほっほ、ここに若い子が来るのは何時振りかねえ」


 なんだか身の上話、というか昔話を喋り始めた。

 つまるところ、俺みたいな若い客が久しぶりに来たもんで嬉しいとか。

 ただ穏やかな口調、印象は優しいおばあちゃんといったところ。


「じゃあ王立魔法学園に?」

「とりあえず受かる気ではいます」

「はぁ、凄いねえ」

 

 こちらの事情も伝えつつ、いわゆる世間話も。

 こういう人だったら普通に、気楽に話すことが出来る。

 ただ今から行こうとするのは若さの集団、年寄りなんていないのだ。


「じゃあとりあえず1年間の契約で」

「はいはい、分かったよ」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ。困ったことがあったら何でも言ってくださいな」


 ニコニコ顔のおばあちゃん、ヘンリーさんは快く部屋を貸してくれるそう。

 身分証も見せようとしたが、全然正体とかを気にしてない。

 そういうのは危ない、心良いから詐欺に騙されないといいが。

 とりあえず今日からはここが新たな拠点、新たなスタート地点。

 

(風呂は共同、飯は当然だけど自炊、買い出しは大通りでと)


 色々と教えて貰った後は契約金を支払い、いよいよ部屋へ。

 急な階段を上がって最上の3階へと、1つの階層に部屋は3つあるそう。

 ただ3階にだけは偶々(たまたま)住人はいない。

 つまりは3階に住まうのは俺だけに、本当にツイている。


「301、ここだな」

 

 鍵穴に渡された鍵を挿入、ガチャリと音を立て開帳。

 そこには年季は入っているもののキレイに清掃された、木造りの部屋があった。

 年月の経過が生み出す絶妙なコントラスト。

 窓は通りに向いて1つ、面積はそんなに、ただ1人で暮らすには十分だ。

 

「予想してたけど何にも無いな。ベットやら机やら買ってこないと……」


 キッチンは小さいが各部屋に1つずつ。

 魔力を通せば炎がつくコンロ、旧式だが使える範疇には。

 食料の保存に関してもかなり古い魔道具が、俺が手入れすれば使えるようになるだろう。

 

(なんだか感慨深いな)

 

 ここで暮らすという実感がフツフツと湧き出す。

 色んなことに気を配りだす。

 何もかも自分でやってきた人生、同じだと言うのに、何かが違う。

 言葉では上手く言い表せないが、心が良くも悪くもざわついている。


「ただ一番はまず試験、これで落ちたら笑い話にもならないぞ」


 送り出された、部屋を借りた、俺はここに来た。

 試験まであと数日、残された時間を有意義に使わなければ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタジア文庫より新刊が出ます!
画像をクリックすると特設サイトに飛びます
<2020年12月19日発売>
大罪烙印1
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ