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第45話「受付」

「それじゃあリーダーは……」

「なんで俺の方を見る? しかもスガヌマとウィリアムまで」

「満場一致でクレスに決まりだな」

「まあいいけどさ……」


 王都の冒険者ギルト本部————

 他に類を見ない程の施設規模を持ったギルド最大の拠点だ。

 右も左も冒険者らしい格好をした者たちが常に行きかう。

 その中でも俺たちはかなり若い方。

 若干浮いている感も否めない。


「とりあえず今回は簡単な仕事だけだ。ランク制限もあるし」

「クレスはCランクだっけか?」

「一応な」


 冒険者はSSからFまででランク分けされる。

 スミスとウィリアムは今日登録するから勿論Fでスタート。

 スガヌマは騎士たちを伴って何度か郊外に出たことがあるそう。

 それでも両手で数えられる回数、ランクもFのままだ。

 ダンジョンや討伐の依頼は山ほどあるが、今日は採取や調査にすべきだろう。

 良さそうな依頼を幾つか見繕っておいた。


「後は依頼受理か。じゃあ並ぼうか」

「随分混んでるね……」

「まあ時間帯的がちょうどピークだし、仕方ない」


 依頼を受けるためには一度受付に行かなくてはいけない。

 そこで諸々の手続きを行い契約成立だ。

 そして目の前には長蛇、とは言わずともそれなりに長い列が出来ている。

 午前中の内はどうしても混むのだ。 

 

「クレス、俺は可愛い受付嬢さんの所がいい」

「ほんと欲に忠実だなお前」


 スミスの発言にスガヌマがツッコミを入れてくれる。

 確かに人気の受付嬢はいるよ。

 だが王都最大の場所だけあって総じてレベルは高いと思う。

 その中のトップとなれば相当だ。

 まあ今は受付カウンターに姿が見られない————


「あれ、クレス君じゃない」


 さあ列に並ぼうと思った矢先のこと。

 俺たち、いや俺に声を掛けてくる人がいる。

 

「あ、ミカエラさ————」

「ううーん! 相変わらず可愛い!」

「……すぐ抱き着かないでください」


 はあ……

 見ろ、この視線の多さを。

 やはり一番人気の受付嬢であるミカエラさんの登場、皆目が行くよな。

 そんな彼女に抱き着かれる俺、普通だったら夜道で襲われても仕方ない。

 だがある意味俺の女っぽい容姿が功を奏す。

 なんでも女の子同士が抱き合っているようで、あんまり嫌悪感は抱かないとか。

 いやそれでも抱き着かないで欲しいんだが————


「……補充完了っと。けっこう久し振りじゃない?」

「そうですね。最近は忙しかったので」

「クレス君が来ないから皆ピリピリしてたわ」

「ピリピリですか?」

「癒しがなければストレスは解消できないもの」

「は、はあ……」


 ミカエラさん、ショートめの金髪も化粧もバッチリ決まっている。

 まさに来たばかりといった装い。

 聞いてみるとやはり丁度いま出勤してきたとか。

 そのために他の受付嬢よりリードして偶々(たまたま)ながら俺に接触出来たらしい。

 まったく、俺は愛玩犬じゃないぞ。

 

「今回は……1人じゃなさそうね」

「はい。今日は————」

「僕はスミスです! スミス・ケルビン!」

「コイツは————」

「美しいお姉さん! 是非僕とお付き合いしてください!」

「ありがとう。だけど君はまだ若すぎるかな」


 ナンパにも慣れたものだろう。

 流石に(かわ)すのが上手い。

 まあスミスのその行動力は認めるよ。

 落ち込むな。

 ある意味フラれるのはもう慣れただろう?


「今日は連れもいるんで簡単な依頼にしようかなと」

「なるほどね。もう何を受けるか決まってるの?」

「はい」


 握っていた依頼用紙を手渡す。

 内容を確認するようだ。

 真剣な表情での審査、だがミカエラさんはすぐに笑みを浮かべる。


「問題は、ないわね」

「なら良かったです」 

「……じゃあ裏に行くついでにコッソリ先に受理してあげる」

「それは凄くありがたいんですけど、耳元で言うの止めてください」

「もう、クレス君つれない」

「いつも通りです」


 どうやら順番を待たずに先に作業をしてくれるそう。

 ギルド職員がそれでいいのかと思うが、断る理由も無いしお願いする。

 皆のギルドカードを回収、ミカエラさんに手渡す。


「なあウィリアムとコウキ。あのお姉さん、若い男(ガキ)には興味ないって言わなかったか?」

「スミス、この世には方便(ほうべん)という言葉があってだね……」

「顔の差だよな。あとクレスは性格もなんだかんだ良いし」

「……まるで俺の性格がダメみたいな言い方だな」

「「だってダメだもん」」


 スミスたちもいつも通り。

 この調子なら外に出ても普通に動けるだろう。

 今日までそれなりにキツイ練習もしてきたし。


「あとこのパーティーの代表は誰かしら?」

「そりゃクレスですよ」

「クレス君ね。じゃあ手続きもあるし一緒に来てちょうだい」

「えっと、俺たちは……」

「今回必要なのは代表1人のサインだけだから。君たちは少し待っていてね」

「代表、つまりリーダーだけ……」

「残念だったねスミス」

「クレスにリーダーを押し付けなければ良かったのにな」

「なんでアイツばかりが……! 神よ……!」


 そんなにリーダー役やりたいならどうぞ譲ろう。

 だが俺の腕もガッチリホールドされているし、逃げることは叶わない。

 異能もグダグダ文句を言っているので早めに解放されたいところだ。


「ふふふ」

「何か可笑しいですか?」

「クレス君にこんな面白いお友達がいたんだなって」

「まあ……」

「どうしても1人のイメージがあったから。お姉さん安心」


 腕を引かれつつ思考が働く。

 脳裏には(よぎ)るのは『友達』という言葉。

 どうなんだろうか。

 任務のために彼らを友達と公言してはいる。

 それでも心の底からそう思っているのだろうか。

 俺は、未だに分からない————


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