第40話「準備」
スガヌマからケンザキの必殺技の話を聞いてから数日が経過。
あれから自分でも調査を行った。
その結果、確かに今日は魔法騎士団長であるアルバートさんは不在。
警備体制も強化されているが、本気で忍べば十分潜入を行えると判断出来た。
「いよいよか……」
条件が揃ったならば行くしかあるまい。
つまりは王城への潜入である。
「まず目的の確認————」
学校も終わり日がようやく沈み始めた頃、今は自室に1人。
改めて目的を反芻する。
まず1つ。それは勇者たちの監視調査である。
能力、正確、趣味、彼らの全てを調べ上げるつもりで臨む。
「前から可笑しいと思っていた点もあるからな」
まずは言語という概念について。
彼らは異世界人だ。だというにこの世界の言葉を普通に書けるし喋ることが出来る。
スガヌマに聞いても明確な答えは返ってこなかった。
もしかしたら秘密裏に何かを行って修得したのかも、なら痕跡があるはず。
余裕があれば王城という建物自体も調べなくてはいけないだろう。
「まさか禁術を使って言語を習得したなんてことは無いと思うが……」
食事についても同様。
勇者たちは何も抵抗なくこの世界の料理を食べている。
何故誰も抵抗感を抱かないのか、いやはや不思議である。
それともこれが文化の違い、いや世界の違いなのか。
「……神がご都合主義を推しているとか? もしくは勇者補正ってのが実在するとか?」
何にせよ疑問は幾つも抱いている。
学園では解決できなかったものも、王城に行けば少しは手がかりが掴めるかもしれない。
「第1の目的は勇者。第2は禁書庫での資料探しだな」
王城内には大図書館という場所がある。
その中にはレベルの高い魔導書や要人の個人データを仕舞う所が存在。
そこが禁書庫だ。
俺が欲しい資料の具体例を挙げれば、勇者召喚にまつわる書物。それからアルバートさんの素性など。
異能の助力があったとはいえ実際に勇者召喚を実現させたんだ。
国宝級とも言うべき召喚の手引き書があるはず。
奪取は出来ない。ただ内容を複写することが出来れば、今後ハーレンスに対する脅しにも、そして貴重情報として他国に売ることも出来る。
「どう扱うかは決まってないけど、把握はしておきたい————」
やりたいことは幾つもあるが、今回は手堅くいく。
前述の通り2つの目的を軸としてこの任務にあたる。
バレれば最後、もうこの国には居られないだろう。
「そのためには潜入方法が重要になっていくわけだけど……」
どういう変装をして、どういう立場をとって王城に向かうか。
1つの案としては騎士の格好をして堂々と動き回るというもの。
騎士に扮すれば隠れる必要はない。ただし俺は彼らの行動パターンを完全に把握していないし、合言葉の類も分からない。
しかも厄介なことに、騎士を装うためには鎧を奪う必要がある。
つまりは騎士の1人を襲わなくてはいけないのだ。
「殺しても生かしても痕はつく。ただでさえ城内はピリついてるって話だし」
誰かが姿を消せば次の日にはバレる。
俺の正体は明るみにならないだろうが、それでも謎は残ってしまうのだ。
今後の活動のためにも、あまり刺激はしたくない。
「となると、今回は完全なる隠密だな」
全力で気配を消し、一切人目につくことなくやり遂げる。
仮面、服、手袋、靴、見た目に関するあらゆるものを一新。
クレス・アリシアじゃない。
9番目の災厄、『絶氷』として立ち振る舞う。
振舞うと言っても、誰かに見つかるつもりはまったく無いが。
「道具の確認もしとかないとな」
ⅢさんやⅦ さんが造った魔道具、全てが高性能だが上手く使えなくては意味が無い。
それなりの数を持ってきているが、迅速に動く以上持って行く魔道具は選ぶ。
そもそも大抵の道具は氷で創れるのだ。
「警備も調べた限りじゃいけそうだけど、実際やってみなくちゃ分からない」
魔族の襲撃があってから騎士の見回りが増えた。
王族と勇者がいる王城なんて特にだろう。
ただ肝心の親玉、アルバートさんがいないんじゃダメだな。
やってみなければ分からないと言っといてなんだが、自分としてはそこらの騎士に遅れを取るつもりはまったくないのだ。
「外もいい感じに暗くなってきたか」
床に並べた装備一式。久し振りに見た気がする。
なんだか感慨深い気持ちになるな。
ここ最近は制服だけしか着ていなかったから?
よく分からない。ただ————
「……気合は入るね」
ハーレンス王国、今回は魔族じゃなくて災厄が赴く。
失敗は許されない。
大丈夫。失敗するつもりは更々無いよ。