第38話「根底」
「ついに!」
「来たぜ!」
「放課後が!」
「なんなんだよその掛け合い……」
「「「自主練だ!」」」
「って聞いてないね……」
昼に脅しを掛けた時は不安そうな面持ちをしていた。
しかし放課後までの数時間で気分一新。
力が漲って仕方ないといったかんじだ。
「にしても立派な会場を借りれたな」
4人で使うには広すぎる場所。
ちなみに正確な名称は実技演習場である。
観覧席もついており、ケイネルはそこで勉強しながらこの鍛錬を観察するらしい。
また端の方には複数の騎士も確認できる。
魔族襲撃があったばかり、勇者たるスガヌマの護衛が手厚くなるのは当然だ。
「予選まで2ヵ月もない。やるからにはしっかりやろう」
「「「ああ!」」」
この学園は王立だけあって敷地面積は相当、自主練をする場所も沢山ある。
だが予選前だったら普通は予約が必要だと思う。
(まあ管理キーを渡してくれた事務員の人の表情で大体察するけど)
この面子には勇者と侯爵家の人間がいるのだ。
学園は平等を謳ってはいるものの、やはり贔屓はあるのだろう。
もしくは事務員が勝手に臆したか。
(とりあえず鍛錬に移るか————)
初夏に予選、その1ヵ月後に帝国で本選だ。
昼からずっと今何をやるべきかを考えた。
俺じゃない。勿論スミスたちのことである。
「やっぱ格闘術からだよな!」
「いやいや魔法だよ」
「もうどっちもやろうぜ!」
選抜戦には色々制約はあるものの、魔法と格闘のスキルは必須。
この2つを大前提とし、それから頭や適応能力が求められることになるだろう。
極論になってしまうが圧倒的な殲滅力があれば、敵が仕掛けてくる大抵の作戦は潰せるのだ。
しかしそんな事は王立のSクラスに所属する生徒、百も承知なはず。
だから魔法か体術、どちらを伸ばそうかでずっと盛り上がる。
「それでクレス、何をするよ?」
「まずは『魔力』の練習だな」
「了解。初めは、って魔力?」
「ああ。魔力の練習をする」
スミスたちの頭上にはクエスチョンマーク、しっかり説明しよう。
まず『魔力保有量』という言葉がある。
人によって魔力の量はマチマチだが、殆どの人間には限界が存在するということ。
そしてそんな制約の中で、どれだけ効率的に魔法を使うことが出来るかが実戦では重要になる。
ずっと走り続けられる人はいない。
でも長く長く走れる人だっている。それはペース配分が上手く出来ているからこそ。
「まず魔力ってのは纏うんだ。体内で蓄えておくものじゃない」
「纏う?」
「1回見せる。よく見てて」
言葉より直に見せた方が早い。
心臓に集中、血液を全身に強く行き渡らせるイメージ。
青銀の魔力を肌に薄く纏わせる。
「うおぉ……」
「なんかキラキラしてんな」
ここの生徒、いや教師や騎士も含めてだ。
皆魔力を体内に仕舞いっぱなし。
魔法を使う度にわざわざ奥から取り出している。
それは非効率的なことだ。
冒険者が腰に剣をさしたまま森を進むだろうか? モンスターが出てきたらそのたびに剣を抜く?
否、武器は常に手に握り込んでいるはず。
魔力も一緒、何時でも放てるよう寸前で構えておくべき。
「この状態でいれば一層早く魔法が使える」
「それは魔力を消費しないのかい?」
「纏ってるだけだからな」
「つまりは奥にあった魔力を表に出しただけだと」
「そういうことだ」
ウィリアムは理解が早くて助かる。
スミスとスガヌマはちょっと怪しい。
それも魔法ばかりを重視した教育のせいだ。
高い階梯の魔法を求めてばかり。
魔力の操作は基礎中の基礎、なんなら年単位で取り組むべき事だ。
「まあスミスとスガヌマは頭で理解するタイプじゃないしな。身体で覚えればいいだろ」
「お、おう。それと名前で呼んでくれていいぜクレス?」
「うーん、なんとなくだけど『スガヌマ』って呼ぶのがシックリくるんだよなあ。あ、別に嫌ってるとかそういうわけじゃないぞ」
「まあ俺もどっちでもいいけどさ。なら好きなように呼んでくれ」
閑話休題。
鍛錬の目標は中級魔法を無詠唱で使えるようになること。
ぶっちゃけ体術については俺が教えるまでもない。
スガヌマやウィリアムには騎士が身近にいるだろうし、スミスにも学園がある。
わざわざ殺法を教えるのもあれだろう。
現状を鑑みて、俺が周りと差をつけて伝授できるのは『魔法』だ。
まずはそのための下地を作る。
(スガヌマに至っては異能もあるからな)
把握している限りでは『高速化』という異能なはず。
だが実際どうなのかはこれから確かめる。
今は大したことないという評価。
でもこれから化けることだって有り得るのだ。
お三方、楽でいられるのも今だけだぞ。
「さあ、楽しい放課後の始まりだ————」





