第36話「迷子」
「私は一体何処にいるんだ————?」
災厄の数字のアジトを飛び出して数十日が経つ。
通信魔道具は居場所を探知されそうで置いてきた。
また交通手段についても馬車は使わず、あえて自力でユグレー大陸を目指した。
今に至るまでずっと走って来たのである。
それもこれもボスから発見されるのを防ぐため。今のところ完璧である。
「だけど右も左も分からないっていう状況……」
地図は道中で落とした。そもそもあったところで読み方分からないし。
方位磁石を見てひたすら同じ方角に向かって歩くだけ。後は殆ど『勘』だ。
ただ数日前にユグレー大陸の1国、センテール教国の武装教徒たちと遭遇した。
彼らはおそらく国境の警備をあずかっていたのだろう。
まあ当然の如く強行突破をした。国境は越えたので、一応ユグレー大陸には着いたということになる。
強行突破と言ったが大丈夫、残像が出るくらい速く走ったから正体がバレることはないはずだ。
「でも現在地が分からないのがキツイなあ」
現在地はとある森の中。
空は真っ暗、魔法で炎を起こし暖を取る。
とある森と表現するだけあって、正確な場所が把握できていない状況だ。
つまりは迷子。
これからどう進路を設定すればいいか見当もつかない。
「はあ、お腹もすいたし……」
今までだったら獣を狩ってくれば後はクレスが調理をしてくれた。
自分で言うのもあれだが私の料理レべルは相当低い。
その点クレスは本当に優秀で良い奴だ。料理以外にも朝起こしてくれたり、話が面白かったり、鍛錬にも付き合ってくれる。
任務中の生活面では面倒を見られっぱなしだった、それが離れてようやく分かる。
「ったく、3年も会えないなんて冗談が過ぎるっつーの」
クレスのことは生涯無二の相棒だと思っている。
なんて言えばいいか、私の性格とアイツの性格がバチッとはまった的な?
とにかく一緒にいるのが凄く楽しい。
だから向こうが会えないと言うならコッチから行くまでのこと。
「今回のために婆さんに特殊ポーションも造ってもらったし」
私の髪や瞳は赤色だ。
武器や恰好はともかく、その見た目をしていれば『5番目の数字』と疑われるのは当たり前。
バカだアホだと言われる私でもそれぐらい理解できる。
だから一時的に髪を『銀色』にする染髪ポーションを持って来た。
この赤髪は魔力の影響があってこそ。
永久に銀髪は無理だが、1本使えば1ヵ月は保てるだろう。しかも複数持ってきている。
Ⅶを脅し、じゃなくてお願いして造ってもらった超特別製、信用は出来ると思う。
「周りに疑われても遠い親戚だということで誤魔化せる。完璧な作戦だ」
ただクレスとて任務中、一緒に外で暴れることは出来ない。
せいぜい親戚のお姉さんとして居候してやるつもり。
たまには休暇もいいだろう。
ボスに後で怒られるかもしれないが、まあその時はその時だ。
(本来だったら移動中でもポーションを使うべきなんだろうが————)
髪色が違うだけでも印象はだいぶ変わる。
『Ⅴ』と疑われることは少なくなるだろう。
ただ会ってからは少しでも長く一緒にいたい。
人目を一層気にしなくてはいけないが、今は節約の時だ。
「む————」
ピリつく空気。
周囲に魔獣の気配を察知する。
闘気を消していたのが裏目に出たか。
おそらく狼型の魔獣、数は20いないくらい。
「丁度いい。夕飯にするか」
私の得意料理は『丸焼き』である。
本来だったら毛皮を剥いだ方がいいんだが、強めに焼けば毛も燃えて無くなるだろう。
適当に香辛料を振れば十分食べれる。
「本当はクレスの手料理がいいんだけど」
今のところ魔獣の丸焼きと木の実しか食していない。
そろそろ手の凝った料理にありつきたいところ。
普通に飲食店というのもアリ。まあ村や町の1つでも見つかればの話だが。
「とりあえずその命、貰い受けようか————」
剣を持つこともない。立つことも無い。
座ったまま瞬間で起こす大爆発。
身体から真っ赤な魔力が迸る。
半径20タールの範囲、大自然もこの力で平伏せさせる。
魔獣だけじゃない、本当の意味で全てを丸焼きだ。
これでも太陽を殺した女なんて呼ばれているんだぞ。
燃える森が闇夜を照らす。火の粉が風に舞って何処かへ向かう。
勘頼りの道のりだが心配ない。私とお前は絶対に切れない糸で繋がっている。
「クレス、会うのが楽しみだ————!」





