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第32話「舞踏3」

『Ⅴ』=『5』

「クラリス!」

「シルフィーナ様、そんなに慌てなくても私は逃げませんよ」

「知っているわ。でも早くお話したかったんだもの」


 開始早々に駆け足で姫様が到来。

 クラリスさん曰く姫様との仲はとても良いそう。

 なんだか姉と妹のようにも見える。

 

「何時もみたいに愛称で呼んでくれていいのに」

「ここは公の場ですから。仕方ないです」

「むー……」


 白百合の姫(ホワイト・プリンセス)、名をシルフィーナ・ハーレンスだ。

 今の国王の長女にあたり、年齢は14歳。来年には魔法学園へと来ることになるだろう。

 彼女について注目すべき点はやはり異能を所持しているということ。

 異能について分かっているのは召喚に特化した能力ということだけ。

 勇者召喚を可能にしたのだ。幻獣種や高位精霊も使役できる可能性もある。

 早く彼女の『底』を見極めたい。


「それで、あなたがあの(・・)クレス様ですよね?」

「は、はい」


 クラリスさんに接触したかと思いきやすぐ俺の方に切り替わる。

 好奇心旺盛な姿勢というか、想像より動きが激しいというか。

 なんだか元気な人だ。

 お高くとまっているよりコッチのスタイルの方が人気が出るんだろうか。


「改めまして、シルフィーナ・ハーレンスと申します」

「クレス・アリシアです。お目にかかれて光栄です」


 定型にぶつける定型の言葉。

 しかし作法は流石、美しい姿勢でよく仕込まれていると感じさせる。

 最後に1つ笑みを添えるあたりも上手いな。

 大抵の男はそれで落とされそうだ。

 しかも姫様は自然とそれをやっているわけで、つい傾いてしまいそうになる気持ちも理解できる。


「ふむ、ふむふむ、ふむ」

「あ、あの……」

「大丈夫ですよクレス君。身体検査みたいなものです」

「し、身体検査?」

「はい。シルフィーナ様は身体を触ることで相手の本質? まあ何かが分かるんです」

「な、なるほど」


 俺の身体を突然ペタペタ触り始めたもんだから驚いた。

 隣にいるクラリスさんが補足をしてくれる。

 しかし本質が分かる? 説明しているクラリスさんも良く分からないって口振りだ。

 ただ魔法を発動している気配は無いし、異能が作用しての検査なのだろう。もしくは単純に感覚で調べているのか。

 なんにしても召喚系の異能にサーチ能力があるとは聞いたことがない。


「……」

「シルフィーナ様、クレス君はどうですか?」

「……見えない」

「見えない?」


 大分会場の空気も騒がしくなってきた。

 そんな中で弾き出されたコンパクトな言葉、それでもしっかり俺とクラリスさんには響く。

 姫様のさっきまでのハイテンションは何処にいったのか、やけに真剣な面持ちだ。


「精霊、いや幻獣? であれば何かしら声が聞こえるはずですし……」

「あの……」

「クレス様、何か加護の(まじな)いをしていますか?」

「してないですけど……」

「魔法はともかく、(まじな)いの類でもないと」


 ブツブツ呟くだけになった。

 その一連の様相は真剣そのもの、研究をしている学者みたい。

 一体彼女には何が見えたのか。

 

(まあ大体察しは付くけど)


 姫様の異能は詳しくは分からないが、本質とはその人に憑く加護の類を見抜くことだと仮定。

 ケンザキの力は見破ることが出来た。アイツに力を貸す神は中級程度、おそらく姫様の限界はその中級あたりなんだろう。

 それより上はきっと見ることは叶わない。

 閲覧禁止、立ち入っていいのはそこまでだ。

 この身に宿した彼女に触れることは出来ない。出来ないというかは気付けないんだろう。


「私がまったく見えないとなると精霊王、いや高位の神という可能性も————」

「あの……」

「面白いです!」

「はい?」

「面白いですよクレス様! 貴方は良く分からないです!」


 初対面で良く分からない人と言われるとは。

 ただ俺の手を握りブンブン上下に揺らしつつも笑顔で言う言葉。

 友好的である、少なくともそう考えていいだろうか?


「私が何も見えないだなんて初めてです」

「そうなんですか」

「ええ。本当は異能でも持っているんじゃないですか?」

「まさか、無いですよ」

「ははは、そうですよね。なんだか沢山触ってしまいごめんなさい」

「大丈夫です。初めはビックリしましたけど」


 冗談で言ったんだろうその質問。

 焦らない。こういうシチュエーションも想定済み。

 頭の中に仕舞っておいた表情と台詞を表に出す。

 

「シルフィーナ。またクラリス嬢に迷惑を掛けていたのか」

「あ、お父様」

「お久しぶりですシグムンド様」

 

 ここまで勢い任せで進んだ流れ。

 姫を追いかける形で王様が遂に登場。

 ハーレンスの現国王、シグムンド・ハーレンスだ。

 結構歳はとっているはずだが容姿は意外と若々しい。

 ただその1つ1つの台詞には威厳を感じられる。


「君がクレス・アリシアだな」

「お初にお目にかかります」

「そんなに固くならなくていい。団長(アルバート)やカルロから色々聞いているぞ」

「色々ですか……」


 シグムンド王のすぐ傍には色々喋ったとされるアルバートさんが護衛としている。

 一番強い人が一番偉い人を守る、当然の図式

 俺の方を見て無駄にニコニコしているのがまた怖い。

 変なことは言っていないと信じてるんだが。

 ちなみに勇者たちには騎士が数人、何時もより護衛は少ない。

 舞踏会だけあって会話や躍ることもある、普段みたいに騎士が囲むことは出来ないようだ。


「学園での活躍も聞いている。それからあの一件もだ」


 あの一件とは大賢者のことだろう。

 まあ結果的に見れば勇者を守ったことになる。


「君のような優秀な魔法使いが居ること、私は誇りに思うよ」

「も、勿体ないお言葉です……」

「知っての通り帝国や教国とは協定がある。だが最近では魔王の動きがかなり盛んでな、勇者を失っては大変なことになっていた」


 勇者召喚はこの国だけで行ったわけではない。

 儀式に使う魔石やら道具やらは他国の協力があってこそ。

 もし勇者を失うなうことになったら、ハーレンスには重いものが乗っかっただろう。

 しかし意外とお喋りな王様。

 威厳は端端から感じ取れるが、かなり饒舌である。


「しかも最近では災厄の数字(ナンバーズ)の動きも怪しくてな」

「……というと?」


 まさかこの場で仲間の話を聞くことになるとは。

 そんな目立つような仕事をやるとは聞いていない。

 それでもボロが出た。もしかして誰かやらかしたのか?

 魔王や勇者の話ばかりだったのもあって興味が湧いた、湧いたんだが———— 

 

「なんでもここユグレー大陸に、『Ⅴ』の太陽殺しフレイム・デストロイヤーが向かっているという話が……」

「ふ、太陽殺しフレイム・デストロイヤー!?」

「驚くのも無理はない。なにせ太陽神を屠った女、ただ確証は————」


(アウラさんがこの大陸に向かっている、だと……?)


 表情には出さない。でも王の言葉は鼓膜からシャットアウト。

 それぐらい嫌な予感を抱いてしまう。

 アウラさんは完全に戦闘担当、本来であれば彼女は紛争地域や魔界の方に赴くはずなのだ。

 比較的平和なこのユグレー大陸で任務が与えられることはほぼない。


(それでも来る理由があるとしたら、完全に私用……)


 ただ王曰くアウラさんだという明確な証拠は得てないらしい。

 あくまで赤髪の女、炎を纏った大剣使いが大陸の境界付近にいたと。

 でももし、もしもあの人がこの国に向かっているとしたら————

 

「王、その辺りで止めておいた方がよろしいかと」

「おっと、そうだな。無駄に心配をさせてしまった」

「いえ……」

「だが騎士団も一層鍛錬に力を入れている。有事の際は力を発揮してくれるはずだ」


 いやいや、アウラさん来たら国滅ぶから。

 鍛錬では埋まらぬ差、歩くだけで森を砂漠に変えるような人だぞ。

 本当に分かっているのか?

 だがそんなことを面と向かって言えるはずもない。

 結局は適当なことしか返せなかった。


「君の今後に期待している。精進したまえ」

「はい。期待に応えられるよう修練に励みます」

「うむ」


 クラリスさんも交え最後に一言二言。

 それで国王との邂逅は終わりを告げる。


「クレス様、クラリスとの後は私と踊ってくださいません?」

「僕は構わないですけど……」

「なら決まりですね。もっとお話しもしたいので、それでは後ほど」


 一礼して姫様も去っていく。

 驚くべき情報、王族との邂逅以上に驚かされた。

 そして同時に何かがつっかえたような感覚。

 アウラさんが俺の所に特攻してくる、そんなことになれば俺の任務は終わったも同然だ。

 でも基本好き勝手に動く人、やりかねない。

 世界中で指名手配されているんだ。友人ですなんて言い訳は通じない。


「なんだか顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」

「結構緊張してたので……」

「無理はしないでくださいね」

「大丈夫です。それじゃあ回りましょうか」

「はい!」


 不確かな話をずっと引きずっているわけにもいかない。

 せめてクラリスさんと躍るまではモチベーションを下げるわけにはいかないのだ。

 気を引き締めて他の貴族との顔合わせに赴く。

 ただ割り切ろうとしてもやはり引っかかる。

 チラつく業火、心の末端には真っ赤な炎が終始灯っていた。

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