第2.5話「過去」
災厄の数字の9番目。
『Ⅸ』の名をクレス・アリシア。
性別は男、年齢は15である。
出身はヘルシン大陸の名も無き辺境の村。
両親と妹1人の4人家族構成であった。
彼の人生において、大きな転換期は3つ。
1つは『異能』を授かったこと。
魔法適性が元々高いこともあったが、異能が作用することで、こと氷魔法においては人智を越えた才を見出す。
ただ辺境の村だけあって、その才能に周りは多少凄いと思う程度。
国家や魔法師がその存在を把握するまでには至らなかった。
2つ目、これが彼の人生を過酷なものへと変えることに。
それは村が滅んだことである。
原因不明、ただ嵐のように忽然とナニカが来た。
気付いた時には村も、人も、家族も消し飛んでいた。
そこには抉り取られた跡だけが残ることに。
ただコッソリと、密かに日課としていた魔法の鍛錬のため、森へと入っていたクレスが助かったのは僥倖だろう。
そのために、彼だけが生き残ることが出来た。
ここからは孤独の道である。
その時の年齢は11、すぐに自立できたわけではない。
ただ幾ら待っても助けは来なかった。
そして感傷に浸る暇などないと悟った、生きるために必死になった。
死のうと思った時もある。
だが、どうしても家族の姿が脳裏に焼き付いてそれを阻んだ。
クレスは冒険者になった、いや、盗賊にも暗殺者にも。
魔物の討伐、窃盗、要人の暗殺に至るまで。
同時に生きる可能性を高めるため、ひたすらに魔法を、特に成長が顕著な氷属性の魔法を極めていった。
その凄まじさから身元の判明は無かったものの、最強の氷魔法使い『絶氷』とまで世間から呼ばれるまでに。
あらゆるモノは彼の前では氷のオブジェへと姿を変えるのだ。
そしていつしか、クレスの心も凍った。
そして3つ目の転換期。
これは14になった頃、とある出会いがあった。
それは獣人、精霊、エルフ、魔族、同じ種族である人間も含め世界から恐れられる『災厄の数字』という者たちとの邂逅だった。
クレスは初めて自分と対等、あるいは自分以上に強い存在を認知した。
そこからは紆余曲折あり、結局は『Ⅸ』として組織に加入することになる。
初めは凍った心故に突き放すことが多かった。
だが周りはそんなことを気にしない、変人の中の変人ばかり。
鋭い眼光にも遠慮なし、それぞれが偽りない自分で接した。
淡々とした態度も段々と柔らかいものに。
特に『Ⅴ』のアウラ・サンスクリットの影響は大きい。
リーダー格である『Ⅰ』が意図的にクレスと彼女を共に行動させたのだ。
アウラは熱さに生きる人間、その信念は真っすぐの具現化、忌憚ない行動がクレスに明るさを与えることに。
年齢も5つ離れるだけあって、傍から見れば姉と弟のようにも、もしくは恋人に見えたかもしれない。
そして遂に、クレスには4つ目の転換期が訪れようとしている。
舞台は大国ハーレンスの魔法学園。
役者は絶氷、そして勇者とそれを取り巻く者たち。
次のページへと手をかける。
そこはまだ白紙、ここから新たな物語が紡がれていくのだ。