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第26話「称賛」

「————を讃えこれを(しょう)します」


 学園のみならず王国でも大きな問題となった王立魔法学園の林間合宿。

 なにせ勇者が謎の人物から襲撃を受け、また守っていたはずの騎士たちがあっけなく倒されてしまったから。

 幸い死者や大きな傷を負った者もいないで済んだが、明るみなった謎の存在に王国は揺れていた。


(そして何故か俺は表彰されていると……)


 首都ハーレンスに帰ってきてから数日。

 平常通り授業が始まったと思ったら俺だけ学園長室に呼び出しをくらう。

 その理由は学園長曰く功績を讃えるものらしい。

 チラリと視線を動かせば魔法騎士団長や偉そうな服を来た人が何人かいる。

 

「君の頑張りは本当に素晴らしかった」

「いえ……」

「まさか1人で戦って襲撃者を追い返すとは。学園長としても鼻が高い」

「ま、まあ……」


 あの時先に逃がしたスガヌマたちが状況をすぐさま教師たちに報告。

 内容をザックリ言うと、クレスが皆を守るために1人で戦っているとかどうとか。

 だいぶ良いように誇張して報告してくれたようだ。

 当然の話だが帰還した後、教師たちは学園長や王族たちに今回の件を話す。

 すると俺の株が急上昇、こうして表彰されるまでに至る。


「私からもいいだろうか?」

「……アルバート・シグリフォン、さん」

「私のことを知っているのか。これは光栄だな」

「そりゃ有名ですもん……」


 むしろ知らないなんて言ったら怪しまれる。

 悪目立ちしないように此処での常識や習慣はある程度把握しているのだ。

 学園長による話が終わって次に。

 今度は魔法騎士団長のお話である。


「まずはお礼から。勇者方や部下を救ってくれてありがとう」

「いえ」

「そして申し訳なかった。本来は私たち騎士が守らねばいけない立場にあるというのに」


 感謝と謝罪を続けて投じる。

 騎士団長の言うことはもっともだ。

 騎士というのは一般大衆の憧れであると同時に高給取りでもある。

 体面という意味でも、仕事という意味でも。

 彼らは一般人を命を懸けて守らなくてはいけない。

 だからこそまさか守るべき子供に守られる、失態以外の何でもないだろう。


(まさか上から目線でこの人を責めるようなことはしないけど)


 自分からしてみたら幾らでも文句は言える。叱咤が出来る。

 でもここは謙虚に行く。イエスで答えてさっさと終わらるのが一番だ。

 猫を被っていると言われようがコッチだって仕事。

 内心はともかく、外面は明るい表情で固めて話を聞き流す。


「話は少し変わるが、クレス君は今度舞踏会に来るんだったな?」

「はい。クラリスさ、クラリス様に誘われたので」

「王族の方々が君と是非話をしてみたいと仰っていた。ぶっつけでは緊張するだろうし、そういう事があったと一応伝えておくぞ」

「へ、へえ。そうなんですか……」


(つまりは王様や姫様なんかと間近で話すことになると。めんどくさいなぁ……)


 俺は今貴族たちの間でよく話題に上がるそう。

 学園の実技入試のこと、クラリスさんの相手を舞踏会で務めること、そして今回の襲撃を防いだこと。

 今さっき話題の人物だよなんて言われた時は流石に冷や汗をかいた。

 もちろん現在も若干かいている。

 そりゃ監視で来ているはずなのにそんな注目されてはかなわない。

 この名前が王国で段々と響いてきている。


(舞踏会は大人しくしてよう。これ以上目立つのはコリゴリだ)


 別に災厄の数字(ナンバーズ)の9番目としての情報は一切世間に回っていない。

 話題に上がった所で俺が『Ⅸ』だと気付かれることはまずないだろう。

 だが動きにくくなるのは事実。

 王子はともかく姫様の歳は確か俺の1つ下、同世代ということで彼女が一番多く接触してくる可能性もある。会話の話題に予想をつけあらかじめ返答を用意しておくべきか。

 まさか王族に気に入られるなんてことは無いと思うが————


「あ、そうだ。クレス君は騎士に興味はあるかな?」

「騎士ですか……」

「ああ。君の魔法の技量は聞き及んでいる。もしよかったら騎士団の方に遊びにでも来てくれ」

「か、考えておきます」


 それようは遠まわしに騎士にならないか的な?

 絶対になりません。

 だが面と向かってそう言うわけにもいかない。

 取り合えず笑顔で返しておく。

 真面目で謙虚で愛想が良い生徒を演じるのだ。

 疑いがつけ入る隙は何処(どこ)にもないだろう。


(ふふふ、まさか俺が数字(ナンバーズ)の1人だなんて夢にも思うまい)


 目立てば動きにくくなるが、同時に信頼という盾もまた手に入る。

 表彰されるのも悪いことばかりじゃない。

 若干の謝礼金も頂いたことだし。

 今日の夕飯は少し豪華に出来そうだ。


(たま)には外食もアリ……」

「外食?」

「あ! な、なんでもないです!」


 つい思ったことを口走ってしまった。

 こういうドジ踏むところがダメなんだ。

 アホ、じゃなくてちょっと頭が狂っているアウラさんからも天然ってバカにされるし。

 異能も何時までたっても掌握しきれない。他属性を使うと彼女に干渉される日なんてのもある始末。

 ボスにも人間性を鍛えてこいと言われ送り出された。


(自分に課題もあるんだ。色々頑張るぞ————)

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