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第25話「賢者2」

「————炎の精霊!」

「————造形(クリエイト)


 交差する氷と炎の技と技。

 交戦に入って十数分、俺たちは未だお互いの探り合いをしていた。

 いかんせん稀に見る精霊魔法、式が解読できなければ信頼度の高い予想を立てることが出来ない。

 俺はあえて受け身に回っているともいえる。


(ローラン)さんが面倒になった理由も分かるな————)


 ここまでで見たことのない攻撃を何度か受ける。

 勿論全ていなしてはいるが、厄介なことは間違いない。

 しかもローランさんはこの大賢者を含めた正体不明(アンノウン)5人と相対した。

 それで無傷で帰れたんだから、流石と言わざるを得ない。


「武器造形、長槍」


 やはり賢者と名乗るだけあって接近をそう容易に許してはくれない。

 ならば武器変更、剣を捨てて槍で挑む。

 もっとスピードの早い形態へ移行する。

 多少の傷は負ってもいい、まずは間合いへと入りこむことが重要だ。


「想像以上だ! 精霊たちも喜んでいる!」

「……」


 長槍片手に駆けるこの走法。

 迫りくる魔法を矛先で絡めとる。

 散った精霊の亡骸が儚く散ることに。

 精霊魔法の連撃、自然が荒らされる中で俺の歩く道だけは(たいら)を貫く。

 

(俺だって氷を乱発して外から攻めたいんだけどな……)


 好き好んで突っ込んでいるわけじゃない。

 向こうの精霊魔法に対抗できるだけの力は十分あるとも。

 氷で一気に森ごと凍らせることだって可能だ。

 だがここまでで分かったことが1つ。

 それは精霊魔法には限界が無い(・・・・・)ということである。


(保有量が決まっている魔力と違って精霊は無限にいる。よって放てる魔法の数も無限と……)


 奴が使う炎や風、それはこの時代のものと大差はない。

 だが向こうの魔法の源は自然界に住まう精霊たちから。

 同じことをやってもこっちだけガス欠になってしまう。

 俺は確かに莫大な魔力を有してはいるが、有限であることには変わりないのだ。

 

(まあ向こうにも何かしらの制約はあるはずなんだが————)


 どちらにせよ大技は見せていない。

 まさか精霊王なんてものを召喚されでもしたらどうなるか。

 可能性はゼロじゃない、奴の技量ならあり得る話だ。

 異能を所持しているということも視野にいれる。

 だからこそ()えて一気に畳みかけるのもアリ、しかしリスクもまた大きい。

 俺はどう選択しどう行動すべきかをずっと悩んでいた。


「さあさあ! 炎よ! 風よ! 水よ!」


 思考の最中でも攻撃は止まらない。

 燃料が切れない魔力砲台、力の解放が躊躇われる今の状況を(かんが)みるに、コレと魔法で張り合うのは面倒でしかないのだ。

 ならば魔力で身体を強化、物理攻撃で仕留めた方が手っ取り早い。

 早いんだが————


「なかなか良い魔法使うじゃんか……!」


 正直言おう、強いよコイツ。

 強化された身体と氷槍で精霊たちを弾きながら思う。

 お互いまだ本気でないとはいえ、最上級の魔族に匹敵するぐらいの実力は持っている。

 体力的にも魔力的にも苦しいというわけではない。

 それでも人の身でありながら此処まで到達しているとは。

 素晴らしいと思うよ。


「僕の声に応えろ大地の精霊たち!」


 鈍く輝く大地、そして揺れる、そして隆起する。

 土塊が合わさる、合わさってそのまま形を成していく。

 俺の人形(ゴーレム)と同じ、そこには巨大な土製人形が誕生した。

 しかしそのデカさ、全長10タール以上はある。

 

「押し潰せ!」


 瞬間で誕生した巨体から繰り出される鉄拳ならぬ土拳。

 上から下へ、マトモに受けるわけにはいかない。

 そもそも人形(ゴーレム)の類には核、人間でいう心臓が必ずある。

 そこを見極め、そして穿てば————


「どんな巨体であろうと一撃で破壊できる」


 投げる一槍、閃光となって(くう)に至る。

 その核に一発、外すことなく確実に仕留めることに成功。

 

「凄い凄い。でもまだまだ精霊はいるからねぇ」


 土人形を倒したと思ったら新たな人形が出現。

 今度は1体じゃない。

 2、3、4、5、どんどん増えていく。

 大賢者までの道のりは土人形(ゴーレム)によって埋め尽くされる。

 そうしている間にも、向こうは埋まった距離感を少しずつ離していくし。

 幾らやっても振り出しに戻る。

 これじゃあ埒が明かな————


『ねえクレス、そろそろ私の出番じゃない?』

 

 突如鼓膜に響く女の声。

 その音色の美しさは悪魔的。淫魔(サキュバス)でもコレには勝てない。

 気を許せば何だって言うことを聞いてしまいそうなほど妖艶な声なのだ。


「……まだ出てくるなって」

『自称賢者からは認知されてないわ』 

「……そういう問題じゃない」


 彼女の存在はこの三次元上には投影されていない。

 今は肉体を実体化させていないため、俺だけがその存在を認知できる。

 構図的には後ろから抱きしめられているといった感じ。

 なんとなくだが背中がヒンヤリとし始める。


「なあ銀髪の魔法使いよ」

「ん?」

「君は今何をしようとしている?」

「何って……」


 そりゃ目の前にいるゴーレムたちをどう突破しようか考えている。

 思えばゴーレムたちは俺が立ち止まっているというのに攻撃を一切してこない。

 まさか騎士道精神でも持っているのか?

 

「精霊たちが、(おび)えている」

「怯えている?」

「今までに類を見ないほどにね。土精霊も臆して動けない」

「……」

「何をしたんだい?」


 なんと土人形(ゴーレム)が動いていなのはその核である精霊がビビっているからだそう。

 別に俺は何もしていない。

 ただ心当たりは1つある。


『ふふふ。精霊は私の存在を少しだけ感じ取っているのよ』

「……」

異能(わたし)を使いなさい。一撃で片が付くわ』

「……向こうにも隠し玉があるかもしれない」

『関係ない。私たちの前では全てが凍るもの』


 悪魔の誘い、甘い誘い、圧倒的な力への誘い。

 彼女はよっぽど自信があるらしい。

 曰く大賢者の本気は自分たちには及ばないと。

 確かに周りに盗み見をしている者も見つからない。

 それにもし居たとしても結局全て(・・)を凍らせれば済む話なんじゃないか?


『久しぶりにやりましょう』

「アレをか?」

『大丈夫、クレスには私がいる。孤独にはならないわ』

「……」

『それにダメならダメで数字(なかま)の所に戻ればいいんじゃない』

「戻る……」

『ええ』


 それじゃあ任務の放棄になってしまう。

 だが元々乗り気じゃなかった。そういう結末でもいいんじゃないだろうか。

 これが甘い過ぎる誘いだと理解している。

 彼女は己が力を振るいたいだけだ。

 だけど、この現状を打破できる最もな術でもある。


「悪いな、大賢者」

「な、なんだい?」

「終局だ」


 自分は冷静でない、むしろ冷たくなりすぎて思考が固まってしまったような感覚。

 見えない門、心の扉に手を掛ける。

 クスクス笑う彼女の声、それは現世へ出られることへの歓喜か、はたまた戦いに陶酔しているだけか。

 大賢者も不穏な空気を感じ身構える。

 だが無駄だ。どちらにせよこの戦いは————


顕現けんげんし————」

「ちょっと待ったああああああああああああああああああああ!」


 動き始めた異能の歯車。

 それを急停止する存在が現れる。

 なんと大賢者(サトシ・アクツ)のすぐ横から1人の人間が突如現れたのである。

 恰好は殆ど変わりない。

 背丈は低いがおそらく男、だが顔は分からない。つまりは正体不明。

 男は少し高い声で待ったの声を上げる。


「なんで君が此処に……!」

「先輩が遅いから呼びに来たんすよ」

「だからって……」

「今の止めなかったらヤバかったっすよ? なんか危ない感じビンビンしません?」


 俺の異能にまでは勘づいていない。

 ただ刹那で俺がやろうとしたことの危険性を察知。

 コイツも、強い。


「何者だ?」

「俺はこの人の仲間っす!」

「仲間……」


 つまりは突如現れた少年、コイツも正体不明(アンノウン)の1人だということか。

 年齢的には俺より下だと思う。

 声的にも、その口ぶりでも。

 しかし頭はだいぶ切れてそうだ。


「さあさあ、帰るっすよ」

「今からが本番なんだ!」

「いやそんなこと言われても、アッチでもやることがあるっす」

「分からない奴だな! 僕は————」

「はあ、返還(リスタート)

「っお前……!」

「めんどいんで強制的に返還しまーす」


 内輪揉めも長くは続かない。

 大賢者の身体が歪んだと思ったら一瞬でその姿を消してしまったのだ。

 後から来た新たな正体不明(アンノウン)の仕業だろう。

 転移魔法? いや次元転換か?

 分からない。ただ普通の力ではないだろう。


「すいませんっす。先輩が失礼しました」

「……あんたたちは一体何がしたいんだ?」

「何? うーん、どう答えたらいいものか……」


 聞いたところで答えてはくれない。

 そりゃそうだ。

 しかし少年の姿勢を見るに考えてはくれている様子。

 ここは切り口を変えてみる。

 

「じゃあ違う質問。アンタは何者だ?」

「俺っすか? 俺はダンジョンマスターってやつです」

「ダンジョン、マスター?」

「うっす」


 言葉の意味は知っているとも。

 ダンジョンとは世界各地にある謎の場所。

 最奥には宝があるとされ冒険者なんかはよく挑みに行く。

 しかし途中には魔獣や罠などが行く手を阻むことから、魔族や邪神の類が創りだし、そして管理しているという説が一般的に信じられている。

 だがこの幼い少年、それが何処(どこ)かのダンジョンの管理人を務めている?

 そんなバカな話があるだろうか。


「最近は中々経営難が続いてまして、いやはや参ったもんです」

「経営難って……」

「あ、じゃあここらで」

「待て! まだ聞きたいことが————」

「またいつか会えますよ! さようならっす氷の魔法使いさん!」


 あどけない声で別れの挨拶。

 するとやはり一瞬で姿は消えてしまう。

 まるで夢や幻だったみたいに思えるほど瞬く間に。


『あーあ、結局私の出番なしか。せっかくあと少しでクレスも落ちそうだったのに……』

「落ちそうって、やっぱりお前悪い奴だな」

『いやいや、私はもっと神聖な————』

「はい。もう帰ってよし」

『あ、まだ話の途中で————』


 強制的に意識を断ち切る。

 にしても危なかった、あのままダンジョンマスターとやらの割り込みがなかったら普通に異能を使うことになっていた。

 彼女の言葉はやはり危険だ。

 催眠魔法より質が悪い、天性の魔性だ。


「結局俺も全然戦えなかったな……」


 大賢者とは手合わせ程度、お互いに半端な力しか使わなかった。

 異能(かのじょ)は楽勝だなんて言ってたけど、果たしてどうだか。

 後から来たダンジョンマスターを名乗る少年も気になるところ。

 ただ結果的に全力は出さないで場をやり過ごせた。

 客観的に見れば良い結末だったと思う。


「収穫もあったことだし」


 何人いるか分からない正体不明(アンノウン)

 その内の2人を大まかだが知ることが出来た。

 貴重な情報、帰ったらすぐ報告書にまとめなければなるまい。


「さてと、俺も帰るか」


 今頃拠点では大騒ぎだろう。

 助けを出したかもしれないが、精霊に惑わされ此処に来ることは叶わないだろうし。

 早めに帰った方が後後楽な展開になる。


「どうせ事情聴取されるだろうからな……」


 言い訳は十分考えている。

 そして言っていい範囲、隠す範囲も練ってある。

 ただまず帰っての一声はスミスたちに。

 断りもなく気絶させたことを謝ろうかね————

 

クレスの友人、ケイネスの名前を変更します。


『ケイネス』→『ケイネル』


違和感を感じるかもしれません。皆様にご迷惑をおかけします。

どうかよろしくお願い致します。

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