第22.5話「観察」
「————ユウト! 1人で前に出過ぎるな!」
「————分かってる!」
光輝く剣を片手に1人が先行、それに続く少年がまた1人。
後方では少女2人による魔法援護が行われている。
4人がかりの大胆陣形、まるで魔王と対峙するかのような仰々しさ。
ただし、現実での相手はまさかのゴブリン2体。
同胞たちは下位の魔獣にそれなりの苦戦を強いられていた。
(うーん、渋い戦いだなあ……)
僕は遠くから今回の勇者たちの活躍を見ていた。
ただその内容はいかんともし難い。
まずリーダー格であろうピカピカ光る少年、おそらく光に属する神の加護を受けている。
精霊たちの様子をみてもタダの魔法というわけでもないし。
つまりは異能、簡単に名付けるなら『光神の加護』といったところか。
「だけど思ったほど強化されてないんだよね。中級クラスの神なのかな?」
神にもランクがある。いわゆるカースト制。
主神級をトップに上級、中級、下級と。意外と神様ってのも沢山いるんだ。
ピカピカ少年に加護を与えた光の神はたぶん中級ぐらい、そこそこの知名度な神だろう。
だからあんな微妙な強化しか出来ていない。
勿論まだまだ使いこなしていない事も起因するんだろうけど。
「あと3人も伸びしろはありそう……?」
もう1人の男は取り合えず速い。
異能が作用してのスピードだろう。
派手な技は今のところ分からないが、センスはそれなりに。
実戦ならピカピカ君より今は役立ちそうだ。
女の子たちも動きはギコチナイが及第点はつけられる。
召喚されて間もないと言うし、まだまだ謎な部分が多い現状だ。
(手を組むに値するかどうか、難しいところだ)
1000年ぶりに戻ってきた。
眠っていたのは事情があって。
いかんせんあの決戦で深い傷を負い、自分は殆ど死んでいたとも言える。
復活のためにはこれだけの時間が掛かってしまったのだ。
しかし僕たちを召喚した国は何百年か前に滅んだそう。
それに目的を達成してから眠りについた。もう大賢者としての役を担う義理も無い。
「今度は僕自身の願いを叶える番だ————」
目が覚めたら1000年後でしたなんてテンプレ設定を現実に起こす。
賢者の魔力なら余裕? いやいやそういう訳でも。
大分苦心したさ。そもそもこの時代の人が使う魔法と僕の魔法は少々異なるようだし。
「ただこれなら本当に無双し、ってあの人もいたか……」
脳裏には未だあの男の残像が。
少し前に遭遇した気怠そうな人間、ああいう強者も現代にはいる。
魔王のレベルだってどれだけ変ったか把握しきれていない。
そう考えるとやはり同じ転移者として、勇者たる彼らを手中には収めたい。
今の祖国のことも聞いてみたいし。
しかし真の実力を見極めずして勧誘も————
「おや、どうしたんだい?」
観察の最中、氷の精霊たちが駆け足で寄ってくる。
傍から見ればただ青く光る玉、しかしそれぞれにちゃんと意思がある。
喜びもするし悲しみもする。
そんな中でも氷に属する精霊たち、彼らは僕のところにとある連絡を。
「ふむふむ。素晴らしい氷魔法を使う人間がいると……」
精霊曰く少し離れた所に氷魔法の使い手がいる。
それがなんとも美しそうで。
僕の従僕たる精霊たちも嬉々として教えてくれる。
ただの魔法でありながらそこまで精霊たちの心を動かす存在。
「まさか他にも勇者がいましたってことは————」
見落としていた?
いや、事前に勇者は4人だけだと話は聞いている。
となるとただ優秀な生徒ということだろうか。
取り合えず確認だけしてみよう。
精霊たちが示す方へこの精霊眼を。
木々や草木が邪魔をしようとも、この眼は全てを見通せる。
(ええーっと……)
精霊たちがソレダソレダと示す人物を発見。
それはとても美しい少女だった。
流れるは若干青みがかった銀髪、女の子にしてはちょっと短い気もするけど。
ちなみに瞳もシルバー、まさに氷の体現者と言わんばかり。
美少女といっても差し支えない容姿だ。
しかしそれでいて鋭さも、なるほど、精霊たちが好みそ————
「っ!」
自分としても興味が湧いた。
だが観察はここで強制的に打ち切られることに。
なんと少女と目が合ったのである。
僕の視線に気付いた。
偶然じゃない、その瞳は確かに捉えているものだった。
「嘘だろ。この精霊眼に気付くってのかい……」
末恐ろしい、あれが勇者と同い年?
つまりは15歳前後ってこと。
あれは間違いなく天才だ。
あのまま見続けていればコッチの存在が見破られていた。
肝が冷える、額から一筋の汗、つい驚きの声を上げてしまうほど。
「もう勇者たちより彼女を仲間にした方が良さそうな気がする……」
僕のこの驚きように精霊たちはゲラゲラ笑っている。
いや普通にビックリした。
心臓が飛び出るかと思ったよ。
一見で理解、あの年でかなりの域に達している。
「だけどこんな場所にいたんじゃ腐るなぁ」
惜しい、出来るものなら自分が指南したい。
一瞬だけしか見ていないから実力は分からない、ただ所詮は学生。
原石であることは変わりないが、どうせ周りからは少し優秀と褒めたたえられるくらいだろう。
銀髪の少女は本物の戦いってのを知らないはずだ。
実戦というものを沢山経験させれば良い魔法使いになれると思う。
(上から目線だけどこれでも大賢者だからね)
まさかあの歳で冒険者ってこともあるまい。
氷魔法に適性を持つレアな魔法使い。
非常に手に入れたいところ。
「勇者たちに仕掛けるついで、銀髪ちゃんの方にもアタックしてみるかな」
元々は勇者だけのつもりだったけど、良い人材を見つけた。
最初は丁寧に誘うが、まあ断られたら力づくで。
まさか僕に匹敵する技量は無いだろう。
(いよいよだ)
彼らは果たしてどんな反応をしてくれるだろうか。
同じ国の出身、まさか同族がこの世界にいるとは聞いていまい。
精霊を引き連れこの身を赴かせる所存。
明日、僕は彼らを襲う。





