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第20話「復活」

 林間合宿での班が決まってから数日。

 座学も実技授業も、そして色々な準備をすれば当日まではあっという間。

 既に俺たちは合宿の目的地へと移動の最中であった。

 生徒200人に加え教師を乗せるために馬車の数は相当、そこに勇者を護衛する魔法騎士の団体も相まって長蛇の列を為すことに。

 6人用や8人用のバスがある中、狭いながらも4人用に当たったのは僥倖だろう。


「ケツが痛てぇ……」

「みんな一緒だよ。我慢しろって」

「女の子が道中にいればどんなに楽しいか……」

「僕たちは男だけの班だからね」

「いっそクレスが女装し————」

「また氷漬けにされたいか?」

「冗談! 冗談だって!」


 外を覗けば自然が広がる。

 前後ろには馬車があるが穏やかな環境であることは間違いなし。

 ただこんな場所でもスミスの欲だけはブレることがなかった。

 挙句俺に女装を薦めるまでに、禁断症状に近いんじゃないか?


(どんだけ欲求不満なんだよ……。俺なんか眠くて眠くて……)

 

 日が昇り始めた、つまりは早朝に王都から出発。

 遅刻は絶対にしないと意識しすぎたせいで殆ど眠れなかった。

 ただ半日かかると予想された目的地までの道のり、順調すぎて昼過ぎには着くとか。

 しかし昼寝は取れない、なにせ監視という任務があるからだ。


(問題は魔法騎士の護衛が多すぎるってことなんだよな)


 勇者一行は最後尾に。

 多数の騎士がガッチリ守りを固めている。

 それは向こうに着いてからも一緒、おそらく張り付いたまま大抵の物事が進んでいく。

 

(まあ訓練中ぐらいは離れるだろうけど)


 そもそも勇者が学園に通う意味、第一は世界に慣れることだそう。

 仕入れた情報では勇者たちは剣も魔法も無い平和な場所から来たとか。

 魔獣の類、ゴブリンやオークも見たことが無いし、そもそも殺し合いをした経験も無い。

 そんな連中が魔王に勝つことなんてまず無理である。


(だから学園に通う3年間でこの世界の知識や戦う術を身に着ける、だったか?)


 これらの文句は公に公開されているものだ。

 確かに今回で魔獣を殺すということも経験出来るだろうし、もう少し先では国善大会で同年代の強者とも戦うことが出来る。

 色々と経験にはなるのだろう。


(俺が国王だったら学園なんかに通わせず、冒険者にでもして現場にひたすら突っ込ませるけどな)


 ただ決まったものにケチをつけても仕方ない。

 この合宿では班ごとに提示されたお題をクリアせよというもの。

 それぞれで動くので監視の目は届きにくくなる、それでも自分にとっての最善を。

 今ある現状を受け入れ行動をしていくだけだ。


「ねえクレス君、一昨日やった魔法学についてちょっと質問したいんだけど……」

「いいよ」

「面白そうだ。僕も混ぜてくれ」


 どうせ暇だ、ケイネルの提案を受け入れ魔法学の勉強会に。

 そこにはウィリアムも乗っかってくる。

 話の中心は少し前授業でやった魔法強度という分野について。


「お前らこんな所まで来てよくそんな話出来るよな……」

「そう? 普通に楽しいけど」

「ああ。クレスの話は教師よりもタメになる」

「いっそこれからはクレス君に授業して欲しいくらいだよ」

「言いすぎだって、大したことない」


 別に謙遜しているわけじゃない。

 自分にとっての普通を言葉にしているだけ。

 そんな教師になってくれと頼まれるような事じゃない。

 それに災厄の数字(ナンバーズ)が魔法を教えるとか、コッチからしたら複雑な心境すぎる。


(最近はやけにそんな話を皆からされるからな……)


 今いる面子だけじゃない。

 近頃はクラスの皆が俺に教わりたいと。

 監視で手一杯、そもそもなんで俺が同い年を育てなきゃいけないのか。

 面倒ごとは御免被る精神なんで。


(なにせ今回はボーンさんからも忠告貰ってるし)


 魔王や魔獣の動き、そして正体不明(アンノウン)

 今はこうして喋っているだけでいられる。

 ただそれも何時崩れるかは分からない。

 例えそれは魔法騎士が配備され、日が出ている内での移動中でも。

 魔法学を口から語ってはいるが、自分の五感は常に周囲を警戒しているのだった。















「————へえ、あれが今の(・・)勇者なんだ」


 現在はハーレンスなる国が治める土地にこの両脚は立つ。

 眼下に臨むは幾つもの赤い灯。

 時間は夜、距離が距離だけあって豆電球のようにも感じられる。

 

「男が2人、女の子が2人と」


 遠距離、時間は夜、普通だったら絶対に誰が誰と判別できない。

 ただ自分には全てが見えている。彼らが同胞だと断定出来る。

 両眼に展開した精霊陣(・・・)がそれを可能にさせるのだ。


「今は夕飯の最中と、なんだか呑気だねえ」


 どうせ向こうからじゃ分からない、被ったフードを脱ぐ。

 視界が少しだけ黒に染まる、伸びた黒髪が垂れてきたのだ。 

 服装を軽くしても隠蔽の精霊魔法は解除しない。

 気配の遮断もいつも通り行う。

 この状態の自分、当時の魔王ですら気付けるのは極一部だけのはずだったが————


「あの男は何者だったんだろうな……」


 仲間? まあ同志たちと打ち合わせの最中に1人の男に遭遇。

 戦わずして分かるぐらいの強さを持っていた、相当な手練れである。

 あまりの底知れぬ強さに、始めは転生者か転移者だと思ったが、様子を見るにおそらくこの世界の住人なのだろう。


(結局は戦う前に逃げられたけど、いや帰宅か?)


 こちらが複数いたこともある。

 それが原因なのかどうなのか、相対した者は数手交わしただけで去って行ってしまった。

 最後の台詞(せりふ)と言えば『怠い。帰るわ』とだけ。

 しかしあれだけの強さ、むしろ本腰を入れられたら自分たちもタダでは済まなかったと思う。

 

「あんな人もいるんだけど……」


 勇者については少しガッカリ。

 いかんせん上述した男の存在が大きすぎた。

 こうして仕掛け役として来て理解する。

 彼らの異能や魔法は垣間見ていないが、それでも風格という点で大きく劣ると。


「もう少し様子を見たら仕掛ける(・・・・)、と」


 なにせ少し前に目覚めたばかり、やっと順応しだしたこの身体。

 ガミガミ言ってくる奴もいないし、ゆっくり観察した上で1つ腕試しを。

 護衛目的で居るのであろう騎士たちも相手取るつもり。


「1000年ぶりの現世、果たして人はどれだけの進化をしたのかな————」

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