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第17話「偶然」

 学園生活にもようやく慣れ始めたこの頃。

 といっても週末の今日、学園は休み。

 皆それぞれ好きなことをやっているだろう。


(俺は休日まで監視の仕事しなくちゃいけないけど……)


 太陽がちょうど真上に来て昼の賑わいを一層盛り上げる。

 俺は家でダラダラしたいと思いつつも、人でごった返す王都の中心街にいた。

 ある程度距離を開けつつ監視を。

 勿論(もちろん)相手は勇者一行である。


「休日ぐらい王城で大人しくしてろよな……」


 勇者たちは貴族ブロック、城に住居を置いている。

 そこでは学園とは別に勉学や鍛錬に励んでいる、らしい。

 仕入れる情報の多くがスミスから、もしくは盗み聞ぎ。

 直接把握したわけじゃないから、絶対とは言えないだろう。


(しかもあれ魔法騎士団長だろ?)

  

 さっきも言ったが街まで出てきたのは監視のためである。

 勇者が何処かに行くならそれについて行く。

 何時何が起こるか分からない。

 魔法騎士団長、名前はアルバートだったか、彼は勇者たちを引き連れて何処かへと向かっている最中だ。


「にしてもホント勇者ってのは人気者なんだなあ」


 勇者が歩けば民衆は歓声を上げる。

 それに手を振って応えるもんだから一層の盛り上がり。

 まあ俺としては向こうが目立てば目立つだけ隠密も楽になる。

 第一に見つけやすいし、殺気の放たない俺は一般人と同じ、索敵される可能性はだいぶ低くなるだろう、

 

「しっかし何処に向かってるんだ?」


 気配消しは普通に使える、ただ他の数字に言わせればまだまだらしいけど。

 とりあえずそこら辺の輩には通じる練度だ。

 しかも一見したところ魔法騎士団長、意外と強いんじゃないか?

 いや、遠目から見た限りだから確証は無いけど。

 この国に来て一番強いオーラというか、直感でなんとなくそう感じる。


(まあそれでも負ける気はしないけど)


 騎士と言うだけあって剣を結構使えるんだろう。

 これでも俺だってアウラさんにメチャクチャ鍛えられた身、剣術に極みは見出している。

 ただ剣聖が相手になるとどうだか。

 ボス曰く先代の剣聖は自分たちに至りはしないが、相当な強さだったそう。

 そこらの魔王よりも手こずったそうで————

 

「っきゃ!」

「あっ……!」


 物思いにふけっていたら身体に衝撃。

 言わずもがな、俺の不注意で誰かとぶつかったのである。


「す、すいません。大丈夫ですか?」

「……美少、年?」

「あ、あのー」

「は、はい! 聞こえてます!」


 潜伏でこんな初歩的なミスするんだ、そりゃあの人たちから未熟と呼ばれても仕方なし。

 戦場ではこんな失敗はしなかったのに、ホントこっちに来てから(たる)でいる。

 ぶつかった相手は何故かテンパっているようだが怪我はなさそう。

 黒を基調にしたスーツ? を着てる、お堅そうなやつだ。


(冒険者ギルドのエンブレム……)


 彼女に胸元には『自由』や『力』を表す獅子の紋印が。

 冒険者って出立ちでもないし、おそらく受付嬢というやつ。

 茶髪のセミロング。

 世間的に言えば美人と呼ばれる部類。

 ハーレンスは顔面偏差値が高いなと最近は思っている。

 

「僕の不注意でした。申し訳ないです」

「い、いえいえ! 私もぼーっとしてたので!」

「そうですか」

「あ、あの……」

「はい?」

「この後って予定会ったりとかって、あの、少しお茶でも、いや、ナンパってことではなく————」

 

 何故この状況でナンパ? やはり勝手にテンパっている女性。

 さっきハーレンスは美人が多いと言ったが、それと同じくらい言動不審な人も多い。

 あまり対人関係が上手くないこんな俺が言うのもアレだが、やはりどこか変なのだ。

 俺が相対する者の目をみれば必ずと言っていいほど向こうは目を逸らす、特に女の人は。

 一体どんなことを考えているんだか、まあ良いもんじゃないだろうけど。 

 取り合えず任務もあるし、対象からこれ以上距離を空けるわけにもいかない。


「ごめんなさい、この後は用事があるんで」

「あ、そうですか……」

「それじゃあここで」


 謝りすぎも良くないが最後に軽く頭を下げて。

 なんだか怪しげな目つきをしていたし、さっさと立ち去る。

 

(それにしても冒険者か、久し振りにやってみたいな)


 報酬やそれに伴う内容はさして気にしない。

 流石に薬草集めとかは嫌だけど。

 それでもこの弛んだ自己の空気感、どこかで一発立て直したい。

 ただ立ち止まってばかりも、監視続行。 

 静かに、されど迅速に動く。

 活気ある出店の出立ち、溢れる人の波を流水の如く進んでいく。


(ってまじかよ)


 大丈夫、対象はハッキリクッキリ捉えているとも。

 ただ騎士団長に連れられて勇者たちはとある建物へ。

 冒険者のためにしては立派すぎる造り、正面にはさっき見たばかりの紋章が刻印される。

 つまるところハーレンスの冒険者ギルド本部である。


「さてどうするか……」

 

 中に入る? ただいくら広い構造をしているとはいえ屋内は屋内。

 しかも万が一極みに至った魔法使いがいたとするならば。

 ただ様子を覗いたいのも本心、どう判断す————


「あら! クレスじゃないの!」

「……っへ?」


 建物の影からコッソリ状態、ただそんな監視体制をバッサリ斬り落とす者が突然現れる。

 手を振りながら此方へと近づいて来る存在が。


「久しぶりねえ。相も変わらずカ・ワ・イ・イ!」

「……」

「やあねえ。私のこと忘れちゃったの?」

 

 目前には金髪の美女、纏うはメイドの恰好、そんな容姿を被った『男』が眼前に。

 

(なんでこんな所で会うんだよ……)


 てっきりアウラさんはもしかしたら、そう思っていた自分もいたがハズレもハズレ。

 予想はひっくり返る。

 よりもよってこの人だなんて。

 何故か虫唾が走る甘いボイス、そりゃ中はゴッツイおっさんだもの仕方ない。

 

「まさかハーレンスで出会うとは思ってなかったわ。もしかして運命————」

「違います」

「即断拒否!? 痺れるうううううううううううううううううううううううううううう!」

「……」


 おいおい、滅茶苦茶目立ってるぞ。

 これまでの苦労が台無し、相対した一瞬で崩れた現状。

 そんな俺の気持ちは露知らず、彼は独り身をよじらせ荒息を立てている、目も軽く白目だし、不審者と呼ぶにふさわしい言動だ。

 ただ彼は変態であるが、同時に『Ⅷ』を冠むる最強の魔法使いの1人である。

 災厄の数字(ナンバーズ)の8人目、名をボーン・ボンボーン。

 『究極生命体(オカマゲノム)』と世間から恐れられ、同じ性癖持つ者からは神と崇拝される女装おっさんであった。

 

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