第13話「初日3」
「ってまさか初日から実技授業とは」
「まあ予想はしてなかったな」
初日はてっきり説明だけだと思っていた。
ただ本気で戦えという類ではない。
今後の授業を進行していく上で、担任が自分の眼で俺たち全員の実力を軽くでも見ておきたいと。
言い換えるのなら、お披露目会である。
(実技用の服だけが届かないと思ってたけど、こういうことだったんだな)
合格に際し、制服なり教科書はすぐに届いた。
しかし魔法訓練の実技服だけは手元に来ず。
それは今日実技をするから、だからこそ今さっき配ることに至ったと。
(だが俺としても良い機会、こんなにも早く勇者たちの力を見れるなんて)
身体のなりからして、勇者たちは実戦でそう強くない、むしろ弱い部類に。
俺からすれば素人と呼べる。
ただ戦闘技術は鍛えればどうにでも。
問題は異能と魔法の質と練度、これが一級品であれば大抵の差はひっくり返る。
(まあ異能まで見せてくれるかは分からないけど)
実技授業も受け持つ担任デニーロ曰く、相手は授業用のゴーレム。
それなりの魔法が使えれば十分に倒せる。
そんな相手にわざわざ異能を使うとも考えにくい。
今回拝見できそうなのは彼らの魔法くらいだろう。
「そんじゃあ適当に2人組を作れー」
場所は移動し幾つかる魔法演習場のうちの1つへと。
今からやることの説明は教室で済ませてきた。
相手はゴーレム、挑むのは2人で、目的はゴーレムさんを倒すこと唯一つ。
タッグを組む理由は時間短縮、それから魔法の強みが支援系という人もいるから。
最前列で戦うことは出来なくとも、どれくらいの支援が出来るかを見るためらしい。
「お手柔らかに頼むぜクレス」
「普通にやるけど?」
「お前の前評判を聞くと、俺たちにとっての普通とは次元が違うんだよ」
俺はスミスと組むことに。
仲が良いのコイツくらいだし。
にしても次元が違う? そりゃそこらの魔法使いとは潜ってきた修羅場の数が違うから仕方なし。
ただ俺よりも強い人もいる。
例えば少し前まで一緒に任務にあたっていたあの先輩とか。
(アウラさん、元気にしてるかな……)
俺が拠点から旅立つとき、アウラさんは最後の最後まで拗ねていた。
というかこの任務自体にも反対してた。
曰くクレスは私とずっと仕事をすべき、なにせ楽しいから。
そう言って貰えた時、俺は正直嬉しかった。
普段はハチャメチャな人だけど、俺をちゃんと見てくれているんだなと。
(あり得ないだろうけど仕事を投げ出して、突然会いに来るなんてこともあったりして)
用も無しに会うのは厳禁、任務に支障をきたしかねない。
ただデタラメな人ばかりの組織。
自分の任務をまさか途中で投げ出すことはないと思うが、何時何が起きてもおかしくない。
俺以外の殆どの数字は顔が割れているし、その辺も気を配らなくては。
「————い、おい、聞いてんのかクレス」
「ん、どうした?」
「1組目始まるぞ。勇者たちだ」
気付けば開始を寸前に。
スミスが声を掛けてくれなかったら危なかった。
(まずはユウト・ケンザキとマイ・ハルカゼのペアだな)
外見から考察、マイ・ハルカゼは同年代の女と大差なし。
特に鍛えている点も見当たらないし強い気も感じない。
強いて言うなら————
「ハルカゼさん、結構オッパイあるよな」
「魔力保有量がって、はい?」
「いや良いオッパイだなと」
「……そうか」
強いて言うならオッパイがでかい、いやそういうことじゃない。
遠目で見ても身体から魔力が溢れている。
それはもう1人の女勇者、リンカ・ワドウも同様、むしろ彼女の方が魔力はあるといったかんじ。
魔法のセンスなり強度は備えていそう。
勇者としての恩恵か、はたまた異能が作用してか。
(それに比べて男2人はと言うと、魔力は少なくも無いが突出して多くもない)
魔法においては女性陣の方が上。
ただ男だけあって身体の鍛え方は幾分マシ、まあ実戦なんか知らないような貧弱な気を纏っているが。
はたしてどれだけ出来るか、もしくは戦の才を秘めているのか。
(災厄の数字の9番目たる俺がしっかり見てやる————)
「んじゃ1組目、模擬戦開始だ」
観客席から視線を下に、それなりに広いフィールドに人間2人とゴーレム1体。
ゴーレムはさっきも言ったが授業用。
数字の先輩である黄金の錬金術師が使うような代物とはまったく別物。
動きは鈍そう、素材はおそらく鉄製、マナタイトやミスリルは一切使われていないよう。
玩具、そう言っても過言じゃないレベルだ。
「俺が前に立つから春風さんは下がっていてくれ」
「い、いや私も————」
「任せて欲しい! 俺の方があいつよりも凄いって証明するから!」
(……あいつ?)
ライバルでもいるのだろうか。
同じく異世界人であるコウキ・スガヌマのこと?
おそらく立場や出身地的に対抗心があるんだろう。
まさか初日の今日、クラスの他の誰かに執念を燃やすはずもなし。
ただそういう心情は自分を向上させもするし、同時に視野も狭くする。
ユウト・ケンザキ、果たしてどう立ち振るま————
「光の神よ! この身に加護を与え給え!」
(一発目から異能!?)
男が謳う、すると天上より突如として光が降り注ぐ。
まさしく勇者に相応しい眩さ。
ユウト・ケンザキは力を得る。
光が剣の形を形成、それを握る、身体にも半透明な鎧が出来たようにも。
見たまんま、光の剣士である。
期待していたものをまさか見せてくれるとは。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」
雄たけびを上げながら突進。
ケンザキは1人でゴーレムへと向かっていく。
マイ・ハルカゼを戦いに参加させる気は無さそう。
この時間の主旨を理解しているかは兎も角、考察した上でまず感じたことが1つ。
(なんだあの異能は……)
無我夢中で、まるで剣を握ったばかりの少年のような酷い剣筋については一旦置いておく。
まずは景気よくみせてくれたその異能について。
果たしてどんな化物能力かと俺は楽しみにしていた。
その実態を知るために此処まで来たんだし。
(よ、弱すぎないか?)
ユウト・ケンザキは光の加護とやらを得て飛び回る。
剣を力一杯振って、そして光の衝撃波を生む。
戦闘前に比べればスピードやパワーは上昇している。
だがしかし、見た目だけ煌びやかで中身はスッカラカン。
いや、異能だけあって確かに効果はある、あるけども。
「流石は異能持ち、やっぱケンザキは強いよ。クレスもそう思うだろ?」
「え」
「そもそも光属性をあそこまで使えるなんて、元々適性があんのかね」
「そ、そうだなー……」
(ケンザキは強い!? あそこまで光属性を使える!? 元々適性がある!?)
スミスの眼は節穴かと疑う、がしかし周りの反応も同様のもの。
「やっぱケンザキ様もカッコいいよね!」
「うんうん! 王道ってかんじ!」
「あの異能、選抜戦で当たったら攻略は至難だな……」
「そりゃ勇者だぜ? 負けんのも仕方ない」
(み、みんな称賛を送ってる……?)
いや、普通に外れな異能だと俺は感じるんだが。
ただ個人的意見は保留、まずは客観視する。
ゴーレムにはそこそこ光剣はヒット、ダメージを与えている。
速さはそれなりに、同年代の冒険者と比較すれば少し上ぐらいには。
ただまったくもって異能の本質が見えない。
異能名は『光の加護』的なもの、だって本人がそう言ってたし。
(物理強化? 魔法強化? もっと特別な何かがあるんじゃないのか?)
異能ってのは基本派手だし凶悪だ。
嵐を起こしたり、遠距離から敵の脳みそ爆破させたり、重力を操ったり、異常に強化した拳で大地を割る奴もいる。
そういった具体的な内容があるはずなんだ。
だがケンザキはその身に光を纏っただけ、強化にしても上がり幅が微妙すぎる。
それぐらいのエンハンスだったら、無属性の強化魔法でも十分叩き出せる数値だ。
(いや待てよ、実は異能の力を隠しているんじゃないか……?)
よくよく考えれば、異能の外側は兎も角、本質をこんな簡単に見せるはずもない。
こんな空っぽの中途半端異能、まさか勇者が持つはずもないんだ。
奴は俺みたいな監視に備え、あえて力を隠し、あまつさえ油断させようとしている。
そう考えれば、俺が勇者を伸びしろも無い『雑魚』だと思ったのはある意味必然。
「ユウト・ケンザキ、中々の策士だな……」
これは一本取られた。
危うく騙されたまま報告するところだった。
そしてフィールド上でも、それなりの時間をかけケンザキがようやくゴーレムに勝利をする。
ただ時間を掛けたのおそらくフェイク、騙されないぞ。
「はぁはぁはぁ……」
「だ、大丈夫剣崎くん?」
「し、し、心配、ない、よ」
「ホントに?」
「よ、余裕、さ……」
光の鎧も飛び散り元の状態へ。
ケンザキは息を上げ本当に疲れている、ように見えるだけ。
俺の直感が言っている、きっとあれもフェイクなのだと。
演技が上手いことで、演劇役者にでも為れそうだ。
(ふっふっふ、俺の眼は誤魔化せないぞ)
本当に本当に疲れているように見える。
今だってフラフラですぐにでも倒れそう。
だが勘には自信あり、全ては策、奴にはもっと隠された力が————
「これは回復魔法よりあっちの方がいいかな……」
結局マイ・ハルカゼは戦いに参加しなかった。
ケンザキの異能もしっかりと把握することは叶わなかったし。
まあ、奴が策士と知れただけでも収穫だ。
そしてツイていることに、マイ・ハルカゼは回復の魔法を使う様子。
ただ所詮は支援系魔法、大して————
「再生」
「っ!」
疲労した風のケンザキに回復魔法を掛けると思った。
ただマイ・ハルカゼから放たれたのは半透明な輝き。
瞬く間に触れた全てを回復、いや、元通りにしていく。
「どうしたクレス、そんな驚いたような声上げてさ」
「……彼女の力を見て何を感じる?」
「ハルカゼさんか? いや、普通に回復させてるだけだろ?
「回復……」
俺も初めは魔法を使うんだと思った。
だが違う、あれは時間の巻き戻し。
魔法なんかじゃない、世界に干渉する『異能』なんだ。
これまでのケンザキの茶番試合が頭からぶっ飛ぶ。
もうフェイクとかどうでもいい、アイツがどんな大技を持っていようと、価値的にはマイ・ハルカゼにはとても敵わないのだから。
(スミスや皆は勘違いしてる。あれは魔法なんて域をとっくに超越してるぞ)
事象の逆転、あったことを無いことにする。
言うならば過去の改竄、世界の流れを自分の手で少なからず上書きしている。
あれがどれだけの可能性を秘めているのか。
マイ・ハルカゼは何ともないように使ってはいるが————
(ある意味では、俺たちに並ぶ存在となりうるか……)
ことの重要性を知るべき。
もし彼女が再生という異能をものにした時。
あらゆる怪我や出来事、はたまた死という概念さえも飛び越えてしまうかも。
幾ら殺しても蘇ってくるとなれば、これほど凶悪かつ狂気の異能はない。
自然と冷たい汗が流れてくる。
そして自然と笑みを浮かべてしまう。
俺は、この世界で新たな可能性を見出したのだ。
「おっと、次は俺たちだぜ」
「ああ」
「なんで笑ってんだ?」
「この学園に来た意味があったなと」
「ますますよく分からん。ともかくカッコ悪い姿は女子たちに見せられないからな、しっかり頼むぜ?」
早くボスたちにも見せてやりたい。
4人全員がという訳ではないけれど、確かに勇者は勇者だっだと。
俺たちをやっと脅かしてくれる存在が来たと。
正直やり甲斐を感じていなかった任務に力強い風が吹く。
すると腹の底から気力と魔力がこみあげてくる。
「恥ずかしい姿は見せられない、か」
「おうよ。これでも女子にモテたいん……」
「スミス」
「ん?」
「振り落とされるなよ」
「そりゃどういう意味って、歩くの早すぎ! なんで急にやる気になってんだよ!」
やけにテンション上がってしまった自分。
この後、ゴーレム相手に広範囲すぎる氷魔法を発動。
スミスを含め会場ごと凍らせてしまう大事になってしまい、怒られた時には後の祭り。
また周囲から目立つことにもなり、後悔の念で落ち込んだのは言うまでもない。