第128話「一応」
ついに幕を上げた学園祭。
初日はマイさんと時間を共にしつつも、ボスから懸念されていたような大事は起きず。
一応は学生らしく大祭をすごすことができた。
しかし順風満帆とはまだ言い切れない。
かの巻き込まれた勇者の幻影、ボスからの敵影ありとの連絡。
助成のために訪れた他なる『|災厄の数字〈ナンバーズ〉』であるエルメスさん、そして期せずしてやってきたアウラさんとマキナさん。
一癖も二癖もある役者が揃う中、学園祭の興奮と熱量は加速する――
◆◇◆
「勇者であるマイさんの傍にいましたが、目に見える異常はありませんでした」
学園祭の一日目を終え、自室にて報告を行う。
彼女と行動を一緒にしていた時も、陰から見守っていた時も、マイさんに特別なアクションを起こす人物はいなかった。
ファンらしき人はいたが、少なくとも排除対象とまでは言えない。
「……それで、皆さんの方はどうだったんですか?」
俺は恐る恐るという体で、まるで自分の部屋かのようにくつろぐ3人に尋ねた。
「先に言っておくが、私は今回なにも問題は起こしていない」
赤い目に自信の色を宿し、アウラさんはそう断言した。
「その自信たっぷりな感じが逆に怖いんですが……」
「本当だぜ? 大人しくグルメを堪能していた」
「お小遣いは足りたんですね」
「いいや。だからナイフ投げ?射撃?の店にいって、金券をもらいまくった」
なんでもナイフを投げて的にあてるゲームに熱中したそうな。
命中させると学園祭で使えるクーポン券のようなものがもらえたらしい。
「ただもらいすぎて、今日限りで店じまいみたいだけどな!」
……可哀想に。
きっと根こそぎふんだくられてしまったのだろう。
この人の身体能力は常軌を逸しているのだ。
「ひとまずアウラさんは大丈夫……と」
そういうことにしておこう。
犠牲になったクラスが一つあったようだが、この際致し方なし。
それから老紳士エルメスさんの方に向くが。
「ずっと散歩していたヨ」
ニコニコと笑みを浮かる。
彼は黄金については超のつく収集家だが、それ以外については比較的まともな部類と言える。
学園祭に黄金発掘ゲームがあるならまずかったが、そういう出し物は確認できなかった。
きっと言葉通り静かにすごしてくれたのだろう。
「さて、明日も早いですしそろそろ休み――」
「待ってください」
「ワタシもそろそろ英気を養って――」
「マキナさん」
「…………」
そそくさと寝る支度を調え始めた最後の|数字〈ナンバーズ〉。
6番目の災厄こと宗教家の彼女を引き留める。
「なんですか?」
「それはこっちの台詞です。今の今まで布教用のチラシを刷っていたのに、なんで急に寝る準備を始めるんですか」
「?」
「何言ってるんだこいつみたいな顔をするのはやめてください」
怪しい。
明らかに様子が不自然である。
「別に大事ありません。穏やかな一日でしたよ」
「穏やか……」
この人と自分の穏やかの物差しを同じと考えるのは危ない。
「ちなみに今日の収穫は?」
「相も変わらず入信者はゼロです」
「そうですか」
「なぜ安心したような顔をするのですか……」
「あ、安心なんかしていません! 残念だなと思ったんです! だからそんなジリジリ寄ってこないでください!」
マキナさんによる犠牲者……失礼、成果はなしと。
彼女は多くを語らないが、様子を見るに本当に問題事にはなっていないらしい。
「となると本当に初日は平和に終わったと」
ここまで平穏だとむしろ怖い。
「私たちが大人しくしているのがそんなに変かよー」
「そうですそうです。クレスには信頼が欠けています」
ぷんすかと怒ったように拳をあげるアウラさんに、マキナさんも賛同する。
「だって、そもそもお二人、ボスの命令を無視してここに来たんでしょう?」
「「…………」」
しかしそれでも。
「すいません。流石に疑いすぎました」
彼女らが言うように、もう少しだけ信頼してみるべきなのかもしれない。
二人とて成長している。
戦場ではもちろん信頼するが、今後はこういう日常世界でも――……
二人は俺の言葉にうんうんと頷いた。
どうやら納得してくれたらしい。
「あの射的屋も明日にはないし、そうだな、そこらへんの腕の自信のありそうなやつとタイマンを張って、勝ったらおごってもらうっていう決闘スタイルで――」
「ワタシも本格的に布教を始めましょう。なにやらコンテストを行うようですし、その会場を一時的に占拠もとい使用させていただいて――」
うん……。
信頼ね…………。
「すいません、やっぱり無理です――!」





