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第12話「初日2」

「いやあ、流石に入り辛かったぜ」

「だから先に行けばよかったのに」


 俺の遅刻しましたの登場から、少し間をおいてスミスも無事に参戦。

 しかも幸運だったのは、なんと俺の隣の席がスミスだったということ。

 

(まあ後ろの席に勇者連中がいることが気がかりだけど……)


 監視の点で言えばもう少し離れた距離が望ましい。

 これだけ近い、しかも背後にいるとなると中々の難易度だ。

 ちなみに現在は担任デニーロによる日程なり今後の説明が終わり自由時間へと。

 喋ろうが寝ようが個人の勝手。

 

(だからって皆俺たちのこと見すぎだろ……)


 俺はというと必然的に隣のスミスと駄弁っている。

 特に殺気や不審な動きはしていない。

 だというのにクラス中、勇者を含め俺たちを注視している。

 細々と聞こえてくる周りの会話にも、ところどころ自分の名前が飛びかっている様子。

 

(単純に目立つ特徴をしているから? それともまさか浮いてたり……?)

 

 恰好や態度には最善を尽くしている。

 ただ銀色を放つ見た目だけはどうしようにも。

 特徴故に目立つというなら仕方なし。

 だが周囲の視線には、なんだか違う感情が混ざっているように感じてしまう。

 いや、もしくは遅刻した連中だと馬鹿にされているのかも。


「なあスミス」

「ん?」

「俺たちなんか凄い見られているような……」

「そうだな」

「もしかして遅刻したからか?」

「いや、単純にクレスが目立ってるだけ」

「そうか……」


 一般人の意見としては、やはり俺の身体的特徴が原因だそう。

 この銀髪、任務に支障も出そうで何度か染めようとしたこともある。

 ただ異能が作用しての銀、染料を幾ら塗っても金や茶髪には出来なかった。

 もはや呪いと言っても過言じゃない。


(にしても特に後ろ、勇者からの視線が強烈だ)


 俺の真後ろ、マイ・ハルカゼ。

 緊張した中で何とか彼女だけは挨拶出来た。

 他の人に声を掛けるまでの余裕は無し、表情を取り繕うのに必死だった。

 今は無言で視線、いや圧力とも呼べる眼差しを周囲から受けている。


(先手を打たれた気分だ。こっちが監視されてるみたいだし)


 マイ・ハルカゼを含め、勇者4人の外見は黒髪黒眼、これといって不可思議な点は見当たらない。

 ただ忘れてはいけない、俺にとって厄介な存在がすぐそばに。

 四大公爵家が1つ、ディアンヌス家の次女。

 貴族でよくみられるドリル金髪、しかし彼女の適性魔法や戦闘技術は過去のデータから大体割り出し済み。

 問題なのはその地位による権力だけで、戦闘については数秒あれば首を飛ばせる。


「そこの勇者さん、俺スミス・ケルビン。よろしくっ!」 

「あ、マイ・ハルカゼです。よろしく」

「リンカ・ワドウです。よろしくお願いします」


(っなんでスミスは気軽に話掛けてるんだよ!)


 ちょっと物思いにふけって間もなく。

 スミスが自分の後ろに座る勇者たちへと話かける。

 流石のコミュニケーション能力、だがまだ早い。

 もう少し様子見しなければいけ————


「ケルビンさんはアリシアくんと仲が良いんですね」

「おうとも。今日会ったばかりだけどな」

「そうなんですか?」

「遅刻してダメだと思ってたらバッタリ。お陰で教室に入り損ねることになったけど」

  

 まずい。まずいぞ。

 スミスが会話の大三角形を形成してしまっている。

 勇者との格式をひとっ飛び、普通に喋ることに成功しているぞ。


「というかクレスも何か話せって。こんな美少女たちの近く、めちゃくちゃラッキーな席なんだし」

「面と向かってよく言えるな……」

 

 心の底からそう思う。

 本人を目の前に美少女と、いや確かに顔立ちは整っている。

 マイ・ハルカゼは優しそうな風貌、もう片方、リンカ・ワドウは眼鏡をかけているからか真面目そうなイメージを。

 ただ問題はスミスが話を振ったこと、両者の姿勢が俺の方へと向く。

 俺も横に座るスミスに身体を向けていたので、眼を合わせるのことは必然的に。

 

「えっとアリシアくんは……」

「質問です! 彼女はいますか!?」

「「「「「っえ!」」」」」

「……はい?」

「恋人は! 恋人はいるんですか!?」


 突然に、机を強く叩き俺へと近くづく。

 行動の主は眼鏡をかけた勇者、リンカ・ワドウから。

 突拍子もなく、マイ・ハルカゼの言葉も遮って訳の分からない質問が飛んでくる。

 ただその見開いた瞳孔の真剣さ、熱い勢い、彼女は本気で尋ねている。


(しかも教室の空気が一気に重くなったぞ)


 特に女子、勇者に興味があるのだろう、先ほどから聞き耳を立てていたが今回ばかりは俺と同じように驚いた声を。

 そしてすぐさま眼光を鋭く、人によってはリンカ様は本当の勇者、そんなことも呟いている。

 しかしそんな重要な問いかけには思えない。

 まさか俺が知らない秘密の暗号指示だったり————


「さあ、どうなんですか!」

「ちょっと凛花、落ち来なさいって……」

「いない」

「へ」

「いないよ」


 だがここは乗るしかない。

 逆に暗号だとするなら応えない方が不自然。

 さして自分にとって重い話でもなんでもない、あえてその話題に乗って反応を————


「「「「「よっしゃああああああああああああああああ」」」」」

「え……?」

「流石は勇者様! 私たちが聞きたいことを平然と尋ねてくれる!」

「まさしく先頭に立つ者の器!」

「しかし、ここからは血を見ることになるわ」

「ええ。戦争の始まりです」

「「「「「……勝負」」」」」


(な、なんなんだこのクラスは!?)


 さっきから意味不明なことで盛り上がったり沈黙したり。

 何度も言うが特に女子、いま彼女らの纏うオーラはプロとも引けを取らない。

 暗殺者として一級品、一体誰の首を獲ろうというのか。

 この監視任務、勇者や公爵以外にも障害が多いかもしれない。


「ごめんねアリシアくん。凛花はちょっと変だから……」

「いや、気にしてない」

「気を使わなくても大丈夫っすよハルカゼさん、コイツほんとに鈍いんで」

「俺が鈍い?」

「そういうところだよ」

 

 俺の知らない所で何かが動いている。

 スミスは俺のことを鈍いと称すが、これでも裏社会でずっと生きてきた人間。

 気配や殺気の感知、戦況判断には自信がある。

 そんなにバカにされるほど落ち度は無いと思うんだが————


「想像とだいぶ違いますね、クレス・アリシアさん」

「えっーと……」

(わたくし)、マリー・ディアンヌスと申します」

「ど、どうも」

 

 特徴、金のツインテールドリル型ヘア。

 名乗られるまでも存じているとも。

 ただ四大公爵とあってもう少し高飛車な性格と思いきや、口振りはそうでも。

 クラリス・ランドデルクの時にも感じたが、この国の貴族は威張らない人が多いのだろうか? 

 意外と切実な話しかけをしてくれる。


「ディアンヌスさん、あれ、ディアンヌス様って呼んだ方がいいかな?」

「名前で構いません。あと様付けも不要です」

「じゃあマリーさんで」

「ええ。私もクレスさんとお呼びしますわ」

 

 ただ油断も出来ない。

 色んな国で色んな貴族に出会ってきた。

 あいつらほど金を落とし、なおかつ面倒な相手もそういない。

 むしろ魔族よりも厄介な存在とも。

 戦闘力や装いだけで判断するのは危険だろう。

 腹の中に何を抱えているかは分からない。

 

(あとは男勇者たちだけど————)


 なんとかマリーさんに振られる会話を返しつつ、その後方へ注目。

 そこには残る勇者2人がいる。

 ユウト・ケンザキとコウキ・スガヌマだ。

 何故か先ほどから俺に苦い面持ちを向けてくる。

 振舞いにはなるべく気を付けているが、やはり目に余る点が多いのだろう。

 異世界人であることだし、感性の違いがあるのかも。


「あ、あの、アリシアくん」

[ん?」

「私も名前で。呼び捨てで大丈夫なんだけと……」

「じゃ、じゃあマイさんで」

「うん……!」


 潜入調査には幾つもの技なりやり方がある。

 その中でも監視対象と親睦を深めるということは重要。

 基本的には相手の言ったことにイエスで応えまくる。

 これで裏切った時に心を痛めるという奴もいるが、もうとっくにそんな峠は越えている。

 ただやはり異性が相手、ハードル高くいきなりの呼び捨ては出来ない。

 そもそも気を緩めれば焦りが露見しそうな現状だ。


「クレスくんは————」

「待たせたな、自由時間終わりだぞー」

 

 マイ・ハルカゼ、もといマイが話かけようとした? がしかし、担任教師がここぞというタイミングで登場。

 会話に終止符、自由は再び縛られる。

 彼女はなんだか残念そうな顔をしたように思えたが、まあ気のせいだろう。

 そうこう言う間にデニーロ先生は言葉を発す。

 

「それじゃあこれが初日最後のプログラムだ。今から————」

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