第115話「面談」
こんにちは。
クレス・アリシアです。
王都でもう半年以上を過ごし、季節も秋となりました。
冷たい風が吹き、そろそろ防寒について真剣に考えなくてはいけないかもしれません。
現在、学園では文化祭に向け生徒たちが準備に精を出しています。
理事たちも張り切っているのか、本番前の1週間は休校、泊まり込みで作業をするクラスもあるとか(場合によっては僕がいるこのクラスもするかもしれないですね)。
ん、なんだか喋り方がかしこまっている?
クレスの一人称は僕ではなく、俺だったのではないか?
確かに確かに、その疑問はもっともですね。
しかし今日が何の日か知れば、少しは納得して頂けるかもしれない。
三者面談。
皆さんも、おそらく一度は経験したことがあるんじゃあないでしょうか?
人によっては成績に自信が無く、緊張しながら臨んだ行事なのかもしれません。
ただ自慢ではないのですが、クレス・アリシアは一応成績優秀で通っています。
では、なぜそうもかしこまった語りなのか。
恐れることはないはずなのに。
……そう、恐れることはないはずだった。
ないはずだった! はずだったんだ!
もう知っていると思うが、先日我が家に災厄たちが襲来した。
襲来というのは比喩ではなく、実際かなりの被害が出てしまった(金ピカの部屋、よく分からない置物はそのままの状態)。
しかし本当に厄介なのはこれからだ。
今日――俺は三者面談をする。
緊張して仕方がない。口調が良い子ちゃんになってしまうくらいドキドキしている。
あの人たちが変なことをしないか――と。
ようは自分のことを心配しているのではなく。
彼女らが問題を起こすのではと憂いているのだ。
「どうしたクレス、浮かない顔して」
すぐ隣にいたスミスが首を傾げる。
時刻は昼を少し過ぎたあたり、準備期間は学食は休みなので、みな教室で持参したものを食べている。
ただ作業のため机や椅子は片付けてしまっているので、床に胡座や正座等をつく形での食事だ(女子はスカートの下にジャージを着用、スミスはパンチラがないと悔しがっていた)。
「浮かない? どこからどう見てもいつも通りだけど?」
「いや……そんな風には見えねぇが、パンを持つ手が震えてるし」
「あぁ。どうやら俺の座っている場所にだけピンポイントで地震が起きているみたいだ」
「なんだそりゃ。お前自然災害にさえ特別扱いされてんのかよ」
溜息をつきながら首を振るスミス。
「俺は誰からも特別扱いされ……てない。ないぞ」
「その間はなんだ」
「とにかくいつも通り。俺の日常、いたって正常、なにも変ではないでしょう」
「韻を踏むな、韻を」
これだけ訴えても、スミスは『やっぱり今日のクレスはおかしい』という。
俺の百点の演技をもってしても騙しきれないとは、コイツには探偵の才能があるのかもしれない。
「あ、もしかして三者面談をブルってんのか?」
「――!」
「当たりっぽいな。クレスは今日の……午後一番だったっけ?」
「……ああ」
よく気づいたな。そのまま探偵として生きていけるぞ。
「成績いいんだから、なにも心配することはねーだろうに」
「…………」
「生活態度だって、まぁときどき暴走している時がある気がするけど、こっぴどく怒れるってほどでもないしな」
……暴走したことなんてまったく記憶にないんだが。
品行方正の学生を演じ続けて来たつもりなんだが。
「そういや結局、誰が面談に来るのよ?」
黙秘権を使おう……と思ったが、それでは逆に関心を持たれてしまうかもしれない。
あの人たちには、皆と会わないようなルートやタイムテーブルをお願いした。
ただ守ってくれるかは……いや、信じてはいるけども、
「……じいさん」
「あぁ少し前に、お前がマイさんと買い出し行った時に再会した人ね」
「……あと、姉さん」
「へ、へぇ。遠方からわざわざお姉さんも来てくれたんだな」
「……それともう1人、姉さんが」
「どれだけお姉ちゃん来るんだよ!」
「いや、2人で終わりだけど……」
「でも多いな! もう三者面談じゃなくて五者面談じゃねーか!」
……仰る通りです。
過保護な人たちだと言われても反論はできない。
「どうせそのお姉さんたちってクレス・ラブな人なんだろ? ブラコン的なやつな」
「ラブっていうか……」
「しかもどうせ美人なんだろぉ!?」
「な、なんでキレて……」
「羨ましいんじゃ!!」
「…………」
お前はそういうやつだったな。
美的センスは人によるだろうが、ただ大抵の人はアウラさんやマキナさんを見て美人と思うだろう。
だから面談にくる際はサングラスやマスク等の変装をしてくるようお願いした。
……スミスみたいな輩も多いからなこの学園は。
「面談って向かいの特別教室だよな。お前の姉ちゃん一目だけでも――」
「ダメだ!」
「……な、なんでだ? 恥ずかしいのか?」
「恥ずかしくはない。ただな……」
「別に目を合わせたら石にされるみたいな事もねえだろ?」
「……半分ぐらい魔物みたいな人たちだけどな。とにかく――」
あと十数分もすれば昼休憩も終わり作業が再開される。
その中で俺はひょいっと抜けて、ぱぱっと面談をすることになるわけだ。
面談までそう時間もない(あの人たちにはギリギリで到着するように言っておいた)。
スミス含め、このクラスの皆には絶対に遭遇して欲しくはないので強引に言葉を述べる。
隣にいるスミスは渋々といった感じで頷く――が、
「クーレースー!」
教室の扉は突然開け放たれ、女性の快活な声が響く。
どうやら俺の努力は、意味をなさなかったらしい。
あけましておめでとうございます。
どうも、東雲です。
社会人の方は既に仕事が始まったり、学生の方は課題に追われているかもしれません。
かくいうボクも現在進行系で課題と戦っています。頑張りましょう……。
2019年の抱負としましては、小説で新人賞に挑戦、そしてイラストをたくさん描く、といった感じです。
イラストは去年の秋頃から練習を続けているのですが、まだまだ力不足、今年は人に見せられるぐらいまで上達するのが目標です(二兎がどうとかいう諺はスルーする方向で)。
9番目の更新はまだ続きますし、コミカライズも控えています。
これまで以上に、創作に対し全力で取り組んでいく所存。
本年もよろしくお願いいたします。