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第114話「説教」

 説教――

 そう打って出たものの、この言葉の本来の意味は『宗教の教義・教典を、その信者や民衆に口頭で説き明かすこと』だという。

 つまり自分が相手のなんらかの行動に対し、私的に注意や警告を発する場合には『諭す』だとか『戒飭(かいしょく)』という風に表現すべきなのだろうか?


 俺は語彙力がさしてあるわけではないし、まして言語学者や教師というわけでもないので、この辺りの細かい区分を明確に把握できていない。

 もし詳しい者がいるのなら、是非ともご教授願いたいものだ。


 さて、なぜこんな語りから物語が始まったかというと。

 自分を落ち着かせるために――である。


 創作物において、そのキャラクターが焦ったり怒ったりした際に、素数を数えるというものがある。

 

 2 3 5 7 11 13 17 19……。

 

 果たしてこれで冷静さを取り戻せるのだろうか?

 少なくとも今の自分には無理そうだったので、方向性を変え言語について検討してみた次第だ。

 ちなみに素数とは『1と自分自身以外に正の約数を持たない自然数』のことである。

 教本を思い出しながらこうやって語ってはいるが、ではなぜ『1』は素数に入らないかという事を説明したい――のだが、流石に読者も飽きるというものだろう。

 

 ただそれ以前に、なんとかこの憤怒の感情を抑えようと色々な疑問やら自答を述べていたわけだが、いよいよ限界が来てしまった。


「必殺! 金色ペイント・ウェーブ!」

「超布教バリア!」

「アウラ・アルティメット・バーニング・ソード!」 


 もはや冷静では――いられない。




「 う る さ あ あ あ あ い ! 」


 


 最後に叫んでいるお前が一番うるさいなどと、野暮なことは言わないで欲しい。

 彼に、彼女らに、怒り心頭。

 目の前には荒れ果てたというか、もはや異次元的なナニカに変貌を遂げた部屋が広がっている。

 

 おかえりと揃って3人が言った後に『はぁ……どうするんだよこれ……』と溜息交じりで吐露をしたのだが、それで事は終わらない。

 なんと出迎えてくれた3人は、俺が帰ってきても手を休ませなかったのだ。

 今度は必殺技っぽい名称を叫びながら、壁を塗装し、変なインテリアを飾り、食事を再開している。

 食事中にソードなんて絶対関係ないだろ。なんの脈絡もないだろ。叫びたいだけだろ。


「なにを怒っているんですかクレス。ワタシが説教でもして心に平定をもたしましょうか?」

「マキナ教であるマキナさんが説教というのは言葉の使い方として正しいですけれど、俺の心に乱世をもたらすのはあなたたちに他ならないです」

「よしよし。学園で辛いことがあったのですね」

「辛いのは今ですよ!!」


 頭を撫でながら慰めてくれるが、まったく響かない。

 あとポケットにこっそり布教用のチラシを入れるな。

 

「クレス・アリシア君よ。どうだい生まれ変わった自分の部屋は、軽く黄金宮殿って感じじゃないかネ?」

「普通に異世界ですけど。別世界ですけど。自分の部屋の面影ほとんどないんですけど」

「まあそれは、部屋の面積まで増やすのは今日は無理だったけれど……」

「広さの話じゃないですから! そこまで宮殿級にしろとか思ってないですから!」


 彼もダメだ。頭がいかれてる。


「アウラさん……」

「アウラ・アルティメット・バーニング・ソード!」

「なんの脈絡もなく叫ばないでください。で、なんですかその痛々しい技は……」

「クレスの家のキッチンは火力がなかったのでな、私のこの大剣をこう横に置き、そして肉を乗せ一気に焼き上げるという技だ」

「神剣ですよね!? 大切に扱いましょうよ!」


 こうして三者三様を見ると、アウラさんが一番マトモな気がしてきた。

 いやいや騙されるな自分。

 今あるこの空間は間違いなく『日常』から逸脱、乖離しているだろう。

 

「皆さんまず一旦手を止めてください。落ちつきましょう」

「さーて後は洗面所の方も塗装して――」

「よしよし。このままワタシの優しさにデレて一緒に布教の旅に――」

「うーんこの技名カッコよくないか、なら――」


 ……。

 …………聞く耳持たないね。


「あーあ、みんなとお茶でも飲みながらゆっくり喋りたかったのに……」

「「「休憩しようか(しましょうか)!」」」


 ちょっと悲しそうに寂しそうに演技したらこの変わりようである。

 ただこの部屋の惨状からして、俺に甘いのだか、厳しいのだかは判別つけにくいところだ……。


     ※


「へー、こんなところに菓子があったか」

「もらいものですけどね……」


 金ピカになったリビングで久方ぶりに相対する。

 俺は椅子、マキナさんはベッドに座り、アウラさんは床で寝そべり、エルメスさんはクッションの上に正座している。

 

「……にしても3人がブッキングするとは」


 事のあらましは大方聞き終えていた。

 俺の留守中にエルメスさんが訪れ、アウラさんたちがそのすぐ後に到着してしまった。

 クラリスさんに掴まらず、もっと早く帰宅できたていればこの事態も回避できたかもしれない。

 あの時に予定がないと言ってしまったことが悔やまれる。


「サプライズになったようならなによりだネ」

「サプライズというか、もはや悪質なドッキリのような……」


 ここまで心臓に悪いイベントもない。

 エルメスさんはちょくちょく会っていたが、アウラさんとマキナさんが意外と早い到着で驚いた。

 正直、道に迷って祭りまでにここにたどり着けない説を推していたのだ……残念である。


「どうしますエルメスさん? アウラさんたちのこと、そろそろボスに連絡しますか?」

「待ちなさいクレス。アウラはともかく、どうしてワタシのことまでチクろうとするのです?」

「どうしてもこうしてもないような……」

 

 疑問に疑問で返す前に、それこそ自分の胸に聞いてみて欲しいものだ。


「やめてくれクレス。私はボスに殺されかけない」

「アウラさんは一度ぐらいやられた方が――」

「頼むよクレス! 祭りが終わるまでだ、な!? てかチクられたら暴れてしまうかもしれん……」

「まさかの開き直って脅迫!?」


 暴れて欲しくなければ黙っていろと暗に伝えてくる。

 マキナさんも似たような雰囲気で佇んでいる。

 俺は(ボスの命令で正式に来た)エルメスさんに視線を傾けたが――


「ま、いいんじゃないかネ。もしかしたら事と次第によっては我々2人では対処できないケースがでてくるかもしれないシ」

「そうでしょうか……。あと黙ってたらエルメスさんまでボスに怒られるような……」

「はっはっは。怒られるぐらいなんでもないサ。そもそも歳を重ねると誰かに真剣に怒られるなど――」


 と、『老いたなぁ』となんだか感傷に浸っている。

 触れにくい……。


「……はぁ。じゃあ問題を起こさず大人しく――」

「「大人しくします!」」


 2人とも即答である。

 本当に大丈夫だろうか……。


「ではクレス、当分の拠点はここにしていいですよね?」

「あ、ズルイぞマキナ君」

「エルメスとアウラは宿でも野宿でも好きにしたらいいです」


 いやいや、どれだけ自分勝手な言い分ですか。


「……エルメスさんは基本人間らしいから外泊でいいですけど、アウラさんとマキナさんは当分ウチに泊まってください。できるだけ目のつくところにいて欲しいので」

「分かったぞ」

「了解です」


 と、ここは素直に従ってくれた。

 しかし彼女らと同居するのは相当に覚悟を決めなくてはいけないが。

 気苦労は増えてばかりだ。


「ところでクレス」

「なんですかアウラさん」


 真っ赤な髪を靡かせる彼女は、その手に1枚の用紙を持っていた。

 そこには『三者面談のお知らせ』とも。


「ほう」


 マキナさんが珍しくニヤリと笑う。

 エルメスさんは既知の事だったので特に派手なアクションはなかったが――


「あぁ、そういえば明日が三者面談だったネ。気合入れていくから安心しなさいイ」


 ……待って。待ってくれ。

 落ち着いてきたじゃないか。平和が訪れてきたんじゃないか。

 なのになぜこのタイミングでまだ『火種』を――


「三者面談とはなんだ?」


 アウラさんが首を傾げて周囲に問う。

 俺が答えるよりも先に、エルメスさんが口を開く。 

 

「学園側が行う面談の一形態だヨ。教師と生徒と保護者とで向かい合い、これまでの生活態度や成績について話をするというところかナ」

「ほーう。では保護者というのは私も当てはまるのか?」

「まぁ……当てはまるといえば当てはまるかナ。クレスからは『おじい様おねが~い』っいぇ頼まれたから、ワタシが行くつもりだけれド」

「いやそんな媚びた風にお願いしてませんから! あ、アウラさん? ど、どうして立ち上がるんですか? なんだかやる気がみなぎっているように見えるんですけど……」


 止めてくれ。

 本当に止めてくれ。

 マキナさんも不敵な笑みを浮かべているし、しかもアウラさんが持っていた用紙に目を通し――


「どうやら面談に際し保護者が1人だけ、という制約はないようですよ」

「で、でも、三者面談な――」

「制約はないようですよ?」


 ……はい。


「じゃあ決まりだな」

「なにが決まりなんですかアウラさん!? なにも決まってません、座って……ほら、まだお菓子ありますよ!」

「菓子も重要だが……しかし、クレスの事が第一優先だ」

「優先しなくていい! 頼みますから干渉しな――」



「「わたしたちも面談に行きます!」」



「……う、うぅ」

「泣かないでクレス。ワタシたちに掛かれば、どんな成績を突きつけられても担任を脅して全てS評価にしてあげます」

「マキナさん、それ脅迫じゃないですか!」

 

 一件に対しエルメスさんは笑っているだけ。

 どれだけ俺がお願いしても、彼女らは行くと言ってきかなかった。

 明日の三者面談、どうやら簡単には終わりそうにない――

 どうも、東雲です。


 今回が2018年最後の更新でした。

 次回は年明け、1/5に更新する予定です。

 ボクは少し前に『ゾンビランドサガ』というアニメを観まして、これがまァ面白いんですよ!

 今期は豊作豊作と言ってましたが、自分の中では『ゾンサガ』が一番でした。

 正直ボクはアイドル物って好きじゃないですけど、今作は格別で特別だった気がします。彼女たちからは元気と勇気をもらいました!

 アマゾンプライムにも全話あるので、正月ひまだなーという方はぜひ観てみてください。

 愛ちゃん可愛いよぉぉ……! Cut in ! Cut in ! 

 

 来年は今年以上に創作に打ち込んでいきます。

 それでは皆さん、良いお年を!

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