第108.5話「不安」
「――王都より報告。3番目の災厄、クレス・アリシアと接触したとのこと」
災厄の数字の拠点。
エリザの仕事部屋。
セローナからこの場所の主たるエリザへ、報告が伝達される。
「よしよし。エルメスは間に合ったみたいだな」
「予定より早い到着になりましたね」
「早いに越したことはないさ。……ま、どうせクレスに会いたくて急ぎ足になったんだろうよ」
3番目の災厄『黄金卿』。
クレス・アリシアが『氷』の権化というのなら。
エルメス・G・アイザックは『金』の権化と呼べる。
この世界で、彼ほど『黄金』を愛し、尊び、使う者は他にいないだろう。
「そしてさっそくクレス君の危機を救ったとの報告も入っています。原文そのままに『孫に近づいてきた不審者たちを追い払ったヨ』と」
「なーにが孫だ。仕事は結構だがな」
「自称お爺ちゃんですからね、エルメスさんは」
「あんな物騒で黄金狂いの爺さん、クレスはいらんだろう」
いつもよりか若干口の悪いエリザ。
この前にあった報告のせいで、機嫌が悪いのである。
具体的なその原因とは――
「で、アウラとマキナはどこに行ったんだァ……!?」
勝手な行動を取って、クレスの元へと向かったアウラ。
そしてそれを止めるため、派遣されたマキナ。
しかし両者ともども帝都を境に姿消失、依然として発見できていない。
「あのバカどもは一体どこに……」
「エルメスさんの報告書では、王都に彼女らの姿はなかったと」
「てっきりクレスを脅して、王都のどこかに隠れていると思ったが……」
「どうやら予想は外れたみたいですね。アウラさん単独だったら可能性として高かったですが、マキナさんが頭を働かせたのかもしれません」
「そうなるとあいつらは一緒に行動をしているわけになるが……」
アウラとマキナの不仲(正確にはマキナが一方的に嫌っている関係)は周知。
利害関係が一致していれば、一応の連携はするぐらいだ。
「黒姫たちの動向も気になるが。アウラたちがどうにも……嫌な予感しかしない」
「完全なる不確定要素化していますからね。身内としてもどんな動きをされるか分からないというのは、不安でしかありませんね」
「……違いない。どこで油を売っているのやら」
同時に溜息をつくエリザとセローナ。
災厄の数字は組織――ではあるが、内実、組織としてきちんと機能はしていない。
構成員たちがその時その時で、勝手な行動を取るからだ。
しかもその影響力は計り知れない。
むしろエリザやセローナは、彼らを上手く纏めている方だ。
「……不確定要素が吉と出るか凶と出るか」
「あ、エリザさん、もしかしてワクワクしてます?」
「ワクワクするか! 普通に不安に決まっているだろう!」
エリザは先見の明を持つ。
無論、表面上は嘆きつつもアウラたちの動向について、ある程度の予測はしている。
だがそれを覆すのが――災厄なのである。
「最悪の事態に備えて、ストレガにアレを準備するように伝えておけ」
「了解しました」
「……アウラたちめ、帰ってきたら仕置きだな」
ゴキゴキと拳を鳴らすエリザ。
もはや酌量の余地はないと決めているようだ。
その様子を見てセローナは、
「とりあえず、邪魔されないことをまずは祈りましょう――」
どうも、東雲です。
久しぶりにゆっくり後書きを書いています。
皆さんは本を買う時、紙媒体と電子媒体どちらにしますか?
ボクは紙媒体です。
1枚1枚ページをめくる感覚が好きですし、なにより本棚にズラッと並べたい。
ある作家も言っていましたが、紙の本はもはやフィギュアに近いのかもしれません。
次回更新は11/29(木)です。
発売日まで1週間を切ったので、webもなんとか頑張ります!





