第107話「紳士」
「――よし、これで頼まれてた分は買えたね」
俺とマイさんは、演劇の準備に必要な道具を買いに校外へ。
ワドウさんから受けた注文分は、たったいま成し遂げた。
……正しくは買い遂げた、か?
「ごめんねクレス君、重い方持ってもらっちゃって」
「あ、うん」
量的に、両手で運べるものではない。
購入品は大と小、2つに箱詰めし、大きい方を俺が持っている。
「クレス君大丈夫? なんだか思い詰めた顔してるけど……」
「そ、そんなことないよ?」
「箱が重かったり、体長悪いんだったら言ってね。わたしが全身全霊もって死んででも2つ一緒に運ぶから」
「……箱よりマイさんの気持ちが重いような」
それが思いやり、というやつなのだろうが。
ただ彼女が心配したようなことはない。
俺はただ――
(アウラさんやマキナさんを、迂闊に姉ポジションに置いちゃいけなかった――!)
マイさんが『保護者来るんだ。じゃあ三者面談大丈夫だね』と言ったが。
まさに他者からしてみればその通り。
仮に、担任がアウラさんたちに『面談お願いしてもいいでしょうか?』などと尋ねれば、2人は間を置くことなくイエスと応えるだろう。
ならばアウラさんたちを、最初から先生や皆に接触させないように――
「無理だ!」
「な、なに突然」
「いや世の中理不尽が多いなと」
「学校を出てからの数十分に何があったの……?」
であれば、アウラさんたちを『姉的な人物』から『仲の良い知り合い』程度にクラスダウンするか?
にしては俺と彼女らの関係は密接すぎる……
友人という雰囲気でもないしな……
(――っく、もう少しまともな数字がいれば!)
いれば面談など楽勝も楽勝。
アウラさんたちが皆と接触したところで、面談に出てくる必要もなくなる。
まともな方が対応すればいいだけの話なのだ。
(ただ一般的な、常識的な受け答えができるのはボスと、セローナさんと、ボーン……さんは担任が男だから今回はダメだな。あ、ただあの人がいれば――)
自分にとって、アウラさんが身体技能の『師』だとすれば。
あの人は異能技能の『師』であろう。
異能も側は似ていないが、本質的なところでは似通った部分が多かったし。
基本的にとても良い人だ。
ただ世話焼きというか、紳士なんだけれど――
「マイさん、寄って」
「え?」
「俺の方に身体を寄せて」
「な、なに――クレス君――!?」
ただ驚いているようで、すぐに動けない。
よって俺の方からマイさんに近づく形に。
「このままの距離感で学園に向かおう」
「えっと……」
「嫌な予感がするんだ」
「……? わ、分かったけど」
オレがやましい理由で言っているのではないと、理解したいのだろう。
マイさんの表情が驚愕から神妙なものに変わる。
(変に警戒して欲しくないから、嫌な〝予感〟だなんてあえて抽象的に表現をしたけど、奴らはもう近くに――いる)
オレが聞いている『奴ら』かは不明だ。憶測でしかない。
だが不審な者たちが、店を出てから尾行をしてきている。
(普通に考えれば護衛の騎士が近くに居ない。いるのはたかだか学生1人。まだ人の多い通りだから手を出してくるか微妙な線だけど――)
大きな隙を見せれば、十分つけこまれる可能性がある。
やはり俺がキャラブレしてまで、彼女との買い出しに立候補した甲斐はあったようだ。
「クレス君、嫌な予感っていうのは……」
「予感だから根拠も理由もない。ただただそんな気がする」
「……経験ってやつ?」
「そうなのかもしれない。あとしょうが無いけど不安そうな表情はしない方が」
「りょ、了解……」
「万が一戦闘になっても、取り乱さないように。俺の近くにいるのが一番安全だ」
後ろに4人、左右に1人といったところ。
ここまで数十メートルと歩いた結果、たぶん、たぶんだが……傭兵、かなと思う。
雇われた人ってこと、本命ではないと見える。
(様子見……にしては数が多いけど。試しに尾行、もしくは襲うことで、実は護衛騎士が隠れてついていとか。俺が本当は護衛役とか、そういうことを炙り出そうとしているとか?)
分からない。分からないならこのまま学園に帰るだけ。
――なのだが、やはり、少しずつ、少しずつ彼らとの距離が縮まっている。
学園に着く前には、完全に空白は埋まるだろう。
どうする――?
「お困りかな、少年」
俺の行く手に現れたのは――1人の老紳士だった。
貴族風の装いに、クラシックな片眼鏡、白い髪と髭は綺麗に整えられている。
片手に持った『黄金』のステッキが、トンと音を立て大地に立つ。
雑踏に響く細かな音は、不思議とよく鼓膜に届いた。
「く、クレス君、どうしたの立ち止まって? このおじいさん……知り合い?」
「この人は――」
「ふっふっふ。麗しいお嬢さんに名乗るのはワタシの役目でしょう。だがその前に1つ質問をしようかナ」
「――君、黄金は好きかね?」
新作:『聖剣学園の落ちこぼれ~聖剣を失ったが実は最強~』
久しぶりの新作、実力が全ての学園ファンタジーです。
9番目を読んでいる皆さんなら、第1話で何か気づくかもしれません。
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